「3月のライオン」実写版映画が心配でたまらないあなたに、今語ることが出来るいくつかの事柄。

3月のライオン 桐山零 神木隆之介

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

「友田さんがついているから、絶対に大丈夫」

女の後輩 さあ、審判の時が来ました。先輩の愛読書「3月のライオン」が実写映画化されて、その試写を見たんですよね?

先輩 うん、まあな。前編、後編続けて。イッキ見した。

女の後輩 率直なご感想を聞きたいと思いますが。

先輩 オレ、今回は非常に良い経験をした。よく“●●●万部のベストセラー、待望の映画化”とか大々的にアナウンスしているけど、原作が売れていることで、確かに映画の注目度も高まることは間違いない。でも、原作のファンたちにとって、それはどういう意味を持つかを今回、身をもって考えさせられた。TVシリーズのアニメ版と実写映画を並行して映像化するとの発表があった時は、「それは手堅いビジネスだ!」とか思う半面、原作の愛読者としてはそういう方法をとることで、自分の好きなコミックが変な風に世の中に拡散されてしまうんじゃないか?と、この数ヶ月は正直落ち着かなかった。

女の後輩 原作が売れたことで映画化されるわけですが、その映画が原作の内容やイメージを裏切っていると悪い評判が立ち、それが原作の評価をも落としてしまうことは、これまでも時々ありました。

先輩 でも、試写室の椅子に座って、もらった資料を読み出したんだけど、スタッフ・クレジットの「エグゼクティブ・プロデューサー」に友田亮さんの名前を見つけて安心した。友田さんがついていてくれるんだったら、絶対に大丈夫だ!と。

女の後輩 誰ですか?友田さんって?

先輩 「3月のライオン」の、羽海野チカさんの担当編集者だよ。コミックにも「T田さん」というキャラで、ちょくちょく登場するんだけど、そもそもこの友田さんが「ハチミツとクローバー」を描き終えた羽海野さんに「将棋を題材にした漫画」を提案するんだよ。そこから「3月のライオン」が始まった。

女の後輩 担当編集者が、映画のプロデューサーまでやるんですか?

先輩 白泉社はこの映画に出資もしているしね。それと担当編集者という存在は、作品や作家の考えることを、客観的に見たりアドバイスをする立場で、実は作家当人よりもその作品について理解していたりするんだよ。完成までのプロセスを見ているからね。だから羽海野さんと仕事をする中で、「3月のライオン」という作品の、どこがどうしてこうなったか。なぜ羽海野さんがこういう表現をしたか? それは友田さんが一番良く分かっているはずだ。そういう人が映画版にも絡んでくれるのであれば、羽海野さんや彼女のファン、原作の愛読者の気持ちを踏みにじるような映画は絶対に作らないだろうという安心感が湧いてきた。

3月のライオン

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

3つのポイントを基準に評価すると・・・。

先輩 ところで君は、「3月のライオン」のコミックを読んだのかい?

女の後輩 読みましたよっ!! 先輩が読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読め読めってしつこく言うものですから、全12巻読破しましたよ!

先輩 だったら話は早い。映画「3月のライオン」前後編で、僕は3つの点に注目していた。それは、1「ダイジェストになっていないか」、2「将棋バトルの映画になっていないか」、3「原作者のための映画になっていないか」。この3点だ。

女の後輩 ・・・なんか、映画評論家みたいですねえ。今日はいつもより知的に見えますよ。

先輩 いつもの話は、まあいいから。

女の後輩 で、どうだったんですか? まずは1つ目の「ダイジェストになっていないか」からですが・・。

先輩 うん。これは原作が12巻にも渡る長編で、しかもまだ完結していないから、ダイジェストになるのは仕方ない。けどストーリーやシチュエーションの意味合いを維持した上で、たくさん登場するキャラクターを入れ替えていったり。とてもデリケートな脚色をしているのは感じたな。

女の後輩 肝心なことは、どの部分を映像化することでしょうね。映像として表現出来る部分のほうが、圧倒的に少ないでしょうから。

先輩 2つ目の「将棋バトルになっていないか」という点は、将棋というのはこのコミックにとって、重要な要素なんだけど、でも将棋バトルを描きたかったコミックではない。将棋という勝敗がはっきりした勝負に、主人公たちの人生を準えている。いわば将棋とはモチーフなんだと思う。

女の後輩 で、映画ではどうなっていたんですか?

