介護福祉士の本音・理想・希望『ケアニン〜あなたでよかった〜』



(C)2017「ケアニン」製作委員会


こんにちは、八雲ふみねです。
今回ご紹介するのは、現在全国順次公開中の『ケアニン 〜あなたでよかった〜』。
いまや他人事ではすまされない、介護福祉の現実と真正面から向き合った意欲作です。

八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.116




高校卒業後、特にやりたいこともなく、なんとなく介護福祉の専門学校に入った大森圭。
卒業後、彼が働くことになったのは、郊外にある小規模多機能介護施設だった。
高齢者たちと上手くコミュニケーションが取れず、試行錯誤を繰り返す毎日だったが、圭が仕事と本気で向き合うようになるきっかけとなったのが、79歳の星川敬子との出会いだった。
担当を任された圭は、敬子との関係を深めていく中で、介護福祉士としてのやりがいに目覚めていくが……。



(C)2017「ケアニン」製作委員会



あまりにもリアルなセリフにドキッ!実在の介護福祉施設をテーマに、人と人とのつながりを描く


「この仕事のどこに、やりがいなんてあるんだよ」
「こんな仕事やってられるかって思ってるだろ?」
「俺なんか新人の頃、毎日やってらんねぇって思ってたよ」

介護職と言えば、“3K(キツい、汚い、危険)”というイメージが先行してしまいがち。
それにも増して、冒頭のような言葉を介護福祉に従事している人が心の奥底に秘めているかもしれないと考えたら……。
う〜ん、さすがにちょっと引きません?

いきなりショッキングな言葉が並びましたが、実はこれらはすべて本作に登場するセリフ。
本作を制作するにあたって、30カ所もの介護福祉施設や専門学校、関連団体を取材。
シナリオを一つずつ丁寧に積み上げて、制作されました。

だから登場するエピソードやセリフは、実際の介護の現場で起きた出来事がベースとなっています。
介護福祉の現実を描いているからといって、その職業を決して聖職化していないのが、この映画のリアルなところ。
決して綺麗ごとだけではない、実在の“ケアニン”たちの本音と理想と希望が集約されているのです。



(C)2017「ケアニン」製作委員会



介護する側も“人間”なら、介護される側も“人間”。人間と向き合えるようになれば、立派なケアニン(=ケアする人)


物語の舞台となるケアハウスは、藤沢市にある小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」がモデルとなっています。
代表を務める加藤忠相氏は大学卒業後、特別養護老人ホームに就職するも、介護現場の現実にショックを受け退職。
その後、「お年寄りが行く施設」ではなく「お年寄りが主役の第二の我が家」を目指す、小規模多機能型居宅介護の経営を開始しました。

みんなでご飯を作ったり歌を歌ったり、犬と遊んだりお買い物に出かけたり……。
痴呆症だからあれもダメ、これもダメと制限するのではなく、認知症の症状によって起因する“困ったコト”を職員がケアし、“その人らしく暮らすこと”を目指した介護スタイルは大きな反響を呼び、メディアでも注目を集めています。

その様子は、劇中でも克明に描かれていて、大きな見どころのひとつ。
特に、ケアハウスの利用者さん、いわゆる“認知症”の方々の描写がとにかく個性的で……。

頑固一徹で無口で扱いづらい人……と思ったら、可愛い介護福祉士さんを見るとキャバクラでキャバ嬢を口説くように超饒舌になるおじいちゃん。綺麗に着飾って、“散歩”という名の“徘徊”に出かけるおばあちゃん。何事にも興味を示さないのに、「棟梁!」と呼ばれた途端にかつての血が騒ぎ出し、ノコギリを片手に塀を修繕する元大工のおじいちゃん。

そこには自由闊達に過ごすお年寄りと、彼らのペースに合わせてケアをし合う介護福祉士さんたちの姿が映し出されています。
その“当たり前”を繰り返す生活の営みの中で、彼らが“認知症”を発症している人ではなく、どう見ても“普通の人”にしか見えないことにも驚愕することでしょう。

聞くところによると、加藤氏は本作の製作に協力するにあたって、「認知症についてステレオタイプの表現をしたり、認知症を持つ人を“困った高齢者”として扱ったりしないでほしい」と依頼したとのこと。
その結果、人と人とのつながりの尊さを描いた人間ドラマであると同時に、決して他人事ではない家族のドラマとしても成立しています。



(C)2017「ケアニン」製作委員会



まさかのサプライズ失敗?! 温かい雰囲気の中、ひとり冷や汗がタラリ……


7月22日に開催された公開記念舞台挨拶には、主演の戸塚純貴をはじめ、水野久美、松本若菜、山崎一、主題歌を担当した香川裕光、株式会社あおいけあ代表取締役の加藤忠相氏、そして鈴木浩介監督が登壇。
八雲ふみねが司会を務めました。




偶然にもこの日は、戸塚純貴さんの25歳の誕生日。
「自分の誕生日に舞台挨拶が出来て嬉しい」と満面の笑顔で話す戸塚さんに、思わず冷や汗がタラリと流れた司会の私。
そうなんです、実は戸塚さんには完全シークレットで、舞台挨拶の最後に誕生日のお祝いをしようと目論んでいたんです……。
「ひょ、ひょっとしてバレてる???」と自問自答しながらそのままトークを進め、いよいよラスト。

スタッフが大きなバースデーケーキを運び込み、水野さんが大きな花束を手渡し、香川さんがギター片手に「ハッピーバースデー♪」を歌うと、途端に驚きの表情に変わった戸塚さん。
どうやら舞台挨拶冒頭でのご挨拶は単なる偶然で、まったくバレてなかった!!!

控え室に戻ってからも「こんな風にお祝いしてもらえるなんて嬉しい」と、ニコニコ笑顔の戸塚さん。
しかし、よくよく話を聞いてみると……。
「舞台袖にギターが置いてあって、変だなぁ〜とは思ったんですよ。でも香川さんが『何かあった時のために一応…』と言ったので、まったく疑わなかった」とのこと。

あぁ、戸塚さんが“いい人”で良かった!
サプライズ成功で何よりでした〜。

この日のために特注でオーダーしたバースデーケーキは、登壇者の皆さんと一緒に、私もお相伴にあずかりました。
映画のテーマアイテム、オレンジの酸味と甘みが爽やかなおいしいケーキでしたよ。

作品情報


ケアニン〜あなたでよかった〜
全国順次公開中
監督:鈴木浩介
出演:戸塚純貴、松本若菜、山崎一、水野久美、藤原令子、菜 葉 菜、小市慢太郎 ほか
©2017「ケアニン」製作委員会
公式サイト https://www.care-movie.com/

(文:八雲ふみね)

八雲ふみね fumine yakumo


八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。

八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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