映画コラム

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2018年04月17日

どうしてこんなに美しいの!?『君の名前で僕を呼んで』4つの美しさ

どうしてこんなに美しいの!?『君の名前で僕を呼んで』4つの美しさ



©Frenesy, La Cinefacture  



恋する気持ちを抑えたり、抑えきれなかったり、そしてその恋ですべてが輝きだしたり、小さなことで悲しかったり…。誰にでも経験のある甘酸っぱい恋を美しく、そして切なく描いた作品『君の名前で僕を呼んで』。本作はアカデミー賞4部門でノミネートされ、脚色賞を受賞しています。鑑賞後には、キャッチコピーの「何ひとつ忘れない」という言葉が喉の奥を熱くさせます。

あらすじ


北イタリアの避暑地で家族と夏を過ごす17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)。大学教授であるエリオの父は、毎年大学院生を研究のアシスタントとしてアメリカから呼びます。やって来たのは24歳のオリヴァー(アーミー・ハマー)。チャーミングで、誰とでもすぐ仲良くなるオリヴァーを最初は気に入らなかったものの、だんだんオリヴァーから目が離せなくなるエリオ。2人はまばゆい夏の日を共に過ごして行くうちに打ち解けて友情以上のものが芽生え始める。


思いがけず『君の名前で僕を呼んで』はわたしのとても好きな忘れられない映画のひとつになりました。なにがって、とにかくすべてが美しい。初めて映画自体に見惚れるという経験をしました。美しさの詰まった本作の「美しポイント」、ネタバレ最小限でたっぷりご紹介したいと思います。

1:美しき俳優


主人公エリオは「あなたは一体どこ出身なの?」と聞きたくなるほど完璧なトライリンガル(英語、フランス語、イタリア語)。美しい顔は言わずもがな、文学や歴史に詳しく、ピアノを弾かせれば素晴らしく上手で、昼間は作曲したり読書に耽ったりと、少し大人びた17歳のエリオ。

エリオを演じるティモシー・シャラメ自身もかなりのブルジョア。お父さんがフランス人ということで幼い頃からフランスとアメリカを行ったり来たり。名門ラガーディア高校出身で同級生には『ベイビー・ドライバー』でおなじみアンセル・エルゴートくんがいます。卒業後はこれまた名門コロンビア大学に入学、今は編入してニューヨーク大学で学ぶ高学歴の美しきインテリ俳優です。少年と大人の間のような儚い雰囲気を持ち、演技力抜群のシャラメくんは、2017年アカデミー作品賞ノミネート作品のうち2作(本作ともう一作は『レイディバード』)に出演するという、大注目の俳優さんです。



©Frenesy, La Cinefacture  




そして冗談が上手でチャーミング、かつものすごく知的な大学院生オリヴァーを演じるのはアーミー・ハマー。Facebookの誕生を描いた『ソーシャル・ネットワーク』でマーク・ザッカーバーグにアイディアを横取りされる双子役で出ていましたね。そのあとは『コードネーム U.N.C.L.E.』や『ノクターナル・アニマルズ』にも出ていましたが、ブロンドで青い目、そして身長194cmの正統派美形男子なので、そういった印象の役が多いです。しかも石油王家系の御曹司ということで、ただならぬ気品が隠しきれません!というわけで、こういう感じの役が合うと思っていなかったので、なんか化けたな〜って感じがします。彼のイメージの殻をオリヴァーという役が破ったかもしれません。

さてこの作品、育ちの良い美しい2人が始終上半身裸の半ズボンです。まぁ夏ですからね…。2人で自転車に乗ったり、池で泳いだり、それだけで美しいのです。セクシャルなシーンも出てきますが、美しい人間が絡み合うのは、エロさもなければエグさもない。あるのは美しさだけです。



©Frenesy, La Cinefacture  




2:美しき情景


この作品の舞台は、北イタリアのある田舎町。町には小さな売店くらいしかなく自然がいっぱい。初夏の太陽で草木も水もキラキラ輝いています。そしてパステル色の建物や80年代の車は、なんだかノスタルジックでおしゃれ。映し出される景色は少しセピアがかっていて、美しさが際立ちます。

エリオの家族は毎日、外のテーブルでご飯を食べるのですが、それがすごく気持ちが良さそうで、映像から眩しい日差しと風を感じられるような気がします。そして夜になると月の光と影で寂しい憂いを帯びた印象に変わります。昼と夜のコントラストがこれまた本当に美しい。夜の映像では、ひんやりした空気を感じられるのです。

ちなみにラストシーンは冬なのですが、夏のキラキラとは打って変わって灰色のどんよりした情景に降り続ける雪。そんな映像がエリオの心を映し出しているとも言えます。



©Frenesy, La Cinefacture  



3:美しき感情


美しいエリオとオリヴァー、そして美しい情景という「視覚」を更に美しくさせるのが、彼らの感情。アメリカ映画なのに不思議とそんな感じがしないのは、感情を言葉でわざわざ説明しないところかもしれません。彼らの感情を表す言葉は、核心を突かず曖昧で最小限。それってすごくリアリティがあると思うんです。誰かに恋をした時、映画でよくあるストレートに「今、あなたにすごく惹かれてる」とか「君から目を離せないんだ」みたいなこと言わないですよね。探り合って、少しだけ好きなことを見せて相手の反応を見て…そんな感じですよね。思いが通じれば、それはまた不安に変わったり。彼らの感情は言葉ではなく、微妙な表情や仕草で伝わって来るのです。2人の心が通じ合い恋が始まる様子は、見ていて羨ましくなってしまいます。

特に主人公のエリオの感情や心の揺れは切なくて、誰にでもある昔の恋の気持ちを思い出させてくれるものです。3分30秒間、彼の表情だけを映し出すエンディングは圧巻です。



©Frenesy, La Cinefacture  



4:美しき両親


この作品が特別美しい理由は、大学教授であるエリオのお父さんの言葉が大きいと思っています。両親はエリオとオリヴァーの気持ちに気づいていて、とても大切に見守ってくれます。お父さんは、2人がお互いに持った友情と感情を素晴らしいものだと褒めます。人生は予想していない時に1番弱いところを突いて来るものだけれど、その痛みは喜びと共にあるから、それは大切にしなきゃいけないと。お父さんがエリオにかける言葉は、すべてメモしておきたいくらい本当に美しく素晴らしいものです。こんな世界で1番理解のある両親に育てられたエリオは、この先どんな大人になっていくんだろうと続きが見たくなります。



©Frenesy, La Cinefacture  



美しいポイントを挙げ始めるとキリがないのですが、最後にもう一つだけ。劇中音楽も本当に美しいです。スフィアン・スティーブンスの歌う挿入歌「ミステリー・オブ・ラブ」は儚さや切なさ、すべてを表しています。よくもまぁこんなピッタリの音楽書いたなぁと感心してしまいました。すべての要素がそれぞれの美しさを際立たせた、美しさでいっぱいの『君の名前で僕を呼んで』は、4月27日公開です。80年代が舞台ですが、今この時代だからこそ見て欲しい作品です。

(文:岩田リョウコ)

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