キャリア最高の作品を送り出した、大胆不敵なフランソワ・オゾンの脚色力

© 2015 MANDARIN PRODUCTION – X FILME – MARS FILMS – FRANCE 2 CINEMA – FOZ-JEAN-CLAUDE MOIREAU

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

『8人の女たち』や『スイミング・プール』など、ミニシアターファンを魅了してきたフランソワ・オゾンの最新作『婚約者の友人』が21日から公開される。昨年のヴェネチア国際映画祭で、ヒロインを演じたパウラ・ベーアが新人俳優賞を受賞した本作は、20世紀初頭の戦争の影響が残るドイツを舞台にしたエレガントな空気が漂うミステリー。

おしゃれな雰囲気を味わいたい人も、古典映画を愛する人も、ミステリーファンも、いずれも必見の濃厚な作品に仕上がっているのは、フランソワ・オゾンという作家の巧さが余すところなく活かされているからに他ならない。

あらかじめ言っておくなら、これはオゾンの最高傑作だ。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.51:キャリア最高の作品を送り出した、大胆不敵なフランソワ・オゾンの脚色力>

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戦死した婚約者・フランツの墓を訪ねたアンナは、そこで誰かが手向けた花を見つける。翌日彼女の前に、フランス人のアドリアンが現れる。ドイツとフランスが戦時にあり、周囲の人々はアドリアンの存在を疎ましく思うが、フランツの友人だと語るアドリアンを受け入れるアンナ。ところがある時、アドリアンはアンナに衝撃的な真実を告げてフランスへ帰国して行ってしまう。

喜劇映画を中心にその名を馳せたドイツ出身のエルンスト・ルビッチ監督が、1932年に手がけたシリアス作品『私の殺した男』をリメイクした本作。フランス人であるフランソワ・オゾンだが、過去にはライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの戯曲を映画化した『焼け石に水』を手がけるなど、これまでの作風からはフランス映画調というよりはドイツ映画から影響を受けている印象が強い。

しかも、ドイツを舞台にした本作を、ドイツ出身の監督がフランス人の男性視点で描いたオリジナル作品とは真逆の、フランス人監督がドイツ人の女性視点で描いたというのだからそれだけでも実に面白い試みだ。

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時代背景やアドリアンという存在のミステリアスさを綴る前半に、次から次へと謎が深まっていく後半。その中間の部分にとくに興味深い場面が集中し、一切映画が緩むことがない。とりわけ、フランツの父ホフマイスターが、アドリアンに懸念を示す友人たちに戦争の愚かさを伝える場面の秀逸さ、そのあとの夜の道を歩き回るアンナの姿。目だけでなく心さえも奪われるショットの連続に、ため息が出てしまうほどだ。

さらに映像にも大胆なこだわりを見せる。冒頭のファーストカットでパートカラーを用い、それ以降は白黒で古典的な雰囲気を漂わせる。そして、回想シーンや思い出の場所を尋ねる場面では突然鮮やかなカラーへと変わる。たった一本の作品に、これほど途方もないアイデアを重ねてくるなんて、久々にこんなにも見ごたえのある作品と出会えた気がする。

これまで一通りのオゾン作品を観てきた筆者だが、これほど大胆なアイデアをフル活用させた作品は珍しい。本作に出会うまで個人的にオゾンのベスト作品だった初期の作品『クリミナル・ラヴァーズ』ぐらいだろうか。

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高校生カップルを主人公に、現代版「ヘンゼルとグレーテル」と宣伝文句で公開された本作。自分をレイプした同級生を殺してほしいと、ボーイフレンドのリュックに持ちかけたアリス。ところがその同級生を殺したリュックは、レイプされたというのはアリスの作り話だったことを知る。そして二人は、森に死体を埋めた帰り、道に迷って小さな家に迷い込む。すると不気味な小屋の主に見つかり、地下室に閉じ込められてしまうのだ。

誰もが知っているグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」の世界観をベースにしながら、混迷した思春期の性と、抑えきれない衝動や感情をとてつもなく鋭利な描写で映し出す。童話の裏側に秘められた、恐ろしさと気味の悪い不条理さを前面に押し出した大胆な脚色アイデアは、今回の『婚約者の友人』へと結びつく。それだけでなく倒錯した性への言及や不穏な登場人物など、その後のオゾン作品のテイストを決めた作品と言ってもいいだろう。

20年以上のキャリアを持ち、コンスタントに作品を生み出してきた現代フランス映画の名手フランソワ・オゾン。先日のカンヌ国際映画祭で上映された最新作『L’amant Double』をはじめ、今後の作品への期待がますます高まっている作家ではないだろうか。

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(文:久保田和馬)

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