『ブラック・クランズマン』が実話を超えた衝撃作となった「3つ」の理由!

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第71回のカンヌ映画祭グランプリ受賞、そして先日発表された第91回アカデミー賞では、見事に脚色賞に輝いた話題作『ブラック・クランズマン』が、3月22日から公開された。
昨年話題となった『ボヘミアン・ラプソディ』や、4月に公開される『バイス』など、最近多い実話の映画化作品の中でも、その奇抜さでは群を抜いている内容だけに、かなりの期待を持って鑑賞に臨んだ本作。果たして、その内容はどの様なものだったのか?

ストーリー

1970年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署の刑事、ロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK<クー・クラックス・クラン>のメンバー募集に電話をかけ、何と入会の面接まで進んでしまう。騒然とする所内の一同が思うことはひとつ。
KKKに黒人がどうやって会うんだ?
そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立つ。電話はロン、直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じることに。任務はKKKの内部調査。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのか―!?
公式サイトより)

予告編

理由1:黒人差別から抜け出すための危険過ぎる捜査方法!

映画を観ただけでは若干分かりにくいかも知れないが、主人公のロンは物語の舞台となるコロラドスプリングス警察署初の黒人警官として登場する。

彼以外は全て白人警官という環境の中、現場での事件捜査を希望したにも関わらず、新米警官のロンは書類管理担当の記録室に配属されてしまうことに。

おまけに、配属された書類受け渡しの窓口でも、同僚警官たちの黒人への差別用語に晒される日々が続く中、遂にロンはこの屈辱的で先の見えない状況から抜け出すため、危険を承知で潜入捜査官へと志願するのだが…。

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実は、1970年代という時代でも黒人への差別や偏見は根強いものがあり、警察署内で唯一の黒人警官であるロンが現場に出て事件を捜査するには、自分が白人警官よりも遥かに有能であることを周囲に証明するため、他の警官が嫌がる危険な仕事に積極的に飛び込むより他に道が無かったことが描かれる本作。

実際アメリカ建国の歴史においても、仕事に就けなかった多くの移民たちが警察官や消防士などの危険な職業に就くことで、自身の価値とアメリカ国民としての地位を周囲に認めさせていったという、歴史的背景があるのだ。

周囲を白人警官たちに囲まれながらも、社会に対して“正しいこと”を行おうと希望に燃えるロン。だが、そのための危険な潜入捜査に入り込む過程で、結果的に同胞である黒人活動家たちを欺くことになってしまう。

加えて、ロンの頼れるパートナーとなる白人警官のフリップが、実はユダヤ人という設定も非常に効果的であり、ロンと違って外見からはフリップの人種が分からないため、ユダヤ人に対しても激しい差別意識を持つKKK側に彼の正体がいつバレるのか、最後まで緊張感が持続するのは見事!

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こうして、アメリカ社会全体が姿の見えない架空の敵のイメージに左右され、疑心暗鬼に陥っていた1970年代。

そんな時代の大きな流れの中でも、自身の信じる「正しい道」を歩もうとした主人公のロンが、果たしてどうやってこの実行不可能に見えた任務を成功させるのか?

実話ならではの、その意表を突く展開は是非劇場で!

理由2:ラストの瞬間まで、絶妙に計算された映画だった!

実話に基づいた奇想天外な物語と並んで本作の見どころとなっているのは、その絶妙に計算された構図や様々な仕掛けの数々。

例えば、お互いに嘘をつきながら電話で会話しているシーンでは、わざと斜めに傾いた構図で二人を撮っていたり、ブラックパンサー党集会の演説シーンでは、壇上の背後に掲示されている「COLORADO STATE COLLEGE BLACK STUDENT UNION」の文字が、演説するクワメの頭で他の文字が隠れてしまい、長い演説の間「COLOR BLACK」の文字だけが延々と彼の背後に映し出されるなど、本作には計算しつくされた描写や構図が随所に登場することになる。

中でも観客の心に残るのは、映画のラストで実際の記録映像を交えて描き出される、現在のアメリカ国内の姿だろう。

1970年代のアメリカを舞台に人種差別の実体を描いている『ブラック・クランズマン』だが、そのラストを飾るのが現代においても状況が余り変わっていないどころか、大統領までが公に差別を口にするなど、むしろ事態が悪化しているのでは? そう思わずにはいられない実際の記録映像だったとは!

自身の危険を顧みず潜入捜査に当たったロンやフリップの苦労は、果たして報われたのか? 多くの観客に疑問を投げかけるその映像は、必見です!

理由3:真のテーマは、映画が人に与える影響力の物語だった!

