「変態だー!」そう叫びたくなる映画『エル ELLE』を楽しむためのコツを教えます

(C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINEMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

公開中の映画『エル ELLE』がいろいろな意味で面白く、そして良い意味で“戸惑う”内容でした。本作の魅力がどこにあり、どういった心構えで観ればよいのか?以下にまとめてみます。

1:レイプ犯に復讐する話だと思ったら……主人公の行動が意外すぎる!

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まず言っておかねばならないのは、本作が「暴行された女性が犯人に復讐する」というだけの、単純明快な内容ではないということです(その要素もあるにはあるのですが)。というのも、主人公の女性があまりにも「えっ?」と驚く行動をするおかげで、積極的には復讐劇になっていかないのです。

その中でも特に目立つのは冒頭のシーン。主人公は突如現れた暴漢からレイプされてしまうのですが、その後に彼女は冷静に割れた食器を片付け、なんと電話で“お寿司の出前を頼む”のです。

誰もが「いやいや、警察に通報しないの?」や「お寿司を頼んでいる場合じゃないでしょ!」などと心の中でツッコむでしょう。その後の会食では、主人公は自分がレイプされたことをあっけらかんと知り合いに打ち明け、それを聞いた知り合いはもちろんドン引きし、警察に訴えていないことを知ってさらに愕然としていました。そりゃそうだ!

主人公がレイプ被害を警察に訴えないことには、明確な(しかも強烈な)理由があります。しかし、それをまだ知らされていない観客は、「この主人公はいったいどうしてしまったんだ?」と戸惑うことでしょう。

この“戸惑い”こそが本作の面白いところ。なぜなら、この“当たり前のことをしない”主人公が、そのような人間になった“理由”が、ゆっくりとわかるようになっていくのですから。観ていくうちに「そうだったのか」「こうなるのも仕方がない」などと納得できるだけでなく、普通の女性ではあり得ない行動ばかりをする主人公にも関わらず(だからでこそ)、どこかカッコよさを感じられるようになるかもしれません。

重ねて言いますが、本作は積極的にレイプ犯を探して復讐するというだけの、わかりやすいサスペンスではありません。むしろ暴行事件を主軸として、主人公やその周りの人間関係を“浮き彫り”にしていく人間ドラマ、と言ったほうが近いでしょう。

2:もはやブラックコメディ?黒い笑いに満ちていた!

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本作は、実はブラックコメディと呼んでも過言ではありません。前述の“レイプされた後に平然と電話でお寿司を頼む”もそうなのですが、全編に渡って「これ笑っていいの?」と戸惑う(でも笑ってしまう)、黒い笑いに満ち満ちているのです。

たとえば、主人公は警察にレイプ被害を訴えないので、もちろん自衛の手段を取るのですが、お店で物色しているのが“とうがらしスプレー”だけでなく、“ハチェット(斧)”だったりするのです(しかも買う)。犯人を(正当防衛で合法的に)殺す気まんまんじゃねえか!

主人公はゲーム会社の社長なのですが、序盤でプレゼンをしている男性社員とのやり取りも笑えます。主人公は「エロいシーンをもっとエロく!」と訴えるのですが、社員のほうは「そんなことより操作性がクソなほうが問題ですよ!」と言っているのですから。こんなん笑うだろ!(このシーンは、主人公が“性的な歓びを求めている”という皮肉としても重要だったりします)

白眉となるのは、主人公の息子に子どもが生まれたシーンですね。ここはもう観ていただきたいので詳細は書きませんが、“息子の友人”と“赤ちゃんの肌の色”と“主人公が生まれた赤ちゃんを見て言った言葉”に注目すると、もう笑わざるを得なくなるはずです。

映画館で観ると、普通のコメディ映画とはまったく違う「ハハッ……」「ブフッ……」というか細い笑い声で包まれる劇場の空気にも、味わい深いものがありますよ。

3:ヒドい目にあっても“強い”女性が輝いている!カッコいいその姿に惚れろ!

主人公は前述してきたようにエキセントリックなところもある女性ですが、49歳という年齢でゲーム会社の社長であり、圧倒的なお金持ちでもあります。つまりは、社会的にも経済的にも“強い”人間なのです。

壮絶な過去にも関わらず今の地位を手に入れたという事実、そして彼女が警察に訴えず自分の力でレイプ犯を見つけ出すということには、圧倒的なまでの精神的な強さも感じさせます。男性社会でもひるまずに社会で成功してきた過去と、辛い出来事があっても泣き寝入りなどしない現在……そのような彼女の“来歴”までもが、たたずまいや言葉の端々から伝わるのです。

また、作中の男性がクズばかりというのもミソ。主人公へのセクハラ行為や、息子のダメっぷりは本気でヒドいです(褒めています)。このクズ男たちとの対比のおかげで、より主人公のひるまない、性的なことでも堂々としている様が、よりカッコよく見えてきます。

