ほかの映画では見られない表情を切り取った─『悪と仮面のルール』中村哲平監督インタビュー

1月13日(土)からロードショー公開される『悪と仮面のルール』は、中村文則の同名小説を、玉木宏主演で映画化。主人公の久喜文宏が、純粋悪となることだけを望まれて生まれた“邪”として存在する自身への葛藤と、初恋の女性・香織への想いを抱えて揺れ動く心情を描いています。

監督は、ロサンゼルス渡米後、数々のCM・MVや関ジャニ∞出演の長編映像作品『8UPPERS』などを手がけた中村哲平氏。13年に米紙ウォールストリート・ジャーナルのミステリーベスト10に選ばれた話題作を映像化するにあたっての、こだわりや監督自身の映画製作への思いを聞きました。

──原作の空気感を再現するということに関して、具体的にどういうところを意識されたんでしょうか?

中村哲平監督(以下、中村監督):光の描写、空間の描き方をこだわりました。小説の通りに表現するには“場の力”が必要だったので、ロケハンは徹底的にやりました。映像に映るものすべてにこだわってつくったので、装飾部と美術部とも話し合いを重ねて、部屋に置くものひとつ選ぶだけでも、その登場人物のバックボーンをみんなで話し合って、相談しながら決めていきました。

例えば、伊藤(吉沢亮)だったら、“水”をモチーフにして、彼が映るシーンには必ず“水”を使った表現を入れています。JL(伊藤が所属するテログループ)のアジトには水のタンクがあったりして…。あとは彼はいつも水を持ち歩いています。

水は“浄化”というイメージで取り入れました。“邪”として生まれた伊藤が、自分を変えたいと思っている、そのモチーフとして水を用いたのですが、一度汚れてしまった水はそう簡単には綺麗にならない。そういうジレンマも含めて、水を通して伊藤と言う人物を描いたつもりです。ちなみに、新谷(整形後の文宏/玉木宏)と伊藤が初めて会った高架下のところも、ベンチの後ろに水があるんですよ。

──それは気がつきませんでした!

中村監督:あれは見えないんで(笑)。でも、見えるところに関してはすべて意味を持たせています。終盤、文宏と伊藤が会話する川辺。すごく汚れているんですが、“邪”として存在する彼らが、それぞれの正義をもってやったこと…その結果があの川なんだとしたら…、という視点で見てもらいたいですね。彼らが背負っていくべきことを水で表現して、背後に置きました。

──伊藤における“水”と同じく、文宏に関しては、タバコがシーンごとに印象的に用いられていますね。

中村監督:それは僕以上に、玉木さんがこだわっていたところでもあります。文宏は相手側のセリフを聞いて受ける芝居が多かったので、その間を埋めるために「タバコというツールを使うのもアリなんじゃないか」という提案でした。

それを受けて玉木さんから、「感情を表現するツールとして使うというのはどうか」と意見があって。それなら、このシーンは吸ったほうがいいとか吸わないほうがいいとか、そういう話し合いは結構しました。撮影よりももっと前のリハーサルの時点で入念に話し合いを重ねていたので、本番で迷うことはありませんでした。

──リハーサルでの話し合いと言うのは?

中村監督:具体的な芝居に関することではなく、イメージの問題です。それぞれ皆さん原作は読み込まれてきているわけですから、それをどう感じたのかを意見を言い合って近づけていく感じ。登場人物のバックボーンや持っている感情に対する意見を出し合いました。

本来、リハーサルもしたくないんですよ。役者も人間ですから、一発目で出る表情が本物の感情表現だと思うんです。できることなら、それをリアルに撮りたいけど、皆さんプロだから、二度目、三度目でもきちんと嘘を本物に考えて表現してくださる。編集の上でも、全編一発撮りは難しいし、それを求めても仕方ない。だから、撮影よりももっと前にきちんと時間をとってリハーサルをして、本番はもう撮るだけにしておきたいんです。

本番の2週間くらい前にリハーサルをして、準備を固めて本番を迎えるようにしています。2週間くらい空いてるので、本番一発目の表情もすごくフレッシュに撮れますし。

──撮る直前にはリハーサルはやらないんですか。

中村監督:やらないです。カメラチーム的に必要であればブロッキングくらいはやりますけど、セッティングしたらそのまま撮りたいです。お互いの人間関係や感情的なものがきちんと理解できていれば、それ以上にリハーサルは必要ないと思っているので。実際の人生も一発本番、二度目はないですからね。

