『ハローグッバイ』が巧みに描く二人の少女と老婆の不思議な交流

■「キネマニア共和国」

(C)2016 Sony Music Artists

今年の夏休み映画が続々と出始めています。

洋画は超ド級の超大作揃い、邦画はアニメ映画や、『銀魂』『東京喰種 トーキョーグール』『心が叫びたがってるんだ。』などコミック&アニメ原作の実写作品で迎え撃つといった構図のようですが、そんな華やかなところから少しずれたところにも珠玉の作品はいっぱい存在していることを忘れてはいけないし、ぜひとも多くの映画ファンに訴えていきたいところです……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.244》

『ハローグッバイ』もそんな見逃し厳禁の1本です!

(C)2016 Sony Music Artists

老婆の初恋の相手を探す
プチ・ロード・ムービー

『ハローグッバイ』のストーリーは、友達グループの中で一見楽しくやってる風のはづき(萩原みのり)と、いつも彼女らに厄介事など頼まれてしまう優等生の葵(久保田紗友)。同じクラスながらも友達でも何でもない、高校2年生のふたりが主人公です。

ひょんなことからふたりは、道に迷った認知症の老婆(もたいまさこ)と知り合いになります。

老婆はどうやら彼女が若い頃に想いを伝えられなかった初恋の相手がいたようなのです。

ふたりは老婆が大切に持つラブレターを渡すため、その初恋の人を探すことに……。

映画の前半は正確も境遇もまったく正反対な、そして真に心を割って話せる存在がいない少女たちの日常がリアルに描写されていきます。

この部分だけ切り取ると、見ている側までどよーんとした気持ちになってくる趣なのですが、その後、老婆との出会いから、映画は徐々に、しかし確実に不可思議な躍動感を伴いながら、意気も何も全然合っていない少女たちのちょっとした冒険とでもいったプチ・ロード・ムービーの域へと突入していくのです。

懐かしくも今の時代に屹立した
青春映画の秀作

はづき役には今年だけでも『ブルーハーツが聴こえる』『昼顔』『心が叫びたがってるんだ。』など出演作が多数ある萩原みのり。
葵役には『アゲイン』(15)や『疾風ロンド』(16)、そしてNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』にも出演した久保田紗友。

個性の異なるふたりの若手女優が、現代を生きるティーンの繊細な感情を瑞々しく体現しています。両者とも今後要注目の存在でしょう。

また老婆に扮するベテランもたいまさこの、どこか飄々としながらも愛らしい風情が本作の大きなキモにもなっており、また彼女の学生時代の友人を演じる木野花とのコンビネーションの妙もさすがの貫録です。

そう、この作品、若者だけでなく年配女性のどこかしら停滞していた心の機微までさりげなくも巧みに描出できているのも大きな長所といえるでしょう。

(C)2016 Sony Music Artists

監督は、幻の鹿を目撃してしまったことで人生を大きく狂わされた兄弟を描いた『ディアーディアー』で長編映画デビューし、多大な評価を得た菊池健雄。

瀬々敬久、黒沢清など俊英監督作品の助監督を務めあげてきた彼ならではの、かっちりした構成力と透明感あふれる映像センスが巧みに同居しながら、どこか懐かしくもちゃんと今の時代に屹立した青春映画が具現化されています。

正直、タイトルだけ聞くとどういう作品なのかピンと来ないところはあるのですが(見終わるとすこぶる納得できるのですが)、この夏の大作&話題作群の陰で埋もれてしまうにはあまりにももったいなさ過ぎる珠玉の作品であり、少しでも多くの人に見ていただきたい逸品です。

こういった小さな作品こそ、発見して自分だけの生涯の名画にもなり得る。そういった映画ファンならではのお楽しみを大いに刺激させてくれる、心地よくも切ない面白さを湛えた秀作なのでした。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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