『悪のクロニクル』パク・ソジュンVSマ・ドンソクの対決だけじゃない「3つ」の魅力!




第26回:『悪のクロニクル

今回ご紹介するのは、Amazonプライム・ビデオで配信中の2015年製作の韓国映画『悪のクロニクル』です。

「梨泰院クラス」のパク・ソジュンと、あのマ・ドンソクが刑事役で共演しているという、ファンにとっては見逃せない顔合わせも魅力の作品なのですが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


名誉ある大統領賞を授与され、本庁への昇進を控える敏腕刑事のチェ・チャンシク捜査一課長(ソン・ヒョンジュ)。同僚たちによる祝宴の帰りに乗ったタクシーで眠っている間に、人気のない場所に連れていかれる。ナイフを手に襲いかかる運転手との乱闘の末、誤って殺してしまったチェは昇進に影響することを恐れ、証拠を隠滅しその場を去った。翌朝、工事現場のクレーンに吊るされた死体のショッキングな映像がテレビを賑わす。事件を担当することになったチェだが、死体が自ら殺した運転手であることを知り驚愕する。そして、事実を隠蔽するため画策する中、不可解な出来事が次々と起こり、チェは底知れぬ罠に巻き込まれていることに気がつくのだが…。


魅力1:15年前の事件が悪夢のように蘇る!



映画の冒頭に登場する、12人を殺した罪で警察に連行される父親を雨の中、泣きながら見送る男の子の姿と、「僕は殺人鬼の息子だった」というナレーションが観客の興味を引きつける、この『悪のクロニクル』。

そこから一気に15年が経過し、名誉ある大統領賞の授与と本庁への栄転が決まり、人生最良の瞬間を迎えようとしている捜査一課のチェ課長の姿へと繋がっていきます。

チェ課長を兄貴と呼ぶベテランのオ刑事や、家族のように可愛がっている若手刑事のドンジェなど、部下からの人望も厚いチェ課長ですが、その裏では賄賂を受け取って部下に分け与えたり、世話になった有力者に便宜を図るなど、長い刑事生活の中でいつしか腐敗にまみれてしまったことが、観客にも分かってくるのです。

そんな中、部下たちによる祝賀会の帰りに酔ってタクシーに乗り込んだチェ課長は、いきなり運転手に刃物で襲われ、正当防衛とはいえ相手を刺し殺してしまいます。

本庁栄転への内部審査が目前に迫っていたため、とっさに自身を守るために証拠隠滅を謀るチェ課長ですが、翌日そのタクシー運転手の死体が工事現場のクレーンに吊り下げられていたことから、事件は公のものとなってしまうことに…。



こうして自身が犯人である事実を隠しながら、チェ課長は部下たちと共に事件の捜査に当たることになるのですが、死体の発見現場に乗り捨てられたタクシーの中から、ドンジェがチェ課長の持ち物を発見したり、重要な証拠となる防犯カメラの映像が捜査チームに発見されるかどうか? など、多くの謎とサスペンスを盛り込みながら、物語は更に意外な展開へと加速していくのです。

果たして、チェ課長の殺人は周囲にバレてしまうのか、そして彼を罠にかけて破滅させようとする真犯人は誰なのか?

冒頭に登場した男の子の秘密や、あまりにも哀しい真犯人の目的など、タイトルの通り長年にわたって隠蔽されてきた秘密が暴かれることで、人々の人生が破滅に向かって突き進んでいく展開は必見です!

魅力2:パク・ソジュンがマ・ドンソクとタイマン勝負!



前述した犯人探しのミステリー要素に加えて、パク・ソジュンとマ・ドンソクという人気俳優二人の共演も、本作の大きな見どころとなっています。

本作でパク・ソジュンが演じるのは、若き新人刑事のドンジェ。

チェ課長とは家族ぐるみの付き合いだけに、殺人事件に関与した証拠を発見しながら、チェ課長への想いと刑事としての立場との間で苦悩する若き刑事を見事に演じてくれています。

一方、マ・ドンソクが演じるのは、チェ課長を兄貴と呼ぶベテランのオ刑事。チェ課長と長年、行動を共にしてきた頼れる右腕として、ドンジェに刑事としての心構えを教える重要な役柄として登場しています。

ファンにとっては非常に嬉しいこの二人の共演シーンですが、マ・ドンソクがパク・ソジュンに自分の筋肉を触らせるシーンなど、アドリブとも思える演技や二人の息の合ったやりとりが楽しめる点も、韓国映画ファンには堪らない見どころとなっているのです。

特に捜査チームが屋台で宴会をしているシーンでの、「もっと飲んだほうがいいぞ」と言いながらパク・ソジュンの首をマッサージするマ・ドンソクの嬉しそうな表情からは二人の仲の良さが伺えて、観ている方も思わず顔がほころんでしまうことは確実!

実際二人は、パク・ソジュンの映画初出演作『パーフェクトゲーム』でも共演しているので、この点を踏まえて映画を観ると、二人の関係性がより実感できるのでは?