先輩 うん。これはつまり将棋バトルが映画の中心になっているというか、その存在感が大きくなっていた。

女の後輩 じゃあ、ダメじゃないですか。

先輩 ダメではないんだ。戦いを映画の中心に置くことで、作品として筋が通る。

女の後輩 最後の「原作者のための映画化になっていないか」という、これはどういう意図で挙げたんですか?

先輩 昨今映画を作る際、原作者と映画のクリエイターたちとの間で、不協和音が聞こえて来たり、意思の疎通がうまく行かなかったり、あるいは原作者が蔑ろにされていたりとか、そんなことが頻発していると聞く。

女の後輩 原作者は出資者じゃないから、存在が軽んじられているのならば、それには大反対です。かといって、映画のクリエイターたちの障害になるような言動もすべきではない。やはり原作と映画は、別物だと思いますから。

先輩 だからそういう視点で「3月のライオン」がどの程度羽海野チカさんの原作を尊重したかといえば、パッと見“これは違うじゃないか!?”と批判されるかもしれない。というのは、羽海野さんの作品を彩る可愛いキャラクターとか、楽しいやりとりがあまり見られないから。

3月のライオン サブ1

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

「職業」「人生」「才能」の3つが意味するもの・・。

女の後輩 羽海野さんの原作をそのままストレートに実写映画化しただけではないことは分かりました。

先輩 原作をキチンと反映しているのは、新房昭之監督とシャフトによるアニメ・シリーズで、こちらはNHKでオンエア中。君の好きなニャー将棋もふんだんに登場するぞ。

女の後輩 じゃあ、実写版映画で大友啓史監督が描いていることって何なんですか?

先輩 「3月のライオン」だよ。ただし、さっきも言ったように、コミックにある色々な要素を排除することで、より羽海野さんの考えの本質に迫ったと言えるだろうな。

女の後輩 でも、将棋バトルもあるわけだし、ストーリーがダイジェスト的になっても原作を踏襲しているわけで・・。

先輩 そのあたりは、見てのお楽しみ。ひとつだけ言っておくと、プロデューサーたちは「職業」「人生」「才能」。この3つが羽海野チカ作品の根源にあり、その3つに真正面から向き合おうとする者たちの葛藤と覚悟を描いたと言うんだよ。

女の後輩 「職業」「人生」「才能」・・・。

先輩 「ハチミツとクローバー」もそうだったけど、「3月のライオン」って、まさにニャー将棋とか、ユニークなキャラが登場するけれど、本質的にはとても厳しいことを言っているコミックなんだよ。全巻読んだんだったら気づいただろ?

女の後輩 いえ、私は・・・すんません。もうひと通り熟読しますっ!!

3月のライオン サブ4

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

あらゆる原作もの映画のお手本になるような作品。

先輩 だからルックスこそ違和感があるかもしれないけれど、まさしくこれは「3月のライオン」で、本質的な部分は原作を全面的に踏襲している。将棋バトルという形で、主人公・零の戦いを、より緻密に描いているからね。まさにそれが「戦う者たち」のドラマである所以だ。

女の後輩 大友監督は、これまでもコミックの映画化を何本も手がけていますよね。そういう経験を経て、今回のような映画化の方向性を決めたのでしょうか?

先輩 そうだろうけど、それは羽海野さんと話し合ってじゃないかな。もしかすると、羽海野さん自身がこういう映画化を望んでいたかもしれないよ。彼女が映画化に当たって出したオーダーというのが、「シナリオをじっくりと練ること」だというから。

女の後輩 バトルムービーになっているわけですね。

先輩 前編はね。後編はまた内容が違うけど。とにかくただ原作の表面だけをなぞっただけでなく、その魂の部分にまで踏み込んで、それを自身の作品として完成させた大友監督の手腕の凄まじさを感じさせるよ。コミックのみならず、あらゆる原作もの映画化は、こうなってもらいたいね。

女の後輩 あれ?先輩、「3月のライオン」について、映画と原作はここが違うっていう、そんなコラムを書くって言ってませんでしたっけ?

先輩 ああ。前編の上映が始まったら書くかもしれないけど、シナリオと映画を比べても、かなりの部分が異なっているんだよ。現場でもシナリオを練っていたんだろうね。まあそのあたりは、いずれ機会を見て。とりあえず前編を見ておいで。

女の後輩 ははっ!!

(企画・文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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