『記憶の夜』誘拐されて帰ってきた兄は別人なのか?絶対ダマされる「3つ」の理由!

第27回:『記憶の夜

今回ご紹介するのは、2017年製作のNetflixオリジナル映画『記憶の夜』です。

『ミッドナイト・ランナー』のカン・ハヌルと、『悪人伝』で暴力刑事を演じていたキム・ムヨルが共演するミステリーなのですが、その二転三転するストーリーや予想を覆す衝撃展開の連続に、先の展開がどうなるのか? 思わず目が離せなくなってしまう本作。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー

一家4人で新居に引っ越してきた、受験生のジンソク(カン・ハヌル)。だが、ある夜突然ジンソクの目の前で、兄のユソク(キム・ムヨル)が謎の暴漢たちに車で連れ去られてしまう。行方のしれないまま、19日後にユソクは帰ってくるが、彼はその間の記憶を全て失っていた。
帰ってきた兄の様子が以前とは違うことに気が付いたジンソクだったが、ある決定的な事実を目にして、ついに兄が別人だと確信する。毎晩どこかへ出かけていく兄の後を追ったジンソクは、平穏な家族に隠された衝撃の事実と向き合うことになるのだが…。

理由1:幸せな家族に隠された驚愕の秘密とは?

新居に引っ越してきた、ある4人の家族の幸せそうな姿から始まる本作。

受験に失敗して二浪中のジンソクは、神経症を患い薬を服用しながら受験勉強中の身。

自分とは正反対にスポーツ万能で勉強も出来る兄ユソクの存在が、唯一の自慢でありプライドだったジンソクですが、一年前の交通事故でユソクの左足が不自由になってしまったことが、映画の冒頭から観客に明かされます。

引っ越してきた新居には、前の住人の残していった荷物が置かれている”開かずの間”があるため、ジンソクとユソクは子供の頃のように同じ部屋で生活することに。

引越し当日の夜、雨の中を二人で散歩に出かけたジンソクとユソクですが、先に家に帰ったユソクが謎の男たちにワゴン車に押し込まれ誘拐される現場を、ジンソクは目撃してしまいます。

咄嗟に車のナンバーを覚えていたジンソクは、警察にそのことを教えるのですが、そのナンバーの車が存在しないことが判明するなど、誘拐事件の捜査は早い段階で暗礁に乗り上げてしまうのですが、なんと誘拐されてから19日後に、ユソクは自力で無事に生還!

強い心理的ショックにより、誘拐されていた期間の記憶を一切失っていたユソクですが、兄の身体的動作に覚えた違和感から、ジンソクは、無事に帰ってきた兄が別人なのでは? そんな疑惑を抱くようになります。

兄の正体を確かめようと、毎晩どこかへ出かけていくユソクの後を追って怪しいビルの中へと足を踏み入れたジンソクですが、ついにそこで決定的な証拠を目撃することに!

一連の出来事によって兄が別人だと確信したジンソクは、母親に全ての出来事を話すのですが…。

尊敬する兄はどこへ消えたのか、そして今目の前にいる男は何者なのか?

ここから先は、ぜひご自分の目でご確認頂きたいのですが、幸せな家族に隠された意外な事実が明らかになってからの怒涛の展開は、文字通りどんでん返しの連続で必見!

もちろん、こうした意外なストーリー展開だけではなく、実は映画冒頭の引越しのシーンで、すでに重要な伏線やトリックが複数登場していたことに後から気付かされるなど、その練りこまれた脚本を生かした巧みな演出も、本作成功の大きな要因となっています。

例えば引越し業者とジンソクの何気ない会話や、引越しの作業中にユソクが取ったある行動など、その場では全く違和感なく素通りしてしまうような描写が、映画の後半で「あ、そうだったのか!」、そう観客に思わせるのは見事!

更に、ジンソクが神経症を患っていて薬を常用しているため、「全ては彼の妄想かもしれない?」、そんな疑惑が観客に強く植え付けられるのですが、実はジンソクが薬を飲んでいる設定にも重要な理由があることが後に明かされる点も、実に上手いのです。

鑑賞後にすぐ観返したくなるその巧みなストーリー展開を、ぜひお楽しみ頂ければと思います。

理由2:当時の社会背景が悲劇の連鎖を生む

その意外なストーリー展開に加えて、登場人物たちを繋ぐ悲劇の根本的な原因が、実は1997年に通貨危機に陥った韓国の厳しい経済状況にあったことが明らかにされる本作。

実際、映画の中でも、高卒で文系の人間には就職先がなかったり、個人ローンの借り入れも断られてしまうなど、東南アジアから始まったこの経済危機が当時の人々に及ぼした影響が描かれることで、こうした厳しい社会状況が家族という人間関係をも崩壊させ、他人を犠牲にして自分が生きるという状況に人々を追い込んでしまったことが、観客にも実感できるのです。

加えて、実は登場人物たちの行動の根底に、家族への強い想いが存在することで、あまりに救いのない結末に込められた社会へのやり切れない怒りが、いつまでも観客の心に残るのは見事!

