第42回日本アカデミー賞で起こったこと

結果としてはさすがというべきか当然というべきか『万引き家族』が8部門で最優秀賞を受賞しました。是枝裕和監督は昨年も『三度目の殺人』で6部門を受賞していて、複数の部門で二年連続受賞となりました。

監督賞に至ってはプレゼンターとして登壇したうえで自分の名前を読み上げることになりました。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro. 

日本アカデミー賞では複数回の受賞者は多いのですが、二年連続というはなかなかいなくて、さらに自分で自分の名前を読み上げるとなると第20回➡第21回『Shall we ダンス?』➡『うなぎ』で最優秀主演男優賞を受賞した役所広司以来の出来事になります。

『万引き家族』が実績通りの結果を残す一方で、白石和彌監督作品の『狐狼の血』が主演・助演の男優賞を含む4部門で最優秀賞を受賞するという大健闘を見せました。

©2018「孤狼の血」製作委員会

『狐狼の血』はかつてヤクザ映画で一世を風靡した東映が久しぶりに製作した同じジャンルの映画でした。このジャンルについては一時期は東映とイコールで結んでもいい状況でしたが、時代の流れでいつしか忘れられたジャンルとなりました(Vシネでは生き残りましたが…)。

その一方で北野武監督がハリウッドメジャーのワーナ・ブラザーズと組んで『アウトレイジ』シリーズを作りました。

そんな中で、このジャンルは東映が作らねば!!という思いから作り上げたのが『狐狼の血』でした。大ヒットというところまではいきませんでしたが、すでに松坂桃李が出演する続編の話もあり、今回の受賞はその流れを加速させてくれることでしょう。

日本アカデミー賞とは?

日本アカデミー賞は1978年に本家のアメリカアカデミー賞から正式に暖簾分けされて創設されました。

アカデミー賞の暖簾分けは結構行われていて複数の国と地域でそれぞれのアカデミー賞が創設されています。たいていの場合は本家の前に行われ、前哨戦や本家の外国語映画部門の自国の代表が選ばれたりするものですが、最近の日本アカデミー賞は時期が逆転して本家の発表の後になっています。

一時期まで一部の映画人や芸能事務所単位でノミネート辞退者が出たり、ビッグネームに票が偏ったりとその結果についてはいろいろ勘ぐった意見も出てましたが、近年は投票行動もノミネート者の在り方も健全化が進みつつあります。

私も2012年度に一年間だけ民間参加枠で日本アカデミー賞会員を務めたことがありますが、その時と比べても幾分風通しが良くなったイメージがあります。
ちなみにこの年は『桐島、部活やめるってよ』が作品賞と監督賞を受賞しました。

大手映画が強いって本当?

2018年の会員所属内訳を見てもわかる通り、邦画大手(東宝・東映・松竹・KADOKAWA)に所属している会員が多く、大手の作品に賞が集まると言われています。

実際に受章作品の歴史を見ると独立系では第4回の鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』が独立系作品の最優秀作品賞受賞第一号と言われていますが、これは黒澤明監督の『影武者』(東宝)が辞退したというのが大きな理由とされています。

その後は第8回の伊丹十三監督の『お葬式』が独立系のATG(アート・シアター・ギルド)から、第19回の新藤兼人監督『午後の遺言状』が日本ヘラルドから、第30回の『フラガール』がシネカノンから、第36回の『桐島、部活やめるってよ』がショウゲートからそれぞれ発表され最優秀作品賞にまで上り詰めました。

多少の拡大解釈をして、カウントしてみても独立系の作品は全体の1割程度なので、大手が強いと言われても仕方がないのかもしれませんね。

ただ、近年は王手と並ぶ形で独立系の会社が制作や配給に名前を連ねているケースも多いのも事実で『海街diary』と『三度目の殺人』はともに東宝とギャガが製作した映画です。

そして『万引き家族は』ギャガが製作・配給した映画です。

最多受賞作品は第20回の『Shall we ダンス?』が13部門で、それに続いて第26回の『たそがれ清兵衛』が12部門を獲得しました。前者はハリウッドでリメイクされ、後者は本家アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされました。

最優秀アニメーション作品部門が無かった第21回と第25回で『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』というスタジオジブリ作品がそれぞれ並みいる実写作品を抑えて最優秀作品賞しました。その後、2007年からアニメーション作品賞が新設されました。

