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2020-04-06

コラム

『パラサイト』の次はこれ!オススメ韓国映画『少女は悪魔を待ちわびて』の「3つ」の見どころ!




第1回:『少女は悪魔を待ちわびて

今年のアカデミー賞の話題を独占した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』のヒットにより、韓国映画に対する観客の印象や注目度も変化してきている、今日この頃。

ただ、この機会に改めて韓国映画の過去作に触れてみようと思っても、意外に作品数が多い上にタイトルを見ただけでは内容が想像できなかったり、あるいは出演している俳優の名前と顔が一致しないなど、なかなかお目当ての作品に出会えない、そんな方も多いのではないでしょうか。

そこで今月は、Amazonプライム・ビデオで鑑賞可能な韓国映画の中から、特にオススメの作品を毎週1本ずつ、ご紹介したいと思います。

まず初回に取り上げるのは、松坂桃李との共演作『新聞記者』での演技で、第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞に輝いたシム・ウンギョン主演による、2017年日本公開のサスペンス映画『少女は悪魔を待ちわびて』です。

ストーリー


警官だったヒジュ(シム・ウンギョン)の父親を含む、7人を殺害した容疑で逮捕された、連続殺人犯のギボム(キム・ソンオ)。
だが証拠不十分により、ヒジュの父親殺しの容疑が問われることはなく、たった一人への殺人容疑により、犯人のギボムはわずか15年の刑期で釈放されてしまう。
父親を亡くしたヒジュは、その後父親の同僚たちに育てられることになった。
出所したギボムを警察が監視するが、ヒジュもまたギボムを監視し、父親の復讐の機会を狙っていた。
だが、意外な真実が明らかになることで、事態は思わぬ方向へと向かっていくことに…。


見どころ1:シム・ウンギョンの演技力に注目!



日本でもリメイクされた『サニー 永遠の仲間たち』や『怪しい彼女』、そして韓国でリメイクされたドラマ『のだめカンタービレ ~ネイル カンタービレ』の主演など、コメディでも素晴らしい才能を発揮するシム・ウンギョンが、自分の父親を殺した殺人犯への復讐を計画する少女役に挑んだのが、今回ご紹介する映画『少女は悪魔を待ちわびて』です。

女性が直接犯人と対決したり、壮絶な復讐を実行する韓国映画は多いのですが、本作でシム・ウンギョンが演じるのは、警察官だった父親を幼少期に惨殺されながらも、周囲の人々の善意と愛に支えられて育った、ヒジュという少女。

警察署の職員として熱心に働く日常生活からは、真面目で善良な人間にしか見えないヒジュですが、その裏では父親の命を奪った犯人に対する復讐を15年間計画しているという、全く別の顔を隠し持っています。

この難しい役柄を、今年の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したシム・ウンギョンが見事に演じている点こそ、本作の最大の魅力であり見どころと言えるでしょう。

実際、ヒジュが普段警察署で働く姿と、容赦なく復讐計画を実行する姿を演じ分ける彼女の演技は、後の『新聞記者』での受賞も納得! そう観客に思わせるものとなっているのです。



中でも印象的だったのが、復讐のために全てを犠牲にして犯人を追い詰めるヒジュの姿と、復讐を終えた後に待つ普通の暮らしのために用意していたドレスや下着を手に取る、年相応な少女の表情とのギャップを、見事に演じ分けている点でした。

なぜならこうした描写によって、善良そうな少女に見えたヒジュの二面性と、彼女の人生を狂わせたトラウマや心の闇の深さが、観客にもより理解できるからです。

「悪が勝つための条件は1つだけ、善良な人が何もしないこと」

映画の中でヒジュが言う印象的なセリフが警察だけでなく、実は観客側にも向けられていることに気付かされる、この『少女は悪魔を待ちわびて』。

映画の後半にはかなり残酷な描写も登場しますが、鑑賞後に深い余韻を与えてくれる作品なので、全力でオススメします!

見どころ2:二転三転するストーリーが凄い!



本作の悪役として観客に強烈な印象を残すのが、15年の刑期を終えて出所した連続殺人犯のギボム。彼の余罪を追及する警察が常に監視する中、彼の周囲で再び殺人事件が起こり始めます。

更に、15年前にギボムが逮捕された原因が第三者からの密告だったり、怪しい男の存在が明らかになってくるなど、本当にギボムが一連の連続殺人事件の犯人なのか? 次第に観客も彼の犯行に疑問を抱かされる本作。

加えて、ギボムがある人物の行方を探していることも描かれていくのですが、実はその行動すらも、最終的にヒジュの復讐計画の歯車として利用されるなど、この二人が繰り広げる頭脳戦や駆け引きも、本作の大きな見どころとなっているのです。

次第に緊迫する状況の中、ギボムへの監視を続ける警察の裏をかいて、着実に復讐計画を進めていくヒジュ。

15年前の犯行に隠された意外な秘密を利用して、ついにヒジュはギボムを罠にかけることに成功するのですが、警察側の度重なる犯人逮捕の失敗により、ついにヒジュは犯人との命をかけた直接対決へと臨むことに…。

これから鑑賞される方のために、これ以上詳しく書くことは避けますが、ヒジュが求めた復讐とは、あくまでも犯人に正当な法の裁きを受けさせることであり、それは亡き父親が果たせなかった望みに他なりません。

単に凶悪な犯人と思われたギボムと、善良な少女と思われたヒジュ。ストーリーが進むに連れて、いつしかこの二人が重なり、やがてイメージが逆転していく展開は、まさに観客の予測を超えるもの。

怪物を倒すために怪物への道を選んだ少女は、果たして父親の命を奪った犯人に復讐することができるのか?

