W杯に熱狂した全ての人に『アーリーマン』をオススメ!その3つの理由

 (C)2017 Studiocanal S.A.S. and the British Film Institute. All Rights Reserved.

今期のワールドカップでの日本の戦いは終わりました。ベルギー戦で敗れ、初のベスト8入りは逃してしまいましたが、強豪国をあと一歩まで追い詰めたその戦いぶりに世界中から賞賛が集まっていたことはご存知の通りです。

もちろんトーナメントはまだ続いていますが、喪失感や物足りなさを覚えている方は多いことでしょう。そんな気持ちになっている全ての日本人にオススメしたいのは、7月6日より公開されている映画『アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜』です。

パッと見では「子供っぽい」「キャラが可愛くない(失礼!)」と思われるかもしれませんが……、いえいえ、そのイメージで敬遠してしまうのはあまりにももったいないです! 老若男女問わずに楽しめて、家族で観る映画としてベストチョイス、サッカー映画の最高傑作と呼んでも過言ではない、とんでもなく楽しい映画だったのですから!

しかも、本作には子供のみならず、(スポーツに限らず)彼らを指導する立場にある大人にこそ観て欲しいメッセージも備えていました。以下からは、本作の魅力を大きなネタバレのない範囲で紹介します!

1:尋常ではない労力により完成したクレイアニメ! 『KUBO』に通ずる驚きの数字とは?

本作の最大の特徴は“クレイアニメ”だということ。その名の通り劇中のほとんどが粘土で作られているアニメで、日本人であればかわいいイモムシが主人公の「ニャッキ!」や、映画の『クレヨンしんちゃん』シリーズで恒例となっているオープニングを思い出す方も多いでしょう。

本作を製作しているのは、そのクレイアニメの中で世界トップの実績を持つアードマン・アニメーションスタジオ。『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』シリーズなどで知られ、アカデミー賞では短編長編合わせて計11回ノミネート、その中で4回もの受賞を果たしているのです。

そのクレイアニメの作品群は、人形や小物をちょっとだけ動かして撮影して、また動かして、撮影して……という“ストップモーションアニメ”の手法で製作されています。近年の『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』や『ぼくの名前はズッキーニ』と同様に、完成までに尋常ではない労力を要しているのです。

※『KUBO』と『ぼくの名前はズッキーニ』の記事はこちら↓
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は全日本人が必見の大傑作!その素晴らしさを本気で語る!

『ぼくの名前はズッキーニ』は“子どもの考え方”を気づかせてくれる傑作アニメ!その意義と尊さを語る!

この『アーリーマン』でも、制作に直接関わった人数は150名、個々の人形の制作期間は10週間、人形の総数は273体、手作業で作られた交換可能な口は3000個、作業場の広さは約4700平方メートル(スイミングプール4つぶん)などなど……その数字を聞くだけで気が遠くなってきます。しかも、脚本を作るだけでも3年かかり、準備期間から数えれば完成までになんと8年を要していたのだとか。

今までコンビで監督業を務めていたニック・パークは今回で初めての単独監督に挑戦しており、映画の出来栄えについて“マンモス映画”であると表現しています。その妥協のない作品作り、その努力はスクリーンから滲み出てくるように伝わってくることでしょう。

2:ワールドカップ以外もタイムリーな内容だった? 大人がハッとする風刺と皮肉があった!

本作は何しろサッカー映画。ワールドカップの開催中に日本で上映開始されるというのが、実にタイムリーで嬉しいですよね。

それだけでなく、劇中ではスポーツにおける反則・不正行為を皮肉った描写があり、これも(残念ながら)今の日本ではタイムリーな内容と言えます。終盤に敵となる暴君が反則行為を指示しながらも悪びれもしないというのは、日本中が憤慨した某大学におけるアメフト部の騒動をどうしても思い出してしまいました。

さらに、劇中ではサッカーという競技そのものに女性が参加できないという男女差別も描かれています。実は、現実のイギリスで女性のサッカーが始まったのも、ごく最近からのことからなのだそうです。

極め付けは、サッカーの大会で観客が入場する時、スタッフが「お気持ちでけっこうです。全員払え」と言いながらお金を徴収するという、誰もが「おかしいだろ!」とツッコミたくなるシーンです。これは“サッカー自体より収益の方が大事”とも揶揄されてしまった国際サッカー連盟(FIFA)の汚職スキャンダルを反映しているのだとか。ただし、ニック・パーク監督は現実の汚職問題の批判というよりも、お金への執着が汚職を招いてしまうという普遍的な物語にしているとも語っています。

子供向けの映画にも見える『アーリーマン』ですが、実はこうして現実のスポーツにおける状況・問題を作品に取り込んでいるため、大人こそがハッと気づくことも多いのです。

そうした皮肉や風刺を踏まえ、本作では努力と練習、仲間との切磋琢磨、スポーツマンシップ、強大な相手に打ち勝つためのフェアな作戦など、スポーツにおいて(もしくは人生や社会生活において)大切なことを気づかせてくれるシーンがたくさんあります。これこそ、子供はもちろん、彼らを指導する立場の大人にこそ観て欲しい理由なのです。

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余談ですが、『アーリーマン』と同日より公開されている映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』では、1970年代におけるテニスでの男女差別が描かれており、こちらもスポーツに限らず普遍的に全ての人に通ずる、多様な学びが得られる内容になっています。合わせて観てみるのもオススメですよ。

※『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のインタビュー記事はこちら↓
ただのテニス映画じゃない理由はこれだ!『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』監督インタビュー

3:『グラディエーター』の影響もあった? 徹頭徹尾「楽しい」娯楽作だ!