「強い女性がカッコいい!」というのは、奇しくも同日に公開された『ワンダーウーマン』とも共通しています。カッコよさのベクトルはまったく違いますが、合わせてみてみると、女性への見かたが良い方向へと変わるかも……どちらも、男性にこそ観て欲しい映画です。

ちなみに、主人公を演じたイザベル・ユペールは64歳ですが、その年齢を感じさせない存在感に圧倒されました。『ピアニスト』では性的なことがらに満たされない女性を演じていましたが、本作『エル ELLE』ではまったく逆の「レイプなんかに負けねえ!」な女性になっているというのもすごいところ。誰もが、ベテラン女優の本気を思い知ることができるでしょう。

4:ポール・バーホーベン監督の“らしさ”と“変態性”が全開だった!

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本作の監督がポール・バーホーベンということも重要です。『ロボコップ』や『トータル・リコール』などのメジャーな作品でも知られていますが、その作風を語ると“エログロ”と“悪趣味”という単語がどうしても出てきます。いわゆる勧善懲悪ではない、強烈な風刺の効いた物語もポール監督らしさの1つですね。

過去のその作品群を振り返ると、いかに『エルELLE』という題材(※原作は小説がポール監督にぴったりだったかが、よくわかります。

たとえば、『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』は、領主に裏切られてしまった傭兵たちが復讐の旅に出るという内容なのですが……この傭兵たち(※主人公チーム)が信じられないほどのクズ集団! 旅の途中で女性を拉致して陵辱し、貴族からも略奪の限りを尽くしたりするのですから。拉致された女性がレイプされても泣きわめいたりしない(むしろ歓んでいるふしもある)のも、『エル ELLE』 と共通していますね。

他にも、『インビジブル』では「透明人間になったらエロ行為をしまくり!」という最低な男の欲望を描きまくっていましたし、『ショーガール』や『氷の微笑』では女性がダメな男を手玉に取りまくり、『ブラックブック』では性的なことにもひるまずに女性という武器で戦う女スパイの姿を描いたりしていました。

つまり、ポール監督作品の多くでは、男性が(性的な意味での)クズ野郎で、女性がヒドい目にあっているのです。しかし、そんな最悪な状況でも“戦う”カッコいい女性たちの姿を描いているので、むしろポール監督作品はフェミニズムの精神に溢れていると言っていいでしょう。

5:“型破り”だからでこそ面白い!実は勇気と希望をもらえる映画だった!

“クリシェ”という言葉をご存知でしょうか。乱用されたり、決まりきった表現すぎて、目新しさがなくなったもののことを指しているのですが、『エル ELLE』はそのクリシェの反対を突っ走っていると言っていいでしょう。それは、以下のポール監督の言葉からもわかるはずです。

「他の監督や脚本家がしてきたことをそのまま繰り返すつもりは全くなかった。観客を驚かせるほうがおもしろいし、愉快だ。僕はストラヴィンスキーを、そして彼の交響曲の型破りな作曲方法を崇拝している。常識を覆すんだ!」

この言葉通り、『エル ELLE』は単純な復讐劇ではない、わかりやすい女性賛美でもない、それでいて映画全体がブラックコメディの様相を呈しているなど、他の映画にはない、新鮮さとオリジナリティに満ち満ちています。創作物が飽和状態と言われる現代に、ポール監督が78歳にしてここまでの作品を作り上げたこともすごい!

ただ、この型破りな作風は、言い換えれば“誰もが望む展開”にはならないということ、賛否の分かれるポイントでもあるでしょう。良くも悪くもどうかしている登場人物ばかりですし、普通のサスペンスを期待すると「さっさと犯人を追い詰めてよ!」や「なんでそんなことをするの?」などとイライラしてしまうのかもしれません。

つまり、この映画を観る心構えで必要なのは、以下の3つです。

  • 犯人を追い詰めるようなサスペンスよりも、“どういう人間か”を描くドラマの側面が強い
  • 性的な意味においても“強い”女性を主人公にしている
  • 「これ笑っていいの?」と感じるブラックコメディの要素が多い

これらを踏まえて観れば、きっと『エル ELLE』を大いに楽しむことができるでしょう。

なお、ポール監督は「これは物語だ。現実の生活でもないし、女性についての哲学的な映像でもない。すべての女性が、主人公と同じように行動するべきだと言っているわけでもない」とも話しています。

本作に限らず、映画の主人公のように“強く”あることは難しいでしょうが、現実で生きるための勇気と希望をもらえることは多くあります。『エル ELLE』もまた、独特で変態的な内容でありながら、実は普遍的に“虐げられた”人の気持ちに寄り添っている、優しい内容とも言えるかもしれません。

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(文:ヒナタカ)

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