『#生きている』がコロナ禍を反映した傑作ゾンビ映画である「3つ」の理由!

第25回:『#生きている

今回ご紹介するのは、9月8日からNetflixで配信が開始された韓国映画『#生きている』です。

韓国では6月24日に公開された新作映画ですが、残念ながら日本では劇場公開されず、Netflixでの配信となってしまった本作。

マンションの別々の棟に取り残された男女が、”生き延びる”という共通の目的のために協力しながら、押し寄せるゾンビの群れに立ち向かうという内容には、もはや期待するしかないのですが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー

いつものように眠りから覚めたオ・ジュヌ(ユ・アイン)は、謎のウイルス感染によって人間がゾンビと化した事実を知る。ゾンビ化したマンションの住人たちから隠れて、自分の部屋に立てこもるジュヌだったが、次第にネットやスマホ、水道などのライフラインが途絶え、外部の情報も得られないまま孤立してしまう。
ついに食料もなくなり、やっと繋がったスマホの音声メッセージによって家族の状況を知ったジュヌは、絶望から自分で命を絶とうとする。だがその瞬間、マンションの向かいの部屋の生存者キム・ユビン(パク・シネ)が送ったシグナルに気付き、自殺を思い留まる。
自分以外にも生存者がいることを知ったジュヌは、共に生き残るための方法を探しに、ゾンビが溢れる部屋の外へと出て行くのだが…。

理由1:観客を引き込むスピーディな展開!

謎のウイルスにより人々が凶暴化していることを、スマホの緊急速報で知ったジュヌが窓の外を見ると、すでにゾンビの群れが人々を襲っているという、非常にスピーディな展開で幕を開ける本作。

学校にも行かず、昼間からオンラインゲームに夢中になっていたジュヌは、この非常事態にも全く気付かずにいたのですが、隣の部屋に住むサンチョルが助けを求めて逃げ込んできたことで、やっと事態の深刻さに気付くことに。

すでにゾンビ化した兄に噛まれていたため、ゾンビに変貌して襲いかかってきたサンチョルを部屋から追い出したものの、完全に逃げ遅れたジュヌは部屋から出られなくなってしまいます。

この絶望的な状況でも、普段の習慣通りオンラインゲームを楽しむジュヌでしたが、スマホの通信に続いてマンション内のWi-Fiも途絶え、更に女性警官がゾンビの群れに襲われる光景を目にしたジュヌは、スマホに届いていた「生き延びて」という母親からのメッセージを心の支えに、自室に立てこもることを決意するのです。

先の見えない状況の中でマンションの水道が止まり、ウイルス発生から10日目には食料と水が尽きてしまうのですが、15日目に奇跡的に繋がったスマホに届いた母親からの音声メッセージが、皮肉にもジュヌを絶望に叩き落すことになってしまいます。

怒りと哀しみにまかせて、唯一の情報源だったテレビを叩き壊したジュヌは、絶望のあまり自分で命を絶とうとするのですが、向かいのマンション棟で生き延びていたユビンの送ったシグナルが、彼に自殺を思い留まらせるのです。

こうして遠く離れた二人が協力しながら、ついに生き延びるための脱出を試みるのですが、この二人が超人的なヒーローではなく、挫折や絶望を経験した等身大の人物として描かれている点も、本作成功の大きな要因と言えるでしょう。

ユ・アインが演じる主人公のジュヌは、決して完璧なヒーローではないのですが、ゾンビに襲われた女性警官に対して取った行動や、ユビンとの交流の中で見せる少年のような笑顔など、非常に人間くさいキャラクターとして描かれることで、彼の行動や心境に観客が共感できることになります。

これに対して、パク・シネ演じるユビンの過去はほとんど明らかにされないのですが、彼女の部屋にあるランプや小型の斧、それにテントの張り方などから、彼女が登山やアウトドアの経験者であることが理解できて、この過酷な状況で彼女が生き延びていたことに説得力が生まれる点も、実に上手いのです。

加えて、この二人が遠く離れた状況で次第に交流を深め、ついに生き延びるために部屋から脱出する展開は必見!

主な舞台が二人が住む部屋とマンションの敷地内に限定されるにも関わらず、最後まで緊張感と面白さが持続する、この『#生きている』。

そのスピーディな展開や、男女二人が協力して生存のための闘いを続ける様子が、昨年公開されて高い評価を呼んだ韓国映画『EXIT』を思わせる作品なので、全力でオススメします!

理由2:本編に登場する食事シーンに注目!

電気や水道、通信といったライフラインが途絶え、食料や水も尽きていく中で必死に生き延びようとする人々の姿を描く内容だけに、彼らの食事に関するシーンには、さまざまな情報やメッセージが込められています。

例えば、マンションの水道が止まって手持ちの飲料水を節約しながら飲んでいるにも関わらず、部屋の鉢植えに自分の飲み水を与えたり、空腹のジュヌにも水と食料を分け与えるユビンの姿など、極限状況下でも人間性を失わない彼女の精神的な強さが、行動を通して表現される演出も上手いのですが、何故ユビンがジュヌを自殺から救ったか? その理由がセリフではなく、ほんの一瞬画面に映る”あるもの”で表現されるのは見事!

