『娼年』松坂桃李の究極の濡れ場は必見!あのクラブが摘発された理由とは?
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
2001年の直木賞候補となった石田衣良の同名小説を、2016年夏の舞台化に続いて同じ三浦大輔監督、松坂桃李主演で完全映画化した『娼年』。役者が一糸まとわぬ姿で演じる激しい性描写が話題となった舞台版に続き、松坂桃李が再び主役を演じ全裸で激しい濡れ場に体当たりで挑んだことでも話題の本作を、今回は公開二日目夕方の回で鑑賞して来た。残念ながらR18指定のため上映館数も限られているのだが、それでも数多くの女性が来場されていたのが印象的だった本作。果たして、その衝撃の内容とは?
ストーリー
主人公の森中領は東京の名門大学生。日々の生活や女性との関係に退屈し、バーでのバイトに明け暮れる無気力な生活を送っている。ある日、美しい女性がバーに現れた。女性の名前は御堂静香。「女なんてつまんないよ」という領に静香は"情熱の試験"を受けさせる。それは、静香が手がける会員制ボーイズクラブ、「Le Club Passion」に入るための試験であった。 入店を決意した領は、翌日から娼夫・リョウとして仕事を始める。娼夫として仕事をしていくなかで、女性ひとりひとりの中に隠されている欲望の不思議さや奥深さに気づき、心惹かれ、やりがいを見つけていく領だったが・・・。(公式サイトより)
予告編
いきなりの激しい濡れ場に、心の準備が追いつかない!
いや、確かにこの内容は想像以上だった!
映画が始まっていきなりの激しい濡れ場に、一瞬観客は、入るスクリーンを間違えたか?と思いかねない本作。正直ここまで激しい濡れ場を、全く逃げずに正面から描き切るとは思っていなかったので、自分も思わず周囲を見渡してしまったほど。
過去にあった様な同傾向の映画なら、性描写の一番激しい部分や、かっこ悪い部分を省略して、事が終わった後のベッドの中の二人の描写に切り替えるなど、もっと楽で腰が引けた内容になっていたはず。
ところが本作では、原作小説のイメージをこれでもかと膨らませ、我々観客に対して「濡れ場の千本ノック」を挑んで来るのだ!
冗談抜きで上映時間の半分以上は濡れ場なのでは?実際その様な感想やレビューがネットに並ぶ本作。前述した内容から、ともすれば興味本位の目で見られがちだが、実は決して濡れ場だけが見所の内容にはなっていない。むしろ、その奥に隠された女性にとっての幸福と主人公の成長の物語は、女性の方にこそオススメの内容だと言えるのだ。事前情報やネットのレビューなどから、ちょっと劇場に観に行くのはハードルが高いと感じている方も多いだろうが、絶対に劇場へ足を運ぶ価値はあり!と断言出来る本作。その素晴らしい物語と衝撃の内容は、是非ご自分の目でご確認を!
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
映画版をより深く楽しむには、原作小説を読むのがオススメ!
今回の映画化においては、細かい部分で原作小説との違いが存在する。例えば、映画版では主人公の領が客として出会う女性の人数が減らされていたり、領が泣くのを押さえきれず静香の肩を借りるシーンが映画版と原作では舞台となる場所が違う点など、必ずしも原作の雰囲気を壊すものでは無いのだが、原作ファンの方のレビューを読むと、やはりその辺りの細かい変更が気になった様だ。
確かに登場する女性の人数が減らされている分、江波杏子演じる老婦人のセリフや設定に、原作に登場するバイオリニストの女性の物が加えられていたりするのだが、映画の上映時間が限られている以上、こうした省略や変更は仕方が無いところだろう。
その他にも、リョウの父親の存在が匂わされている点や、クラブで仕事をしていた間にリョウがどれだけ稼いでいたかが判明するなど、実は原作にあって映画では省略されている部分は意外と多い。
中でも原作小説との一番の相違点であり、映画版を観ただけでは理解し難い部分、それは領の勤めるボーイズクラブが警察に摘発を受けた理由だろう。実はこの摘発は、領の大学のゼミの同級生である恵が通報したためであることが、原作小説では描かれている。
だが、映画版では彼女と領が和解して良い友人関係に戻る、という内容に変更されているため、突然クラブが警察の手入れを受けたことになってしまい、観客に唐突な印象を与える結果となったのは非常に残念だった。この部分に関しては、原作の方がより女性の複雑さと怖さを表現している様に感じたと言っておこう。
加えて、原作ではリョウがさらに深くこのビジネスに関わっていく様子も描かれており、実はその部分がラストシーンに大きく関係することになる。そのためか、映画版のラストの展開はやはり唐突な印象が強く、何故クラブが再開されたのか?そしてあの肖像画の意味は?と思われた方も多かったようだ。
その部分をここで説明するのは、これから映画をご覧になる方のために控えさせて頂くが、気になる方は三部作となる原作小説の第二部に当たる「逝年」のあらすじを、是非ネットで探して読んでみて頂ければと思う。
もちろん、原作未読でも映画単体として楽しめる本作だが、前述した通り細かい部分で微妙に違っているため、鑑賞前に予習として原作を読まれた方が、本作をより深く理解出来るかも知れない。
果たして領と静香・咲良たち3人は今後どうなって行くのか?彼らのその後の物語を知りたい方は、是非この機会に原作小説の世界にも触れて頂ければと思う。
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
実は主人公が女性を受け入れ理解するまでの物語だった!