生活のために家族さえも犠牲にしようとする者と、その反対に愛する家族のために自ら犯罪に手を染める者との対比を通して、国家の経済破綻という危機的状況の中で、当時の人々がいかに厳しい選択を強いられたか? その事実を描き出そうとする、この『記憶の夜』。

どんでん返しの連続によるストーリーの面白さはもちろんですが、作品の世界観に現実味と説得力を加える、こうした当時の社会的背景にも、ぜひご注目頂ければと思います。

理由3:出演キャストの演技対決は必見!

仲の良い家族4人が新居に引っ越してくる冒頭部分の印象が、ユソクの誘拐事件をきっかけに次第に覆されていくだけに、序盤と中盤以降で大きく変貌する登場人物を演じる出演キャスト陣の演技対決は、本作の大きな見どころとなっています。

中でも、パク・ソジュンと共演した『ミッドナイト・ランナー』でも好演を見せたカン・ハヌルが、抜群の演技力で演じる主人公ジンソクの複雑なキャラクターは必見!

特に、ある瞬間を境に一瞬でその姿を変貌させるカン・ハヌルの演技は、この映画最大の見どころとなっています。

更に、先日公開されたマ・ドンソク主演の『悪人伝』での暴力刑事役が印象的なキム・ムヨルが演じる、弟想いの優しい兄ユソクの二面性は、悲劇的な結末に向かって加速する後半の展開を大いに盛り上げてくれるのです。

加えて、この二人がラストの病室のシーンで見せる演技対決は、その後に訪れる容赦ない展開を観客に納得させるだけの迫力に満ちていて、実に見事!

優しい兄を慕うジンソク役のカン・ハヌルと、複雑な背景を持つ兄ユソクを演じるキム・ムヨルの高い演技力に、観客もこの事件の真相と結末が気になってしまうのですが…。

出来れば一切の情報を遮断してご鑑賞頂きたいので、ここから先の展開について詳しく書くことは避けますが、家族を想うが故に犯罪に手を染めてしまった者と、家族の命を奪われた事件の真相を突き止めようとした結果、皮肉にも深い絶望を味わうことになる者との対比を通して、「あなたなら、家族のためにどう行動するか?」、観客の心に問題を投げかける、この『記憶の夜』。

あまりに救いのないラストと見事な対比を見せるエピローグの存在が、前回ご紹介した『悪のクロニクル』や名作『新しき世界』を思わせる作品なので、全力でオススメします!

最後に

注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

目の前で何者かに誘拐されてから19日後、自力で帰ってきた兄の様子がいつもと違う気がする…。

弟ジンソクが覚えた小さな違和感や疑問から、この家族に秘められた重大な秘密と、ジンソク自身に関するあまりに残酷な事実が明らかになっていく、この『記憶の夜』。

尊敬する兄が別人と入れ替わっている! そう確信した弟が、事件の真相と本当の兄の行方を探っていく映画、そんな観客の予想を大きく裏切って物語は二転三転、誰もが予想しなかった思わぬ展開へと突き進むことになります。

映画の冒頭から、実はジンソクが精神安定剤を服用していることが語られるなど、全てはジンソクの妄想なのか? そう観客に思わせる展開が用意されている点も上手いのですが、誘拐前とは明らかに違っている兄の身体的動作や、ジンソクが寝てから毎晩どこかへ外出する不審な行動が描かれることで、ジンソクの疑惑が正しいことが次第に観客にも分かってくるのです。

実際、序盤の展開を観る限りでは、誘拐されて無事に発見された人間が別人に入れ替わっていた! という、過去の類似作品のようなミステリーと思っていたのですが、同じカン・ハヌル出演作『ミッドナイト・ランナー』での、主人公たちが悪人に追われて警察署に駆け込むシーンを思わせる場面で、それまで観客が見てきたもの全てが覆される展開は必見!

加えて、カン・ハヌルの見事な演技力によって、映画の根幹を成すこの重要なトリックを観客が自然と受け入れられてしまう上に、それまでの描写が全く違った意味を持つことになるので、鑑賞後にもう一度最初から観返したくなってしまう点も、実に上手いのです。

あまりに辛い経験から自分を守るため、自ら忌まわしい記憶を消した人間が全てを思い出した時、その記憶が人々を絶望の淵に叩き落すことになる。

あれほど知りたいと願った事件の真相が、皮肉にも最悪の結果を引き起こすことになるラストの展開には、国家の経済破綻で一般の人々が味わった苦しみと、幸せな家族の生活が一瞬にして崩壊する恐怖がリアルに描かれているのです。

後に哀しい運命で繋がることになる二人の出会いが、過去の幸福な思い出としてエピローグに登場することで、復讐の哀しさや虚しさが観客の心に深く突き刺さることになる、この『記憶の夜』。

それまでジンソクの目を通して描かれていた現実が、一気に覆されるその衝撃の展開を、ぜひ目撃して頂ければと思います。

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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