ナチス・ファシズム台頭の時代が描かれる映画特集!なぜ第二次世界大戦を題材とした映画は多いのか?

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ナチス占領下のノルウェーで、スパイとしてナチスに潜入していた女優の真実を描いた映画『ソニア ナチスの女スパイ』が9月11日(金)より全国公開される。終戦から75年という歳月が経ちながら、近年は第二次世界大戦中を題材にした映画作品が非常に多いと思ったことはないだろうか?そこには奥深い歴史の裏に隠された大きな理由があったのだ。そして現代に歴史系映画を観る意義とは?

今回はその謎を、近年公開の“ナチス映画”を見ていきながら紐解いていく。近年“第二次世界大戦”や“ナチス”を題材にした作品は確実に増えてきている。理由として「歴史ものの映画には一定数のファンがおり、興行的に手堅いから」という製作上の都合はもちろんあるだろう。しかし本件にはもっと根強い理由がありそうだ。

モチーフに変化|歴史的意義・実態から、揺れ動いた「等身大の人間」へ

ドイツ現代史の権威である北星学園大学 経済学部 共通部門 准教授の増田好純氏は、「2010年代もナチ・ドイツに関わる作品の公開が相次いだ。また、作品の舞台もドイツ本国だけでなくその周縁部をも含むようになってきた。北欧に着目した作品はその好例である。このように、ナチズムはなお人々の関心を呼ぶ題材のようだが、近年のタイトルを眺めると、そのモチーフにはひとつの変化が見えてくる。かつてはナチ犯罪を告発する社会派作品が大きな存在感を示していた。明らかにされたナチ犯罪に直面して人々は戦慄し、その解釈をめぐって学界で議論となったこともある。しかし、その後の歴史研究の進展によってナチ犯罪の否定的な評価は定着し、善悪の価値判断を含む枠組みそのものが問われることはほとんどなくなった。いまでは、ナチ犯罪を前提とした上で、当時の人々がそれらとどのように向き合ったか、あるいは共存したのかが問われるようになっている。戦後60年以上を経て、ナチズムもようやく「歴史」になったといえるかもしれない。

こうした変化を反映してか、映画界の関心も、もはやナチズムやヒトラーの歴史的意義・実態のような大きな物語ではなく、「極端な時代」にあって揺れ動いた「等身大の人間」へと帰着してきたようだ。「ヒトラー」をタイトルに冠しながらも、近年、ヒトラーがプロットに一切関わらない作品が多い理由もそこにある。そして、これら「等身大の人々」には、「抵抗運動の英雄」ばかりではなく、私利私欲など多様な理由から、結果としてナチ・ドイツの過酷な政策を支えた占領下諸国の国民も含まれていた。占領下諸国でのナチズムと現地の人々との複雑な関係が認知され、作品のモチーフもまたドイツを超えた広がりを持ち始めたのである。」と分析する。

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第二次世界大戦が終結した後、ドイツはナチ犯罪被害者への補償を支払い続けてきた。それは紆余曲折ありながらも2007年にようやく完済されたという。終戦から長い時間が経ったが、その余波はここ最近まで続いていたというは驚きだ。当時はまさに“極端な時代”だったため、“第二次世界大戦”や“ナチス”は物語の題材としてしばしば多く取り上げられては来た。しかし前述の通り、未だにその被害に苦しむ人が数多くいたため、映画などのエンタメにするのにはかなりシビアな状況だったようだ。内容的にも当時の“実態”“大義”などざっくりとしたテーマが多く、どちらかというと“事実の紹介系”の内容が目立つ印象がある。

しかし増田准教授が言及した通り、今は終戦からさらに時が流れ、第二次世界大戦はようやく“歴史”として受け入れられてきている。“戦争”という大きなくくりではなく、戦争の時代に生きた”人間”にフォーカスした作品が増えてきたというわけだ。そして悲しく暗い作風ではなく、“ナチス映画”でも近年は様々なジャンル、雰囲気の作品が激増してきたのだ。

2015年以降、国内で公開されたナチス・ファシズム台頭の時代が描かれる映画

【2015年公開】
『顔のないヒトラーたち』『ヒトラー暗殺、13分の誤算』『黄金のアデーレ 名画の帰還』『杉原千畝 スギハラチウネ』『ヒトラーの忘れもの』

【2016年公開】
『栄光のランナー/1936ベルリン』『サウルの息子』『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』『手紙は憶えている』『コロニア』
『帰ってきたヒトラー』

【2017年公開】
『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』『ヒトラーへの285枚の葉書』『ハイドリヒを撃て!』『ヒトラーに屈しなかった国王』『少女ファニーと運命の旅』『否定と肯定』『ワンダーウーマン』(原作は第二次世界大戦中に執筆され、ナチスと戦うシーンまで存在する。今年最新作『ワンダーウーマン 1984』も10月2日公開予定)

【2018年公開】
『ヒトラーを欺いた黄色い星』『ネイビーシールズ ナチスの金塊を奪還せよ!』

【2019年公開】
『ナチス第三の男』『ちいさな独裁者』『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』

【2020年公開】

『ジョジョ・ラビット』(1月17日公開)

(C)2019 Twentieth Century Fox 

心優しき10歳の少年ジョジョは空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーの助けを借りながら、ナチスの青少年集団ヒトラーユーゲントで立派な兵士になるため奮闘していた。しかし訓練でウサギを殺せなかったことから、教官に“ジョジョ・ラビット”というあだ名を付けられ、仲間にもからかわれてしまうジョジョ。そんなある日、彼は家の片隅に隠された小さな部屋にユダヤ人の少女が匿われていることに気付く。