ここまでアニメ作品としての苦労や、現実のスポーツの皮肉や風刺などをまとめてみましたが、本作『アーリーマン』は難しいことは考えなくても徹頭徹尾「楽しい!」と思える娯楽作であることを強く訴えておきたいです。

何より、追いかけっこのシーンや、サッカーの試合そのものが(粘土で作られたとは思えないほどに)大迫力で、さまざまなアイデアが注ぎ込まれていることを賞賛しなければならないでしょう。

『ひつじのショーン 〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』などでもスピーディでスリリングなカーチェイスシーンがありましたが、本作はアニメだからこその良い意味での荒唐無稽さだけなく、サッカーの技術で戦っていくロジカルな物語運びや、“原始人が持ち前のセンスで青銅器時代の強豪チームと戦う”というシチュエーションの面白さも合わさっているおかげで、全く退屈することがありません。

試合が行われるスタジアムを埋め尽くす群衆、原始人の暮らしと相対する青銅器時代の豪華な装飾など、美術にも妥協は見られません。ニック・パーク監督によると、サッカーの試合のシーンではリドリー・スコット監督の『グラディエーター』のような感覚をも取り入れたかったのだとか……!

コメディシーンも単純なドタバタに始終せず、奇想天外なアイデアがこれでもかと詰め込まれ、子供から大人までケラケラと笑えることでしょう。特にバスルームでの“バレるかバレないかサスペンス”には大笑いしましたし、アニメでしかできない“遠近法”を使ったホラーテイストのギャグは大人でも“ゾッ笑い”ができますし、終盤の“再現VTR”のブラックジョークにはもう大爆笑してしまいました。アードマンの作品にはけっこう「これ笑っていいの?」と良い意味で困惑するくらいのブラックな笑いが多かったりするので、本作はまだマイルドなほうでしょうね。

何より、キャラクターの誰もが魅力的で、すぐに大好きになれます(ただし悪役は良い意味で憎たらしい)。パッと見ではそうでもなくても、生き生きと動いているのを観ると可愛くてしょうがないというのは、アニメーションという技法における最大の魅力と言っても良いでしょう。

また、時折モブキャラとして登場するウサギが、良い意味でひどい扱いをされているというところにも注目です。『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』でもそうでしたが、思いっきりウサギを害獣、憎々しい存在として描いているのもある意味で痛快愉快です。そういったところでも、ブラックな笑いを提供してくれますよ。

おまけ:字幕版と吹替版それぞれの豪華な声の出演も要チェック!

本作は声の出演が“超”がつくほど豪華です。字幕版で主人公の原始人の少年を演じるのは、『博士と彼女のセオリー』や『ファンタスティック・ビースト』シリーズのエディ・レッドメイン、悪役の暴君を演じるのは『マイティ・ソー』や『キングコング:髑髏島の巨神』のトム・ヒドルストンなのですから。

エディ・レッドメインは良い意味での危うさや影のある表情も魅力的な役者でしたが、本作ではそのイメージとは真逆とも言える明るく朗らかな少年を演じています。とは言え、自信過剰な性格である反面、その自信がなくなるととてつもない絶望を感じてしまった時のその声を聞けば、エディ・レッドメインの配役がいかに的確であったかもわかるでしょう。

トム・ヒドルストンは、『マイティ・ソー』のロキという悪役に匹敵する……いや、さらにどうしようもない悪役をチャーミングに演じています。彼はアードマン作品の大ファンで、ニック・パーク監督に直談判してこの役を手にしたそうで、その情熱も半端なものではないことがわかりますね。(彼はロバート・デ・ニーロのモノマネを披露していたこともあって、それも役に選ばれた理由になったのだとか)

本作は“言葉遊び”が多いのも特徴で、字幕版で観てこそ数々のダジャレやジョークの本当の意味がわかることでしょう。しかも、本作はキャラによって英語の訛り方が違っており、それがイギリスという国の多様性、サッカーという競技の多民族性も示しているのだそうです。特にトム・ヒドルストンが演じる暴君のキャラは、英語を聴き慣れていなくても“フランス語訛り”になっていることがわかるかもしれませんよ。

そして、日本語吹替版のキャストがこれまた超豪華! 主人公を梶裕貴、ヒロインを沢城みゆき、悪役を大塚芳忠、女王を戸田恵子が担当する他、佐々木梅治、堀内賢雄、諏訪部順一、山寺宏一が脇を固めているのですから。本業が声優であり、その実力と人気もトップクラスの方々が務めた吹替版のクオリティが高いこともまた保証済みでしょう。筆者は字幕版しか観ていないので、吹替版も観に行きます!

まとめ

これまで語ってきた通り、本作『アーリーマン』は凄まじい労力の末に完成した作品であり、現実のスポーツに通ずる皮肉や風刺があり、何より娯楽作品として徹頭徹尾楽しめる内容になっています。家族で観る映画としてこの夏のイチオシ、アードマン作品を1本も観たことがないという方の“入門”としてもベストチョイスと言えるでしょう。

また、大人が観る映画以上に、子供向けとされる映画は、“みんなが知っている”ネームバリューのある作品にお客さんが集まってしまうという傾向があります。それ自体は決して悪いことではありませんが、新しいコンテンツが浸透しにくいという現状と、長年に渡り世界中で愛されているアードマンというアニメスタジオの名前がそれほど日本では広まっておらず、この『アーリーマン』という素晴らしい映画が子供に知られないままというのは、さすがにもったいない……と筆者は強く思います。

ワールドカップの熱狂をまだまだ感じたい、子供が喜ぶ映画であればそれで良い、現実でイヤなニュースが多いからスカッとできる映画が観たい……理由はなんでも構いません。この夏は『アーリーマン』を映画館で観ようではありませんか!

(文:ヒナタカ)

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