賞ということもあってどうしてもドラマ作品が有力候補になりますが、時には第40回に7部門を獲得した『シン・ゴジラ』のような作品もあります。

最注目ポイントは新人俳優賞と話題賞

日本アカデミー賞にあって本家に無い賞に新人俳優賞と作品部門と俳優部門に分かれている話題賞があります。

審査基準が曖昧な部分もある賞ですが、新人賞を見るとその後の演技部門の常連が誕生していることもあります。

また、あくまでも映画出演歴で見て新人であればいいので他の芸能活動でキャリアを積んでいても新人扱いされるのもの面白いですね。

実際に『たそがれ清兵衛』の田中泯(舞踏家として60年代から活躍)の『陰陽師』の野村萬斎(狂言師として3歳で初舞台)が新人扱いになったりもします。

話題賞は今年本家が創設しようとして失敗した“人気映画賞”に当たる賞です。創設されたのは第三回の1980年からでした。

今年は作品部門に『カメラを止めるな!』が、俳優部門が伊藤健太郎となりました。

 (C)ENBUゼミナール 

(C)2018「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会 

この話題賞は他の賞と違ってニッポン放送のリスナーが投票して選ぶ賞です。

そのためいわゆる“ブーム”になった作品(最優秀作品賞になりにくいその年の代表作)が選ばれる傾向になりますます。

ちなみに過去の受賞作品には『新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを、君に』や『リング』、『バトルロワイアル』、『踊る大捜査線THEMOVEI2レインボーブリッジを封鎖せよ』『るろうに剣心京都大火編/伝説の最期編』、『君の名は。』などが選ばれました。

昨年は『君の膵臓をたべたい』と菅田将暉でした。時には『フラガール』や『桐島、部活やめるってよ』などのように作品賞とW受賞することもあります。
俳優部門で選ばれた俳優がニッポン放送の人気番組オールナイトニッポンのパーソナリティーを務める特別番組が放送されるのも定番になってきました。

台風の目『カメラを止めるな!』が受賞しないわけ

何と言っても今回の台風の目は社会現象となった“カメ止め!”でしょう。

(C)ENBUゼミナール 

映画監督・俳優の養成学校ENBUゼミナールのシネマプロジェクトの作品の一環として都内の二館のミニシアターで公開された本作は、SNSを中心に大きな話題となり最終的に200万人以上の動員と30億円以上の興行収入を記録しました。

ここまで盛り上がるとさすがに誰も無視できず、評価するかしないかについてもしっかりとした態度が求められるようになりました。そんな中で日本アカデミー賞は10部門の優秀賞を贈りました。

しかし、繰り返しになりますが『カメラを止めるな!』養成学校のプログラムの中での作品です。

つまり作品に勢いや俳優の熱演は確かにありましたが、“技術的な面を評価する”ことを前提にした賞ではプロと王手による作品と比べることはそもそもナンセンスな部分もあります。

そこでよくよく、特に技術部門の賞では『カメラを止めるな!!』は優秀賞を自体を受賞していない部門もあります。

結果として、当然といえば当然ですが、10部門の内、最優秀賞を受賞したのは上田監督の編集賞だけに終わりました。改めて、『カメラを止めるな!』はテクニックではなく熱量で勝負した作品だったことがわかります。

賞の新設はなるか?

監督賞を受賞した是枝裕和監督が壇上で、提言として衣装部門の新設を訴えました。2012年に私が出席した授賞式でも同じような意見が出たことを思い出しました。

時代劇という日本映画には欠かせないジャンルもあることですし、衣装についての賞が新設されてもいいではないかと思います。

1985年黒澤明監督の『乱』で本家アカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞したワダ・エミ。彼女は、その後も海外で高い評価を浴び、多くの受賞歴もありますが、残念ながら映画の衣装デザイナーとして国内の大きな映画賞で受賞したことがありません。

特に日本アカデミー賞は本家のアカデミー賞に倣って“表舞台に出ないスタッフにもスポットライトを当てる”という本来の目的のためにしっかりと技術部門(音楽・撮影・照明・美術・録音・編集)を制定しています。

現状、美術部門にカウントされているようですが、衣装と美術を一緒にしてしまうのは、やはり乱暴に感じます。

今回は是枝監督のコメントとして大きく取り扱われているので、話が前に進ことを期待したいですね。

今年は『万引き家族』中心の賞となりましたが、男優部門に『狐狼の血』が食い込むなど、“攻め”の部分も感じました。また『カメラを止めるな!』に最優秀賞は贈らないというところも矜持を保ったなと思います。相変わらず故人の受賞率が高いと思いつつも主演女優賞に『北の桜守』の吉永小百合ではなく『万引き家族』の安藤サクラを選ぶなど、例年に比べて見ていて楽しい日本アカデミー賞授賞式となりました。

(文:村松健太郎)

関連記事

大傑作『万引き家族』、松岡茉優の谷間に見とれる祥太に男の成長を見た!
『カメラを止めるな!』を絶対に観るべき8つの理由!ゾンビ映画最高傑作にして大感動ファミリー映画だ!
『孤狼の血』は“誰が観ても面白い”最高のエンタメ・ムービーだ!ヤクザ映画初心者にもオススメしたい5つの理由


    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事

    WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com