こうした細かい演出により、家族を思いながらも自分が生き延びることしか考えられなかったジュヌが、後に危険を冒してユビンを助けようとする心境の変化にも、観客が大いに納得できるのです。

他にも、極限状態の中で二人が作るインスタントのジャージャー麺や、テレビに映し出されたインスタントラーメンのCMを見たジュヌが、”最後の晩餐”用に取っておいたカップ麺を食欲に負けて食べてしまうなど、生きる上で必要不可欠な”食べる”という行為を通じて、登場人物の性格や背景を観客に理解させるだけでなく、この”生きるために食べる”というテーマが終盤の重要な展開に効いてくる点も、実に上手いのです。

映画に登場する食料の中でも印象に残るのは、やはり隣に住むサンチョルの部屋を探索していたジュヌが見つけて喜んだ、”ヌテラ”というチョコクリームのような食べ物でしょう。

日本ではあまり耳にしない名前の食品ですが、これはヘーゼルナッツとチョコの風味を同時に味わえるイタリア生まれのクリームで、主に朝食の時パンに塗って食べたりする、世界では非常にポピュラーな食品だったりします。

ちなみに、映画の中でジュヌが見つけたのは”ヌテラ&ゴー”という、スティック状のビスケットとチョコクリームがセットになったもので、日本の駄菓子”ヤンヤンつけボー”に似たお菓子です。

カロリーが高くて甘いため非常食には最適なのですが、ゲームをしながら片手で食べられるということで、オンラインゲームにハマっていたジュヌにとっては普段から食べ慣れていたものだったかも? そう考えると”ヌテラ&ゴー”を見つけた時の彼のリアクションにも、きっと納得して頂けると思います。

ちなみに”ヌテラ&ゴー”はコストコやAmazonでも購入可能なので、これから鑑賞される方は手元に用意してご鑑賞頂くと、より臨場感が味わえるかも?

理由3:この作品がゾンビを通して描きたかったものとは?

ある日突然、謎のウイルスによってゾンビが大量発生した世界。

この非常事態を受けてテレビの画面には、「安全のため、自宅待機を」といった緊急時の国民行動原則が映し出されているのですが、具体的な避難場所や対処方法は報道されないまま。

しかも何故か普通にラーメンのCMや、心理学の専門家による「心身を安定させる呼吸法」を紹介する番組が放送されていたり、テレビを見ているジュヌが「国は家にいろ、というばっかりだ」と文句を言うなど、コロナ禍で人々が行動の制約を強いられている現実を連想させる描写に加え、テレビメディアの報道に対する批判が盛り込まれている点も、本作の重要な見どころと言えます。

こうした先の見えない状況下で、母親がテレビよりもラジオの方が好きだったことを思い出したジュヌは、緊急災害放送がFMの周波数で受信できることに気付き、スマホのラジオアプリで情報を得ようとするのですが…。ここでの現代を反映した描写には、思わず「あー、自分の家もそうだ!」とリアルに共感できた方も多かったのでは?

加えて、周囲の状況を把握するためにスマホをドローンに搭載して飛ばしたり、ジュヌとユビンのコミュニケーションが原始的な方法に頼らざるを得ないなど、最新の機器の有用性だけでなく、昔ながらの方法も緊急時には役立つことが描かれている点も、実際の災害時に役立つ情報として実に参考になるのです。

感染を避けるための方法が“自宅での待機”だったり、ジュヌとユビンの距離感や食料・生活必需品の不足など、多くの人々が実際に直面している不安や問題をゾンビの発生を通して描く内容が、まさに現代を反映した作品と言える、この『#生きている』。

コード式のイヤホンを一つは常備しておかなければ! そう思うことは確実な作品なので、緊急時の備えとしてぜひご鑑賞頂ければと思います。

最後に

注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

冒頭の展開や消防署員ゾンビのシーンなど、ところどころで日本映画『アイアムアヒーロー』を思わせる本作。

加えて、ラストの屋上でのシーンや8階の生存者の設定など、過去のゾンビ映画からの影響が多数含まれている点も、ファンにとって大きな魅力となっています。

ただ、過去のゾンビ映画のように苦い結末や深い余韻を残して終わるのではなく、あまりにあっけないラストの展開には、ゾンビとの闘いや残酷描写を期待して観ると多少の物足りなさを覚えるのでは? そう感じたのも事実。

とはいえ、本編中に度々登場する「生き残らねば」「絶対に生き延びる」というセリフが、日本版タイトルの『#生きている』へと繋がるラストの展開には、現在のコロナ禍に立ち向かう人々へのメッセージが込められている、そう思わずにはいられませんでした。

ちなみに本作には、映画の冒頭でジュヌの部屋に逃げ込んできたサンチョル役のイ・ヒョヌクを始め、消防署員ゾンビ役のチョン・ウンジョンや、両目の見えない警備員ゾンビ役のソン・ギョンウォン、更に中学生の娘に噛み付かれた母親役のヤン・マルボクなど、以前この連載でもご紹介した『シークレット・ジョブ』のキャストが多数出演しているので、興味のある方はぜひ観比べて頂ければと思います。

作品情報

Netflix映画『#生きている
独占配信中

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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