『名もなき生涯』(2月21日公開)

(C)2019 Twentieth Century Fox

第2次世界大戦下、ドイツの侵攻とともにナチスの支配下に入ったオーストリアを舞台に、度重なるナチスドイツの従軍指令とその軍門に降った教会の指示に従わず、ひたすらに自分の信念と妻や娘への愛に生き、36歳で殉教した一人の誠実な農夫、フランツ・ヤゲルシタッターの生涯が描かれる。第44回トロント国際映画祭への出品も決定している。

『コリーニ事件』(6月12日公開)

(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

ドイツの現役弁護士作家フェルディナント・フォン・シーラッハの世界的ベストセラー小説を映画化した社会派サスペンス。新米弁護士カスパー・ライネンは、ある殺人事件の国選弁護人を担当することに。それは、ドイツで30年以上にわたり模範的市民として働いてきた67歳のイタリア人コリーニが、ベルリンのホテルで経済界の大物実業家を殺害した事件で、被害者はライネンの少年時代の恩人だった。調査を続ける中で、ライネンは自身の過去やドイツ史上最大の司法スキャンダル、そして驚くべき真実と向き合うことになる。

『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』(7月24日公開)

(C)Tobis Film Petro Domenigg

第2次世界大戦前夜の1937年、オーストリアはナチスドイツによる併合が迫り大きく揺れていた。17歳のフランツ(ジーモン・モルツェ)はタバコ店の見習いとして働くため、自然に囲まれたアッター湖畔からウィーンにやって来る。なじみ客の一人で精神科医のフロイト教授(ブルーノ・ガンツ)と親しくなったフランツは、教授に人生を謳歌(おうか)し、恋をするよう勧められる。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(8月14日公開)

(C)FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB – JONES BOY FILM – KRAKOW FESTIVAL OFFICE – STUDIO PRODUKCYJNE ORKA – KINO ŚWIAT – SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE

かつてヒトラーにも取材したことがあるイギリス人記者ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は、世界恐慌の中でソ連だけが好景気であることに疑念を抱いていた。その謎を探るため単身モスクワへ向かった彼は、当局の監視を避けながら全ての鍵を握るウクライナを目指す。極寒のウクライナにたどり着いたジョーンズは、過酷な生活を強いられ飢えに苦しむ人々を目撃する。

『ソニア ナチスの女スパイ』(9月11日公開)

Copyright © 2019, The Spy AS BR•F, Film i Väst, Scope Pictures, Nordisk Film Danmark – All rights reserved

第二次世界大戦中のナチス占領下のノルウェーで女優として活躍するソニア・ヴィーゲット。ナチスの国家弁務官ヨーゼフ・テアボーフェンは、彼女の人気に目を付けてプロパガンダに利用しようとしていた。その一方でソニアはスウェーデンの諜報部からスパイとしてナチスに潜入することを要請される……。国際的に活躍するイングリッド・ボルゾ・ベルダルがソニア・ヴィーゲットを体当たりの演技で熱演。『ダウンサイズ』(18)のロルフ・ラスゴード、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17)のアレクサンダー・シェーア、『プラネタリウム』(16)のダミアン・シャペルなど、ハリウッドで活躍するキャストが脇を固める。

監督は、長編『The King of Ping Pong(英題)』(2008)でサンダンス映画祭グランプリを受賞したイェンス・ヨンソン。脚本は『ヒトラーに屈しなかった国王』(16)でノルウェー・アカデミー賞(アマンダ賞)の脚本賞を受賞したハラール・ローセンローヴ=エーグとヤン・トリグヴェ・レイネランドが務める。女優として活躍しながらスパイとしてナチスに潜入した実在の女性ソニア・ヴィーゲット。ナチスと闘った彼女を待ち受ける運命とは――。第二次世界大戦の終結から75年。歴史の裏側に隠された驚愕の真実が明かされる。

「人類の経験を私たちが思い出すことはとても意義があること」

このようにみてみると、近年はより多く、そして幅広いジャンルの“ナチス映画”が公開されているのがよく分かる。しかし “第二次世界大戦”を題材した映画はたくさんありながらも、普段あまりなじみがない方も多いのではないだろうか。

そこで“ナチス映画”をこの時代に観る意味について、『ソニア ナチスの女スパイ』の主人公ソニア役を演じたイングリッド・ボルゾ・ベルダルは、「この物語のことを掘り下げていったときに、1980年代に生まれ育った自分にとっては1940年となると1000年も昔の話のような気になってしまっていたけれど、いかに今の時代に近いかということに気づいたのです。色んなイデオロギーとか考え方とか、その流れみたいなものは、現代も当時も共通しているんじゃないかなと。だから、かつて人類がああいう経験をしたということを、私たちが思い出すことはとても意義があることじゃないでしょうか。歴史上、繰り返されてきたそういう破壊行為を繰り返さないために、自分自身を見つめ、行動を改めなければなりません。私にとってこの作品に参加したことはとても意義がありました。最初、この物語は時代が違うし、自分に響かないかもしれなと思っていたましたが、何も分かっていなかったと思います。なぜなら、この物語から私たちは現代と当時についてや、当時の女性についてなど、多くを学ぶことができ、当時の女性がいかに勇気があったかを知ることができたからです。」と語った。
 
彼女が言うように、“ナチス映画”とは史実を基にしているものも多いため、現代に生きる我々こそ、“知っておくべき事”という重要な役割も担っているのだ。幸いなことに、上記のように“ナチス”を題材にした作品を細分化してみると、今は実に様々な切り口の作品があるため、まずは自分の気になる雰囲気の作品から、見始めてみてはいかがだろうか。

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