『ブリッジ・オブ・スパイ』から連想される 東西冷戦とその映画たち

■「キネマニア共和国」

ブリッジ・オブ・スパイ
スティーヴン・スピルバーグ監督の話題作でアカデミー賞6部門にもノミネートされた『ブリッジ・オブ・スパイ』を、ようやく鑑賞することができました。
東西冷戦下の50年代末から60年代を舞台に、敵国に捕らえられた米ソそれぞれの潜入スパイを東ベルリンの地で交換した実話に基づいたこの作品、私の周りではスパイ映画として大いに盛り上がっているのですが、私自身はこれはやはり冷戦映画であり、実にスピルバーグらしい作品だと思いました。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~》

では、これまでどのような冷戦映画があったか、少し振り返ってみましょうか。

第2次世界大戦後の
アメリカとソ連の対立

東西冷戦は第2次世界大戦後のアメリカとソ連、二大超大国の対立という構図から本格的に始まり、それを象徴するかのように、敗戦国ドイツが1949年、米英仏が占領する西ドイツと、ソ連が占領する東ドイツに分裂します。

朝鮮半島も戦後は北緯38度線を境に北をソ連、南をアメリカが占領していましたが、1950年にソ連の支援を受けた北朝鮮が大韓民国への侵略を開始し、朝鮮戦争が勃発します(この戦争は、今なお終結していません)。

フランス領インドシナではヴェトナムの共産勢力が独立を目指して1946年に第一次インドシナ戦争が起こり、これが後のヴェトナム戦争へとつながっていきます。

こういった背景の許、1950年代のアメリカでは赤狩り旋風が巻き起こり、多くの人々が無実の罪で共産主義者のレッテルを貼られ、迫害されました。その中にはチャールズ・チャップリンのように国外追放された映画人もいます。脚本家ドルトン・トランボは本名で仕事ができなくなり、『ローマの休日』(53)の脚本を書きながらも、その名がクレジットされるようになったのは、彼の死後、21世紀に入ってからの50周年記念デジタル修復版からのことでした。
1950年代の半ばには、一時期雪どけムードも流れますが、58年以降は米ソともにお互いを仮想敵国と想定するようになり、核兵器の大量所持など軍備拡張が盛んになっていきます。

なお、1950年代に作られた『遊星よりの物体X』(51)『ボディスナッチャー/恐怖の街』(56)などアメリカのSF映画の多くは、ソ連をイメージしながら敵の宇宙人や侵略者などを描いているとされています。

宇宙から敵を監視するための人工衛星開発など宇宙開発競争も始まりますが、フィリップ・カウフマン監督の『ライトスタッフ』(83)はこの時期のアメリカの宇宙開発を描いた作品でした。

1961年には東ドイツ政府によって西ベルリンを包囲する“ベルリンの壁”が建設されます。その様子は『ブリッジ・オブ・スパイ』でも描かれていますが、この時期、62年に『007は殺しの番号』(後に『007/ドクター・ノオ』と改題)が大ヒットしたことによってシリーズ化されるとともに、『国際諜報局』(64)『寒い国から帰ったスパイ』(65)『さらばベルリンの灯』(66)『鏡の国の戦争』(68)などなど、現実の冷戦に根差したものから、『電撃フリントGO!GO作戦』(66)や『サイレンサー/沈黙部隊』(66)など活劇重視のものまで、スパイ映画ブームが巻き起こっていきます。

また東西冷戦による世界滅亡の危機を描いた映画も増えていきます。『博士の異常な愛情』(64)『未知への飛行』(64)『駆逐艦ベッドフォード作戦』(65)などはその代表作で、核戦争後の人類の姿を描いた『渚にて』(59)もあります。日本でも『第三次世界大戦 四十一時間の恐怖』(60)『世界大戦争』(61)といった作品が作られています。

現実に60年代の世界は東西冷戦による一触即発の滅亡の危機は幾度もありました。ロジャー・ドナルドソン監督の『13デイズ』(00)は1962年のキューバ危機に伴う第3次世界大戦勃発の脅威を描いたものです。

ベルリンの壁崩壊後も
新たな冷戦が……

70年代のアメリカはヴェトナム戦争で敗北し、その勢いを一時衰えさせますが、80年代に入ってレーガン政権が唱える強きアメリカの復権に呼応していき、映画もまた『若き勇者たち』(84)など共産軍を敵とみなした戦争映画が急増していきますが、中でも『ランボー3 怒りのアフガン』(88)でランボーと共闘するのがアフガニスタンのタリバン勢力というのも、今にして思えば皮肉なものです。

ベルリンの壁はソ連崩壊とともに89年に壊され、東西冷戦は一応の終結を示しました。

しかし、現実には今なおアメリカとロシアは複雑な関係性を示し続け、特にここ数年は新冷戦ともよばれる緊張状態が続いています。

冷戦で勝利を得たと奢ったアメリカは90年代、湾岸戦争やパレスチナ問題などさまざまな軍事介入によって多くの憎しみを買い、それが2001年の9・11同時多発テロへと結びついてしまいますが、その報復としてアフガニスタン侵攻やイラク戦争を起こし、さらなる敵を増やし続けています。

最近、また冷戦時代を舞台に据えた作品やスパイ映画が増えてきていますが、どことなく1960年代の再来のような気もしてなりません。
そうした中、『シンドラーのリスト』(93)あたりからでしょうか、自分がユダヤ系アメリカ人であることにこだわりながら映画を作り続けるようになったスピルバーグが冷戦時代に目を向けるのも、ごく自然なことだったのでしょう。

主人公の弁護士が、いつもの通勤電車から見下ろす風景と、ベルリンの電車から見下ろす風景との相違、ここに彼が訴えたかったものがあるようにも思われます。

「映画は時代を映す鏡」とはよく申したもので、エンタテインメントを通して、巧まずして危機を訴え得るのが、映画の不可思議な魅力ではないでしょうか。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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