実は本作で印象的だったのが、過去の名作映画の名場面が登場したり、黒人を主役にしたアクション映画のタイトルがキーワード的に使用されるなど、映画が人々に与えるイメージや影響力の強さが描かれている点だった。

例えば本編のOPで象徴的に映し出される、映画『風と共に去りぬ』の南北戦争による膨大な犠牲者の姿を始め、KKKの団員たちが儀式の際に観ているサイレント映画『國民の創生』が、未だに彼らの黒人差別に対する共通認識になっているという時代錯誤っぷりなど、実はこの時点で既に黒人に対する差別や偏見が、昔の映画で描かれたものと何ら変わっていないことが示されているのだ。

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これに対して象徴的に登場するのが、1970年代初頭に大流行した『黒いジャガー』や『スーパー・フライ』『コフィー』などの、黒人の主人公が大活躍して悪い白人をやっつける“黒人ヒーロー物映画”の数々。

実際、映画の中でもデート中のロンと女性活動家のパトリスが、当時大流行していた“黒人ヒーロー物映画”の主人公を比べるシーンがあるが、「BLACK IS BEAUTIFUL」の言葉が示す通り、黒人の主人公をマンガ的キャラクターとしてカッコよく描き、悪役の白人側を間の抜けた連中として描くその手法は、実は本作でも効果的に用いられている。

確かに、こうしたジャンルの映画によって黒人のイメージが固定化してしまう恐れはあったが、黒人が白人をその能力で圧倒し、悪が滅んで正義が成されるというその内容が、当時の人々の不満を解消してくれたことは、間違いない。

日常的に差別や偏見に晒される厳しい現実から、一時的にでも解放してくれる、これら“黒人ヒーロー物映画”の主人公たちの存在が、後にアジア人が主役のカンフー映画の流行へと繋がることになるが、それは本編中でもロンが盛んにカンフー映画の主人公のモノマネをするシーンに、よく表れているのだ。

本作で描かれているのは、次第に社会に対する発言権や影響力を蓄えつつあった黒人たちが、実際にはまだまだ根強い差別や偏見に晒されていたという事実。そして、映画によって一度刷り込まれた情報や偏見からは、人間は中々抜け出すことが出来ないということだ。

それは『國民の創生』を観て歓声をあげるKKKの団員だけではなく、“黒人ヒーロー物映画”を楽しむロンたちも、実は知らないうちに映画からの偏った情報に影響を受けているという描写に現れている。

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そう、ロンと彼女がデート中に“黒人ヒーロー物映画”のタイトルを連想ゲーム的に言い合う描写が示す様に、本作で描こうとするのは“人種差別や偏見が、いかに外部からの情報やイメージに左右されるか?”、つまり映画が持つ影響力の大きさに他ならない。

この点を踏まえて映画を観ると、前述したカンフー映画に出てくるアジア人のマネをするロンが、映画からのイメージによる思い込みだけで、無意識に人種差別や偏見を抱いている様に見えてくる。

更に、これに見事に呼応するのが、相手の姿を見ることが無い電話の会話では、KKK側の人間でさえロンのことを黒人とは思わない! という描写なのだ。

目に見える部分に頼った判断や、他人から一方的に与えられた情報・知識が、いかに人の思考停止を招き、偏った考えの人間を生み出すかを見事に描いている本作。果たしてあなたは、この映画からどの様な印象を持たれただろうか?

最後に

1970年代当時の黒人に対する差別や偏見を扱いながらも、KKK側の人々をどこか間の抜けた存在としてユーモラスに描くなど、表面上はコメディとして楽しめる様に作られている本作。

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結局人と違う見た目や、他者に対する知識の無さ・無関心が差別や偏見を生む原因なのか?それなら、相手の姿が見えなければ同じ人間同士、偏見無く理解し合えるのでは?

嘘のような実話である本作の展開を観ている内に、自然とそんな考えが頭に浮かんでくるのだが…。

しかし、その考えを見事に打ち砕くのが、本作のラストに用意された衝撃的な映像の数々だった!

映画のストーリーの完結という枠を大きく飛び越え、それどころか1970年代と現代との時間差を越えて観客に訴えかけてくるその記録映像には、正直「ヤラれた!」と思われた方も多かったのでは?

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本編中にも登場する、KKKの最高幹部デービッド・デュークが、現代でも普通に聴衆の前で演説している記録映像を始め、今もなお状況は変わっていないことが観客に示される本作。

中でも衝撃的だったのは、すでにデービッド・デュークが演説の中で「アメリカ・ファースト」や「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」という、トランプ大統領のキメ台詞を使用していたという事実!

全編を彩る70年代の独特なファッションや髪形に、「これは昔のお話だ」、そう思い込んでいた観客に冷水をぶっかける様な、これらの映像を観るだけでも、劇場に駆けつける価値は十分にある本作。全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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