──助演の方々も強烈な印象を残しました。久喜幹彦を演じた中村達也さんなんて、もうめちゃくちゃ怖かったです。

中村監督:あれは芝居で出せる域を超えていますよね。他の人に同じようにやってくれと頼んでも絶対にできない。中村さんが生きてきた人生があってこそ、投影できるものがあったと思うし、セリフがなくても成立するくらいの迫力があった。

犯罪者側の心理って、実際の新聞などの記事では伝わってこないけど、何か本人なりの理由があって、殺人とかそういう罪を犯してしまったんですよね。僕らはそれを想像して分析することしかできないけど、幹彦ってそういうものすら超越している。僕らがどうやったって分析できないところにいる。じゃあそれをどうするか、っていう話を中村さんとしましたね。

──会田刑事役の柄本明さんにも異様な不気味さを感じました。

中村監督:柄本さんに関しては、リハーサルもしなかったんですよね。衣装合わせの時に、人物像を話し合って。あとは柄本さんが作ってきたものを見せもらう感じで。もう、それが最高だったので。

──文宏の少年時代を演じた板垣李光人君も、難しい役どころだったと思いました。

中村監督:オーディションで選ばせていただいたんですが、本当は板垣君みたいなイケメンにお願いするつもりはなかったんですよ。あんまりイケメンすぎてちょっと戸惑ったんですけど、でも単純に芝居がよかったので。

整形した後の文宏を演じる玉木さんもイケメンだから、整形前のギャップを感じさせるためにも、文宏が持つ自己嫌悪みたいなものを投影するためにも、本当はイケメンじゃないほうがよかった。でも、その気持ちに抗うほどのいい芝居を見せてくれて。香織とのキスシーンもリハーサルなしで本番一発目のものを使ってます。すごくいい映像が撮れましたね。

──本作が監督の長編デビュー作となりますが、苦労する面はなかったのでしょうか?

中村監督:役者に関しては全くなかったです。事前に登場人物の心情面を話し合って落とし込んで、それを本番でカメラの前に出すという作業を皆さんきちんとやってくださったので。これを撮っている間は本当に幸せでした。お酒も夕食も絶って、1か月これ一本に集中して臨みました。

──お酒は分かりますが、夕食を抜くのは?

中村監督:すみません、それは単純にダイエットでした(笑)。でも、この作品を撮ってみて改めて実感したこともあります。僕は映画を撮るうえで、映像にこだわってしまう部分もあるけれど、それって映画においては一部分でしかなくて…。

観客が映画を見て何に感動するかって考えるとやっぱり役者の芝居なんだってこと。どんなに環境を整えていても、役者の感情が本物でなかったら、視聴者には何も与えられない。逆に言うと、役者の感情さえ本物だったら、どんな環境でも視聴者に感動は与えられると思うんですよ。

そういう意味で、今回の映画を撮れてよかったと思うのは、それぞれの役者さんの新たな一面を切り取れたんじゃないかなということ。

玉木さんはもちろん、新木(優子)さんや、吉沢君もそう。それぞれの他の映画では見れない表情を、自分なりのフィルターで切り取れたと思います。それは自信を持って言えますね!

──確かに、文宏を演じた玉木さんの凍るような冷たい表情は必見です!

映画『悪と仮面のルール』は1月13日(土) より、新宿バルト9ほか全国ロードショー。

中村哲平(なかむら・てっぺい)

1979年8月18日生まれ。日本の映画学校を卒業後、単身渡米し、ロサンゼルス・シティ・カレッジのシネマ科を卒業。以降、『A LITTLE STEP』(2009)、『8UPPERS』(2010)、『UVERworld DOCUMENTARY THE SONG』(2012)、『ZEDD』(2014)などの監督を務める。

http://akutokamen.com/

(C)中村文則/講談社 (C)2017「悪と仮面のルール」製作委員会

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    映画好きのライターです。ジャンルは洋画邦画問わず、ロードショーもの、単館系、ホラー、恋愛、友情、アクション、ファンタジー、アニメ、何でも見ます! お気に入りの映画は『仮面の男』『モンド』『バーレスク』『パーマネントのばら』『飛ぶ教室』『鑑定士と顔のない依頼人』『パンズラビリンス』『女の子ものがたり』『イノセント・ガーデン』『母なる証明』『王の男』『私が、生きる肌』などなど…最近だと『五日物語』が面白かったです!

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