ちなみに『パーフェクトゲーム』には、パク・ソジュンは本名のパク・ヨンギュ名義で出演しているのですが、いまだに日本では未公開・未ソフト化のままなのは残念!

ファンにとっては今後のDVDリリースや配信が待たれるところです。

このように、刑事という仕事の表と裏を知り尽くしたベテランと、犯人の側に立って感情や理想が先行してしまう若い刑事という、二人の演技対決も見逃せないところですが、やはり本作最大の見どころはマ・ドンソクとパク・ソジュンの肉弾対決!

同じ捜査一課の先輩と後輩の二人が、なぜ闘うことになるのか? その理由は、ぜひご自分の目で目撃して頂きたいのですが、後に総合格闘技の選手を演じたり、悪魔と素手で闘うことになるパク・ソジュンと、ブレイク前のマ・ドンソクの肉弾対決は迫力満点!

『ミッドナイト・ランナー』や「梨泰院クラス」でパク・ソジュンの魅力に触れたという方には、彼の違った一面や確かな演技力が楽しめる作品となっているので、ぜひご鑑賞頂ければと思います。

魅力3:意外な真犯人の正体、そして目的とは?



注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

自身が犯した殺人の証拠を隠しながら、独自の捜査で犯人に迫っていくチェ課長ですが、ついにある有力な容疑者の存在と、過去の冤罪事件に関わった元警官3人が連続して殺害されている事実を突き止めます。

実は、冒頭のシーンで殺人犯として連行された男が冤罪であり、その息子が成長して当時の事件関係者に復讐していることが捜査の過程で明らかになるのですが、事件の核心から観客の目を巧妙に逸らす脚本と演出のおかげで、ここから物語は更に意外な展開へと進み、真犯人の正体が最後まで分からなくなるのは見事!

真犯人を追いつめるうちに、自身が過去に犯した冤罪事件と向き合うことになるチェ課長ですが、主演のソン・ヒョンジュの名演のおかげで、この男が組織の中で生きるために自分の感情や良心を殺して生きてきたことが、観客にも充分伝わることになるのです。

加えて、自身に不利な証拠を隠蔽しようとするチェ課長の不振な行動に気付きながら、家族同然に思ってくれている課長への想いと警察官としての職務の間で板挟みになるドンジェや、この復讐計画に加担した人々の意外な関係性など、単なる犯人探しのミステリーではなく、さまざまな過去の因縁がラストの対決へと集約していくことで、より悲劇性が高まる演出も実に上手いのです。

更に、チェ課長が防犯カメラの映像を盗んだことに気付いたドンジェが、尊敬する上司であるチェ課長に自分の想いを告げるシーンに重要な意味が隠されているなど、出演キャストの細かい演技や表情が鑑賞後にジワジワ効いてくる点も、本作成功の大きな要因と言えるでしょう。

ちなみにチェ課長を演じるソン・ヒョンジュは、以前この連載でご紹介した『シークレット・ミッション』で、主人公の教官を演じていた名優であり、冒頭のシーンで冤罪によって殺人犯にされた父親役のウ・ジョングクは、『生き残るための3つの取引』でも、無実でありながら連続殺人犯にされてしまう男を演じているので、興味のある方はぜひこちらの作品もご鑑賞頂ければと思います。

人生最良の日を迎えようとしていたチェ課長に、突然降りかかった悪夢のような出来事。実はこのタイミングさえも、長い年月をかけて周到に計画された犯人の計画の一部だったのか? そう考えて映画を観ると、犯人の恨みの強さや残酷さがより実感できることになる、この『悪のクロニクル』。

単なる復讐には終わらない犯人の複雑な背景は、ぜひご自分の目でご確認頂ければと思います。

最後に


過去に起きたある冤罪事件が長い年月を経て現代に蘇り、当時の関係者の運命を大きく狂わせていく、この『悪のクロニクル』。

物語が進むにつれて、現在も警察の上層部が自分たちの都合で事件の証拠をねつ造したり、無実の人間を犯人に仕立て上げていることが観客にも分かってきます。

過去の冤罪事件の関係者が次々に殺されていく中、主人公のチェ課長も究極の選択を迫られることになるのですが、冤罪に関わった者たちだけでなく、この惨劇を計画した真犯人も良心の呵責に耐えて長い年月を過ごしてきたことが明らかになる終盤の展開には、きっと多くの方が複雑な想いを抱かれたのではないでしょうか。

加えてチェ課長が根っからの悪人ではなく、部下からの信頼も厚い模範的な刑事としての顔を持つ人物として描かれるだけに、長年の苦労が報われて人生最良の日を迎えたタイミングで、隠蔽していた過去の清算と贖罪を迫られる展開が、鑑賞後に深い余韻と問題提起を残す点も実に上手いのです。

いったい誰が悪で、何が間違っていたのか?

チェ課長とドンジェが見せる表情の対比が、観客の心に深い余韻を残すエピローグの素晴らしさに加えて、パク・ソジュンの新たな魅力が堪能できる傑作なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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