幼い頃に突然母親を亡くした主人公の領。「温かくして、いい子でいてね」という母親の最後の言葉を守り、自身の内面を押さえて女性と深く関わらないでいる彼だが、実はその内には相反する感情が渦巻いている。
つまり、自分が悪い子だったから母親が帰って来なかった、だから良い子でいなければ、という想いと、母親に見捨てられた自分は女性には受け入れられない存在、つまり存在価値の無い人間では?という想いだ。後に彼が男娼としての道を選択したのも、自身の価値を具体的に金額で認められたからであり、この業界で果たして自身の価値はどう評価されるのか?そこに興味を抱いたからの様に見える。
こうして、子供の頃の体験から、もともと年上の女性に抵抗が無かったリョウは、仕事とはいえ数々の年上女性との体験の中で次第に相手への興味を持つようになり、相手の秘められた欲望や願望を満たすことに喜びを感じるようになっていくのだが・・・。
女性に対して無関心で軽蔑さえ抱いていた領が、仕事を通して様々なコンプレックスや欲望を内に抱える客の女性たちに出逢い、ついには女性という存在に正面から向き合い理解しようとするまでに成長して行く。
実は、それこそは母親に認められることの代償行為であり、自分よりも年上の女性=母親からの承認を得ることで、自身が価値ある存在だと再確認することに繋がるのだ。
「人は他人から必要とされることで、初めて自身の存在を実感することが出来る。」
そう、本作での過激な性描写は、言わば領にとっての女性とのコミュニケーション手段であり、本作が一人の青年の成長の物語に託して描こうとしているのは、「多様性」と「他者とのコミュニケーション」という、近年公開された多くの映画に共通する重要なテーマに他ならない。
今回の映画版は三部作となる原作小説の一作目の内容であり、言わば領という青年の成長の入り口の物語でもある。
その成長のきっかけを与えてくれた女性との関係が、ある理由によりプラトニックなままで終える点も、本作が過激な性描写にも関わらず鑑賞後に爽やかな余韻を残す要因と言えるだろう。
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
勇気ある出演キャスト陣の演技が素晴らし過ぎる!
ここまで過激な性描写と内容では、きっと出演可能な女優も限られたはずの本作。だが、その高いハードルを越えて集められたキャストだけに、個性豊かな登場人物たちがSEXにより自己を解放して幸福になるまでを、見事に自身の裸体で表現した本作の女優陣の演技はどれも素晴らしい!
中でも舞台版に続き出演した江波杏子の存在感と、まさかのあの演技には驚いた!
実は原作では江波杏子演じる老婦人は1回きりの登場なのだが、彼女をラストで再び登場させることで原作とはまた違った余韻が生まれ、主人公が仕事としての関係を越えて、女性達との精神的な繋がりを得たことが観客に伝わるのが実に上手い。
実は女優陣だけでは無く、男優の演技にも是非注目して頂きたい本作。主演の松坂桃李の男女を問わない濡れ場への挑戦は言うまでもないが、何と言っても本作の見所は、熱海のエピソードで登場する年の差夫婦の泉川を演じた西岡徳馬のあの演技に尽きる!実は観客が驚いたあの部分は、原作には無い映画オリジナルの描写なのだ。そのため下手に演じると観客の失笑を買い、原作ファンにとっても「余計なことをするな!」となりかねない難しい部分なのだが、西岡徳馬の演技力により前代未聞の名シーンとなっているのはさすが!
そう、文字通り松坂桃李と「息の合った」その名演技は、二人の男優魂が火花を散らす名シーンとなっているので、是非劇場で!
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
最後に
今回はR18というレイティングのため上映劇場も限られるなど、鑑賞へのハードルが若干高くなってしまっている本作。だが、その内容は絶対に劇場で観るに値するものだと断言出来る。
確かに映画の冒頭から展開する激しい濡れ場には、最初は目のやり場に困るほど戸惑うのだが、その濡れ場の裏側に隠された本当のテーマが次第に明らかになるに連れて、主人公の領と一緒に観客の意識も変化して行くことになる。
過去のトラウマから女性に対して無関心だった領が、男娼という仕事を通して女性たちの内面を知ることで、女性という生き物に興味と感心を持ち、自身のトラウマとも向き合って克服していく過程を描く本作。
本作で領の客として登場する女性たちは、皆自分の中に秘めた本当の欲望を抱えながら生きている。周りの人間にはとても打ち明けられないその欲望を隠して生きることは、常に仮面を付けて生活する様なものだろう。そんな彼女たちがこのまま仮面を被って日常を生き続けるための息継ぎ・避難所として、領の仕事が必要とされるのだ。
彼女たちが真の姿をさらけ出して自分の心の重荷を下ろすには、相手が自分のことを知らない行きずりの他人であることが重要となる。何故なら、もしもその真の姿を拒絶された時に、自身が傷つくリスクが少なくて済むからだ。
心の中では周りの人々に受け入れられたい、そう思っている彼女たちだからこそ、普通の男である領が自分の欲望を受け入れて満たしてくれることで、心の平穏を得て再び自身の日常へと戻って行けるのだ。
そう、本作が激しい濡れ場を展開しながらも、鑑賞後にどこか爽やかな余韻を残して終わるのも、実はこの映画が性を通して女性が解放され幸せになって行く姿を描いているからなのだろう。
これから本作をご覧になる方は、どうかその激しい性描写の裏側に隠された真のテーマを、是非感じ取って頂ければと思う。
(文:滝口アキラ)
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