『マダム・フローレンス!』が最高級の音楽映画である5つの理由

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

(C)2016 Pathé Productions Limited. All Rights Reserved

現在、実在の“音痴の歌手”だったフローレンス・フォスター・ジェンキンスを主人公にした映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』が公開されます。本作の魅力がどこにあるのか?大きなネタバレのない範囲で、たっぷりとお伝えします。

1:あのメリル・ストリープが音痴になってしまった!

本作はメリル・ストリープの主演作です。『プラダを着た悪魔』や『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』では厳格で近寄りがたい雰囲気の女性を演じていましたが、今回は一転して天真爛漫でかわいらしい役柄になっています。世界的大女優の力を存分に感じられることでしょう。

そのメリル・ストリープが“訛りの女王”と呼ばれていることをご存知でしょうか?これは作品の背景に応じて、“ドイツ語訛りのポーランド語”など、各地域のイントネーションを巧みに使い分けて演じていたことに由来しています。

その訛りをマスターできたのは、メリルがすべての音の高さを聞き分ける“絶対音感”の持ち主であることと、オペラ歌手を志望して訓練をしていたおかげでもあるのだとか。メリルは音楽の才能に恵まれ、努力もされてきて、しかもその経験が女優としての力にしていたのですね。

もちろん、そのメリルの歌唱力は『マンマ・ミーア!』や『イントゥ・ザ・ウッズ』などのミュージカル映画でも証明済み。老年の売れないミュージシャンを主人公にした『幸せをつかむ歌』でも、心に響く歌声を届けてくれました。

……で、そんなふうに映画界随一の音楽の能力に恵まれているメリルが、この『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』では、歌唱力が最低の歌姫を演じるわけです(笑)。それだけでも観たくなるではないですか!

しかもメリルは、この音痴の歌手の役のオファーを快諾。それどころか「『史上最悪のオペラ歌手の役をやってほしい』と言われた時は大喜びしたわ!」と答えるほどにノリノリだったのだとか。

メリルは、そんな音痴の役でも歌の猛特訓をしました。まずは普通に上手く歌うためのボイストレーニングを行い、そこからちょっとずつ音痴になるように崩していったのだとか。ほぼ“二度手間”ではないですか!

なお、メリルはただ音を外して歌うだけでなく、自分がイメージする、フローレンス・フォスター・ジェンキンスの“強い想いと愛情”が感じられるような歌声を目指したそうです。

そのおかげもあるのか、彼女の歌声は音を外しまくりなのに、ちっとも不快じゃありません。それはメリルの演技力を通じて、音痴の歌姫の真っ直ぐな人柄が伝わって来るからなんでしょうね。

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

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2.ヒュー・グラントの名演にも注目!大きな愛を感じる作品だ!

フローレンスの夫であるシンクレアを演じるのは、これまたハリウッドの実力派俳優のヒュー・グラント。彼は愛する妻のためにコンサートを手配したり、はたまた批評家を買収したり(笑)と、とてつもなく妻を甘やかしまくるやさしい男性に見えることでしょう。

しかし、映画の序盤から彼が“それだけでない”人物であることにも気づけるはずです。というのも、彼は妻がいないところで、若い女性と一緒の時間を過ごしたり、キスをしているのですから。はっきり言えば不倫野郎なのです。

そうであるのに、このシンクレアが不快に見えないのも本作の優れたところ。「いやいや、妻をほっぽいて、若い女といちゃいちゃしている奴に好感を持てるわけないじゃん!」と思う人ほど、本作を観て欲しいです。彼の浮気がバレないようにする様はクスクス笑えるコメディにしていますし、彼にとってちょっと苦い出来事も訪れるので、「浮気は絶対に許さん!」という人でも、溜飲が下げられるのではないでしょうか。

何よりも、主人公の2人がお互いにとてつもない愛情を注いでいることは、きっと伝わるはず。熟年のカップルに(もちろん若くても)、ぜひこのラブストーリーを見届けてほしいです。

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

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3.コメディとして超おもしろい!お人好しのピアニストのリアクションに注目だ!

本作の3人目の主人公と言えるのが、お人好しすぎるピアニストのコズメです。彼を演じたサイモン・ヘルバーグは10歳のころからピアノを弾いており、その腕前はヒュー・グラントから「コンサートを開けるレベルの名ピアニストだ!」と絶賛されるほどだったとか。

そして、このコズメがフローレンスの歌唱力に戸惑いまくるのがおかしくって仕方がありません。「あれ、この人の歌声やばいよ?」、「でも歌の先生や旦那さんが絶賛しているぞ」、「なんで俺こんなところにいるの?」といった感情が、彼のリアクションと表情だけでめっちゃ伝わってくるので、笑いが止まらなくなるんです。

しかも、コズメは自身のキャリアを気にして苦言を呈していたのに、徐々にフローレンスの人柄に惚れて、心から彼女のコンサートのために演奏をしていくようになる、というのがまた素晴らしいところ。気持ちのいい登場人物がたくさん出てくる作品であり、特にコズメのことは大・大・大好きになりました。

マダム・フローレンス! 夢見るふたり サブ1

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4.“幸せになる笑い”と“嘲笑”は大違いだ!

そんなふうに音痴の歌手に対する愛情が溢れている作品ではあるのですが……当然というべきか、彼女に心ない罵声を浴びせる者や、はたまた“音楽への冒涜だ”と完全に彼女を否定する人物も登場します。

それらの描写で観客に伝えられるのは、“嘲笑”がいかに醜いかということと、フローレンスが“幸せになる笑い”を届けてくれていたという事実です。

彼女の歌声は確かに最低なのですが、歌への情熱と愛には溢れています。だからでこそ、多くの人の心を掴んで離さないのに……それをあざけ笑うなど、言語道断でしょう(もちろん、技術的なことでは批判されても仕方はありませんが)。

この“幸せになる笑い”と“嘲笑”は大違いである、というメッセージは、体が不自由な大富豪と黒人青年の交流を描いた『最強のふたり』にも通じています。“笑い”に対する正しい価値観を教えてくれるという点でも、『マダム・フローレンス!』は志の高い作品と言えるでしょう。

マダム・フローレンス! 夢見るふたり サブ2

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5.夢を見ることの素晴らしさを描いた物語である!

これまで書いてきたように、『マダム・フローレンス!』は“音痴の事実を隠蔽しようとする話”なのに、“真実の愛とは何か”、“笑いの本質”を深く描くという、脚本の完成度が半端ではない作品になっています。

もう1つ重要なのは、本作が“夢を見ることの素晴らしさ”を描いているということ。序盤にフローレンスがとある理由で音楽への夢を諦めたことなどが語られているのですが、これがとても辛く、切ないもので……だからでこそ、カーネギー・ホールという大舞台で歌おうとする彼女を(たとえ音痴でも)応援したくなるのです。

本作のサブタイトルに『夢見るふたり』とついているのも上手いですね。これはフローレンスだけでなく、その彼女の夢を叶えようとする、夫のフローレンスの夢をも描いた物語なのですから。

クライマックスのとある演出は、これ以上のものはない!というほどに感動しました。ぜひ、何かにチャレンジしたい人、夢を持ち続けたいと思っている人にも、この映画をおすすめします!

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(文:ヒナタカ)

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