『スノー・ロワイヤル』はコメディの傑作?オリジナル版と比較してみた!



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『96時間』シリーズの大ヒットにより、日本でもアクション映画スターの印象が強い、リーアム・ニーソン。

そんな彼の待望の新作映画『スノー・ロワイヤル』が、遂に6月7日から日本でも公開された。

ファンの間では、もはやリーアム・ニーソン主演の復讐映画に駄作無し! が定説となっているだけに、期待して鑑賞に臨んだ本作。果たしてその内容と出来は、一体どんなものだったのか?

ストーリー


雪の町キーホーで模範市民賞を受賞するほどの真面目な除雪作業員ネルズ・コックスマン(リーアム・ニーソン)。受賞直後、一人息子が人違いで地元の麻薬王バイキング(トム・ベイトマン)の組織に殺されてしまう。
復讐を決意したネルズは、犯罪小説で覚えた殺人方法を頼りに、一人また一人と敵を殺していく。だが、これを敵対するホワイトブル(トム・ジャクソン)が率いるネイティブアメリカンの麻薬組織の仕業と勘違いしたバイキングは、彼らを襲撃。報復が報復を呼ぶ中で、バイキングに中々辿り着かないネルズは殺し屋を雇い暗殺を企てるが、誤ってネルズの兄が犠牲になる始末。
ついにネルズはバイキングの一人息子を誘拐し、彼らをおびき寄せようとするのだが、事件はまたまた見当違いの方向へと発展していき…。


予告編


気になるオリジナル版からの変更点とは?



2014年に製作されたノルウェー映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』の英語版リメイクとなる本作は、実は細かい描写に至るまで、ほぼオリジナル版に忠実にリメイクされている。

本作の主人公ネルズは、長年にわたって除雪作業員として地域に貢献し、模範的市民として表彰されるほどの真面目な男。

そんな普通の男が、一人息子を麻薬組織に殺害されたことをきっかけに、復讐の鬼と化して組織に孤独な戦いを挑む!



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このストーリーで、しかも主演が『96時間』シリーズのリーアム・ニーソンとくれば、『ジョン・ウィック』の様に壮絶な復讐劇か、激しいアクション映画を想像する方も多いはず。

ところが、日本版宣伝コピーの「壮絶な、全くかみ合わない戦いが始まる。」が象徴する通り、どこか普通とはズレた登場人物たちが繰り広げる誤解や、度重なるすれ違いがこの抗争を複雑化させ、しかも次第に奇妙な連帯感と笑いを呼ぶ内容へと変化していく本作。



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主人公も含めた登場人物たちの予想外な行動や、暴力的ですぐキレる性格ながら一人息子の教育に悩む悪役の姿など、本作に登場する人々は、皆どこか愛嬌のある個性的なキャラクターとして描かれている。

そんな彼らが集結してバトルロイヤルを繰り広げる本作は、そもそもの原因が麻薬の取引を巡る復讐だったことさえ忘れるほどの面白さとなっているのだが、中でも見事だったのは、敢えてオリジナル版から変更した部分の素晴らしさだった。

実際、バイキングの息子の年齢が幼くなっていたり、男性警官が女性に変更されている点などは、単なるアクション映画に終わらない本作の個性を高める上で非常に効果的であり、特にネルズの息子も麻薬の取引に協力していたというオリジナル版の設定を、実は全くの勘違いで殺されていた、と変更した点は、ネルズの無念さと組織への復讐の想いが観客に伝わりやすくなって実に見事!



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加えて、ステラン・スカルスガルドが演じたオリジナル版のキャスティングでは、あまり強そうには見えない主人公に対して、リーアム・ニーソンには、一見老人に見えて実は強い! というイメージが既にあるため、いきなり主人公が悪人をボコボコに殴り倒す描写に抜群の説得力が生まれる点は、正にキャスティングの勝利! と言うしかない。

これ以外にも、バイキングの部下同士のBL描写が抑え気味に描かれているなど、オリジナル版と見比べると更に新たな発見ができる、この『スノー・ロワイヤル』。

ちなみに、本作の元ネタとなった『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』は、現在アマゾンプライムの見放題タイトルで視聴可能なので、お時間があれば是非鑑賞して頂ければと思う。

ファイティング・ダディ 怒りの除雪車(字幕版)



最後に



鑑賞後に「これってコメディなのか?」、そう思わずにはいられない本作だが、決して英語版にリメイクする過程でコメディ要素を加えたのではなく、徐々にかみ合わなくなっていく抗争の様子や、死人が出る度に表示される名前のギャグまで、オリジナルの『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』をほぼ忠実に再現していたのは、正直かなり意外だった。

思えば映画の序盤で、せっかくライフルの銃身を短く切り落としておきながら、何故か長距離狙撃用のスコープを付けたままで持ち歩くという描写に、思わず「ん?」と思った方も多いと思うが、実はこれもオリジナル版そのままの描写だったりするのだ。



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ただ、主人公が犯罪小説を読んで殺しの手口を学んだという設定を踏まえれば、やけに実用的な死体の処理方法と併せて、こうした勘違いぶりもまた本作の魅力の一つと言えるのではないだろうか。

確かに序盤こそ、突然の悲劇で家族や平穏な生活を奪われた男の孤独な復讐劇が展開すると思わせるが、次第に個性的な登場人物が暴走を始め、観客の笑いを誘うコメディ要素が強くなっていく本作。

復讐劇とコメディ、一見相反する要素が見事に混在することで、文字通り「一本で二度楽しめる映画」となっている作品なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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