映画史上最高のヒロインは『はなればなれに』のアンナ・カリーナである

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「映画史上最高のヒロインは誰か」と問われたならば、もちろん一般的には当コラムの第1回で紹介した、『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンが一番無難なところだろうか。

もちろんそれも非常に納得できる。しかし、そこに「個人的には」という制約を加えたとしたら、筆者は間違いなく『はなればなれに』のアンナ・カリーナ。彼女が演じたオディール・モノーを挙げるだろう。

<〜映画は女優で作られる〜vol.5:映画史上最高のヒロインは『はなればなれに』のアンナ・カリーナである>

1964年、ちょうどアンナ・カリーナとジャン=リュック・ゴダールがまだ婚姻関係にあって、ふたりが設立したアヌーシュカ・フィルムの第1作目として発表された本作は、ふたりの青年とひとりの女性という、ヌーヴェルヴァーグの理想的な組み合わせに、ウィットなセリフとスピード感溢れる編集、些細な犯罪劇を軸にした娯楽性の高さに、実験映画的な要素も加えた完璧で至福の96分なのである。

オープニングのタイトルインでサミー・フレイとクロード・ブラッスールとともに交互に映し出されるアンナ・カリーナの表情。そのあとの二人と出会う英会話スクールでの仕草、小さな微笑み。さらに何と言っても、キスの仕方を訊ねられ、「舌を使うんでしょ」と舌を出す仕草が彼女のキャラクターの妙に垢抜けなさを築き上げる。

それでも、青年二人とのひととき、例えばルーブル美術館を9分43秒で走り抜けるあまりにも有名な場面(ベルナルド・ベルトルッチの『ドリーマーズ』で再現されて記録を更新されたが)、〝60秒の沈黙〟シーンや、マジソンダンスの場面を経て行くなかで、垢抜けない少女が徐々に磨き上げられていく様が魅力的に映し出される。

全篇どこを切り取っても、アンナ・カリーナという女優の魅力にすべてが委ねられているといっても過言ではない。ゴダールの、当時の妻に対する愛情の注ぎ方は、やはり映画という手段でこそ後世に残り続けるわけだ。

もっとも、これだけのパワフルで輝かしい女優ならば、ゴダールが離婚後も自作への出演を頼み続けるのも納得だ。本作の後には『アルファヴィル』や『気狂いピエロ』、そして離婚後には『メイド・イン・U.S.A.』や短編『未来展望』など、ゴダール作品に出続け、その後はフランスを飛び出してヨーロッパ各国に活躍の場を移した。

現在78歳を迎えた彼女は、ここ10年近く映画への出演はしていないが、ヌーヴェルヴァーグの生き証人として、その功績が後世まで残るべき存在なのは間違いない。

この『はなればなれに』、数多くの映画作家へ影響を及ぼしている作品でもある。クエンティン・タランティーノは自らの制作会社の名前を本作の原題からもらって〝A Band Apart〟としているのは実に有名な話だ。

こんな本作ではあるが、日本で公開されたのは今世紀になってからのこと。1964年の制作から、実に37年経ってようやく日本で公開されたのである。(それまでに上映会は何度か行われてはいたが)

やたらと小難しい作品が多いイメージのゴダール作品の中でも、おそらくトップクラスに娯楽性の強い作品になっているのも人気の理由なのではないだろうか。先日デジタル・リマスター版が劇場公開され、来月6月3日から1週間、早稲田松竹で上映が予定されている。同時上映はゴダールとカリーナが結婚後最初にタッグを組んだ『女は女である』。これも彼女の魅力が全開になっている一本だ。

(文:久保田和馬)

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