心理描写もしっかりと!『ザ・ガンマン』はスルーしてたらもったいないアクション映画だぞ!

ザ・ガンマン

(C)2015 PRONE GUNMAN AIE – NOSTROMO PICTURES SL – PRONE GUNMAN LIMITED

本作「ザ・ガンマン」は、1981年に発表されたジャン・パトリック・マンシェットの遺作小説「眠りなき狙撃者」の、二度目の映画化。

実は原作発表の翌年である1982年に、早くもアランドロンとカトリーヌドヌーブという当時の2大スター共演で映画化されている。こちらの方はラブストーリーを絡めた男と女の逃避行劇としての側面が強調されていた。(本作は、残念ながらVHSソフトのみで未DVD化)

今回の映画化にあたっては、「引退を決意した殺し屋が、過去の因縁と組織から追われる」という基本設定と、登場人物の名前を借りたに過ぎず、現代の社会情勢を取り入れ、監督であるピエール・モレルの過去作品の世界に、かなり寄せて作られている。

はっきり言おう、今回の映画版は小説とは、全くの別物だ。

原作からの大きな改変点の一例として、本来は黒人である主人公の友人のスタンレーが、白人に変更されている事や、原作ではラストの見せ場となっている狙撃シーンが、映画では冒頭に配置されている事などがあげられる。この他にも原作にはコンゴ情勢などの政治的メッセージは関係しておらず、この辺りの改変は今回脚本にも関わっている。主演のショーン・ペンの影響によるものだろう。

マンシェットの小説が持つ簡潔な文体と銃器へのこだわり、そして突然出現する過激な暴力と残虐描写は、確かに映像化には適している。おそらく、そのまま映画化すれば、主役は確実にジェイソン・ステイサム、或いはニコラス・ケイジで決まり!

そう、およそ印象に残らないB級アクションで終わっていたに違いない。なにせ、原作の登場人物はどれも個性的、というかむしろ「異常者揃い」といってもいいほど。そう、登場人物全員がどこかしら狂っているのだ。

だが、主演のショーン・ペンがこのプロジェクトに加入した事で、本作の方向性は定まった。印象に残らないB級アクションにはならなかった。

マンシェットの小説に欠けている部分、それは「心理描写」。それを補う存在こそが、主演のショーン・ペンの起用だったに違いない。

前述した通り、原作中の特異な登場人物の中でも、特に情け容赦なく暴力を振るう(仕事に関係ない女性にも)主人公の造型はここに大きく変更され、人間的な弱さや悲しみが加わった事は、本作にとって大きなプラスだったと言える。

そう、名優ショーンペンの演技力と存在感があったからこそ、本作の特異な世界観が一般向けに中和された、と言っても過言では無いだろう。

なにより原作において、とてもロマンチックとは言い難い恋愛要素と、謎が多く感情移入し難いヒロイン像をここまで描き直した事は、特筆に価する。

映画の中盤には、原作に比較的忠実な場面もあるが、登場人物の設定変更だけでなく、終盤〜エンディングまでは、ほぼ映画オリジナルのアレンジが施されている。

そうそう、本作終盤での敵の黒幕との対決場面、個人的にダスティン・ホフマン主演の「マラソンマン」での貯水池での対決シーンを思い出してしまった。そういえば「マラソンマン」も、演技派だったホフマンがアクションに挑んだ作品であり、「ザ・ガンマン」との共通性が無いとは言えない。

ともすれば、「あのアカデミー賞俳優が、本格アクションに挑戦!」的な部分ばかりが先行して、「遂に、あのショーン・ペンもアクションやるようになったか・・。」そんなネガティブな意見・批評も多く見受けられるようだが、あくまでも今回の映画においてのアクションは、原作小説に元々ある要素であり、そこにリアリティとバックグラウンドを持たせるために、ショーン・ペンが必要だったのであって、決して彼のキャリアにマイナスを付ける事にはならないので、ファンの方はご安心を!

実際ショーン・ペンには、過去に「ステート・オブ・グレース」という隠れた名作アクションへの出演があり、ジョン・ウーへのオマージュに溢れたラストの銃撃戦の美しさに、当時劇場で見た観客は魅了されたものだ。

主演のショーン・ペンの存在に加えてもう一つ、「ブリッジ・オブ・スパイ」で抑制の効いた見事な演技を見せ、今年のアカデミー助演男優賞にノミネートされたマーク・ライランスが出演しているのも、本作の大きな見所と言えるだろう。「ブリッジ〜」で彼が見せた「雨に濡れた子犬の様な眼差し」にハートを射抜かれた女性も多かったと聞くが、本作では全く違った彼の明るい笑顔を見る事が出来る。

映画鑑賞前でも後でも、原作小説を読むのもオススメだ。ちょっと分かり辛い部分でも、「なるほど、そうアレンジしてきたか」と、理解出来るはずだ。

原作の大きな魅力である銃器へのこだわりと、当時としても過激な暴力と残虐描写はそのまま残しつつ、あまりに個性的?な登場人物のキャラを観客に受け入れられやすく修正し、感情移入出来る主人公にまで持っていった監督の演出手腕とショーン・ペンの演技力!

とにかく劇場に足を運んで、それらを自分の眼で確認する事こそが、我々全男子の使命と言えるだろう。

(文:滝口明)

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