酷暑も凍らす恐怖の祟り!怨念に満ちた『八つ墓村』を見よ!

(C)1977 松竹株式会社 

戦後昭和の日本映画界を代表する名脚本家・橋本忍氏が今年7月19日に亡くなられました。享年100歳。

『羅生門』(50)『生きる』(52)『七人の侍』(54)などの黒澤明監督作品で名をあげ、松竹作品は小林正樹監督の『切腹』(62)や山田洋次監督『霧の旗』(65)などがあり、また『張り込み』(58)『ゼロの焦点』(61)『影の車』(70)『砂の器』(74)など野村芳太郎監督との名コンビでも知られる名匠でした。

今回はそんな橋本忍・脚本による野村芳太郎監督作品の中でも、もはや酷暑といっても過言ではない今年の夏をも凍らせるほどに恐ろしい怪談ホラー映画『八つ墓村』を紹介します。

ご存知名探偵・金田一耕助の名推理で猟奇的殺人事件を解決するミステリ小説の鬼才・横溝正史の同名原作を映画化したこの作品……って、あれ? もちろん殺人シーンの恐怖などはあるにせよ、これのどこが怪談もしくはホラー映画なの? と特に若い世代の映画ファンの方々は疑問に思うかもしれません。

しかし、1977年の秋に全国松竹系で本作が公開された当時を知る人ならば、誰もが知っているのです。

そう、松竹映画『八つ墓村』は日本映画史上類を見ない、人の怨念と祟りをモチーフにした怪談映画であり、究極のホラー映画なのでした!

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かつて8人の落武者を惨殺した村で
繰り広げられる猟奇連続殺人事件

映画『八つ墓村』は、松竹が当時としては異例の製作費7億円、製作期間2年3カ月を投じて制作した超大作です。

ストーリーは、東京に住む孤独な若者・寺田達弥(萩原健一)をずっと探していたという母方の見知らぬ祖父が、ようやく対面を果たした瞬間に死亡。日頃飲んでいた薬に毒が盛られていたのです。

まもなくして辰弥は、自分が生まれたとされる村を訪れることになりました。

その地はかつて戦国時代、その地に流れ着いた8人の落武者を、恩賞金目当てに村人が惨殺。しかしその直後、首謀者が発狂して自分を含む8人の犠牲者が出て以降、村人たちは、これを落武者の祟りに違いないと恐れ、やがて村そのものも“八つ墓村”と呼ばれるようになっていました。

そして辰弥は、その首謀者の忌まわしき血を受け継ぐ多治見家の跡取りとして迎え入れられたのです。

しかし、彼が八つ墓村に到着してまもなく、謎の猟奇連続殺人事件が……。

原作の時代背景は戦後だったのを、映画では1977年当時の現代に置き換え、都会の若者がおどろおどろしい地方風土の中にいきなり連れてこられて凄惨な体験を強いられていく仕組みにもなっています。

主演の萩原健一は当時のシラケ世代とも呼ばれた若者気質を代弁する人気若手スターでしたが、そんな彼が閉塞的かつ猟奇的な田舎の因習などと対峙させられては「なんで俺がこんなところにいなきゃいけないんだ!」とばかりに辟易していくさまが実にリアル。

また、そんな彼をそっと見守りながら、事件の真相をつかむべく奔走する金田一耕助(原作もそうですが、『八つ墓村』の彼はサブ的存在です)を、ここでは渥美清が『男はつらいよ』シリーズの寅さんとは異なる飄々とした風情で好演しています。

現代が舞台なので、よれよれの着物姿ではなく、麦わら帽子をかぶったおじさんルックでの登場も、渥美清ならではの持ち味を発揮させています。
(原作とは異なる設定ではあるものの、横溝正史はここでの渥美金田一をとても気に入っていたとのことです)

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果たして祟りは、人の怨念は
実在するものなのか?

さて、本作は落武者たちの祟りにおののく村人たちの心理を巧みについた連続殺人事件を描いたもので、公開当時「祟りじゃ~!」と老婆が叫ぶCMも話題を集め、松竹としては昭和の最高配収記録となる19億8600万円を計上する大ヒットとなりました。

また当時はちょうど角川映画『犬神家の一族』(76)大ヒットに端を発する横溝正史ブームの真っただ中で、当然ながら原作ファンも多く映画館に駆けつけたわけですが、彼らは鑑賞しながら皆「?」となっていったのです。

なぜなら……(これ以降はもうネタバレになるので、未見の方はご自身で判断してくださいませ)

この映画、原作とは異なって、祟りを利用した連続殺人事件を描いたミステリではなく、もしかしてこれは本当に祟りによる殺人事件だったのではないか? と観客に思わせてしまうような、いわば怪談ホラー映画としての作りになっていたのです。

これにより公開時の評価は賛否両論真っ二つにもなったのですが、それもまた話題を振りまくことに繋がり、怖いもの見たさでさらなる観客が詰めかける結果にもなりました。

これには『砂の器』で親と子の切っても切れない宿命の絆を描き、『八甲田山』で大自然の猛威に人間が叶うことのない無常を説いた橋本忍ならではの、実は原作にもひそかに内包されていた「果たして人の怨念に、生死を越えての限りはあるのか?」にこそ着目した脚色の賜物でもあったのです。
(つまり、人々が祟りを恐れ続ける限り、怨念は生死を越えて継続していくのだと)

また、ここでの野村監督の演出は、のちのハリウッドのスプラッタ映画顔負けの残酷描写のオンパレードで、特に8人の落武者惨殺シーンや、それから時を経て村の中で再び起きた凄絶なる32人殺しのシーンは圧巻!
(犯人を演じる名優・山崎努の悪鬼のごとき怪演!)

首が飛び、肉が裂け、やがては殺す側のみならず殺される側までもおぞましき夜叉と化していくショッキングな諸描写に、当時は映画館の中で悲鳴が起き、小学生など子どもの観客にはトラウマをもたらすほどでした。

クライマックスからラストにかけての真相解明とともに、背筋も凍る美しく荘厳で恐ろしい画と音の連なりも、もはや見てくれとしかいいようのない、究極の恐怖そのもの!

また、たとえば金田一が調査のために地方を旅する何気ない諸描写でも、あたかも落武者たちの亡霊が彼を見据えているかのような視線が貫かれています。残酷シーンでないところにも、どこかしら背筋を凍らせる怖さがあるのです。

一方では、そういった恐怖を大いに煽ったかと思うと甘美極まりない楽曲を提示する芥川也寸志の音楽、全国各地の鍾乳洞をロケして構築した八つ墓村地下の鍾乳洞シーンの幻想的美しさを捉えた川又昂のキャメラワーク、そして時のオールスター・キャストなど、まさに超大作の貫禄に満ちた作りになっています。

祟りの恐怖をここまで芸術的に、そして格調高く描いたエンタテインメント作品は、他に類を見ないと確信します。

果たして本当に祟りは実在するのか? あなた自身の目で『八つ墓村』をご覧になった上で判断してみてください。

[2018年7月27日現在、配信中のサービス]
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(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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