公開当時、賛否両論を巻き起こした本作の結末も含めて、是非一度ご鑑賞頂ければと思います。

見どころ3:強烈すぎる犯人像が凄い!



同情する余地のない、まさに最凶の悪役として登場するギボムですが、実はこの男の犯行にも深い謎が隠されていることが、次第に観客にも分かってきます。

例えば、映画の冒頭に登場する15年前の裁判で、なぜ彼が7件の殺人事件のうち、1件だけで有罪になったのか? など、15年前の事件に隠された意外な真相が、次第に明らかになっていくのです。

加えて、出所したギボムの回想シーンとして彼の過去が少しだけ描かれるのですが、この男の背景や殺人鬼となった原因が、必要以上に観客に明かされない点も、凶悪犯としての不気味さや異常性を維持する上で、実に上手いと言えるでしょう。

単に自分の欲望や衝動のままに殺人を犯すのではなく、非常に頭も切れて鋭い洞察力を持つギボム。

映画の序盤はヒジュがギボムを追い詰めていくのですが、次第に物語は二人が相手の行動を読み合う頭脳戦へと発展していきます。

特に映画の後半、ヒジュの計画の裏をかいてギボムが反撃に出る展開からは、残酷な描写やアクションの連続で、ストーリーが一気に加速することになるのは見事!

単なる憎まれ役を超えて、ある意味ヒジュとは表裏一体の存在とも言えるギボムですが、演じるキム・ソンオの演技力と、そのギリギリまで絞った体型も含めた役作りは必見!

複雑な内面を持つヒジュを演じるシム・ウンギョンに負けず、対等に渡り合える彼の演技があればこそ、終盤の怒涛の展開と対照的に迎える静かなエンディングが、観客に深い余韻と問題提起を残すことになるのです。

一度見たら記憶に残る、その爬虫類のような外見と鋭い眼光は必見です!

最後に



部下の刑事二人の会話の中で、ヒジュの父親が半地下に住んでいることが語られるなど、実は『パラサイト 半地下の家族』を観てから鑑賞すると、より細かい点が楽しめる本作。

ちなみに半地下に住んでいる理由は、蒸発した奥さんの借金のためという説明がなされているのですが、半地下での暮らしに伴う"貧しい暮らし"のイメージは、本作でもちゃんと描かれているのです。

本作で特に印象的だったのは、父親の元部下たちや同じ課の人々が自分の給料からお金を出し合って、実は正式な警察署の職員ではないヒジュに、給料として毎月渡しているという描写でした。

なぜなら父親を殺され孤児となったヒジュを、その部下たちが支えて面倒を見ている描写には、彼らの中でまだ事件が終わっていないという事実と、同僚であるヒジュの父親を救えなかったことへの贖罪が込められているからです。

加えて、単にヒジュを援助するのではなく、彼女が社会の中で役割を果たし、自分の仕事への報酬としてお金を得ているように装う周囲の人々の気遣いには、警察署内の人々との深い関係性と同時に、彼女が社会的に弱い存在であることが描かれています。

そんな表向きの顔とは裏腹に、犯人が釈放されるまでの15年間を復讐計画のために費やしてきたヒジュが、悪魔のような犯人の行動の先を読んで確実に追い詰めていく様子は、観客の予想を覆し先の展開への興味を持続させてくれるもの。

映画を観た後で思い返すと、ひょっとしてヒジュは犯人の情報を得るために警察署の中に入り込んでいて、全ては彼女の計画だったのでは? そんな気がしてくるのも事実なのです。

タフで屈強な男や警察官ではなく、父親を殺された少女がどのようにして犯人に復讐するのか?

ヒジュにとっての復讐とは、単に憎い犯人の命を奪って終わりではなく、父親ができなかった犯人逮捕を実現させ、ギボムに正当な法の裁きを受けさせること。

しかし、父親の復讐への執念に囚われるあまり、いつしか最後の一線を超えてしまったヒジュが選択した復讐方法は、まさに"諸刃の剣"とも呼べる壮絶なものでした。

ヒジュが取った最後の手段は賛否両論を呼びましたが、父親の復讐のためとはいえ、ギボムと同化するかのように一線を超えてしまった彼女には、裁きを受けて償うだけの理由があった、そう観客に思わせる説得力があるのも事実なのです。

二転三転する予断を許さない展開の中、父親の仇である殺人犯との直接対決に向かって、いくらでもエンタメ方向に寄せられる題材なのですが、安易な展開を避けた苦い結末が、ラストの余韻を更に深いものにしてくれる、この『少女は悪魔を待ちわびて』。

この機会に、ぜひご鑑賞頂ければと思います。

(文:滝口アキラ)