『ヒッチコック/トリュフォー』と、神様に魅せられた映画人たち

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

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Photos by Philippe Halsman/Magnum Photos
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多くの映画作家や映画ファンに影響を与えた伝説の映画本『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(晶文社)。大衆作家としてのアルフレッド・ヒッチコックの、技法と理論をまとめあげたこの一冊がなければ、この世に誕生していなかった映画は数え切れないほどあるだろう。
10日から全国公開されたドキュメンタリー映画『ヒッチコック/トリュフォー』では、若き才能フランソワ・トリュフォーとヒッチコックとの関係、そしてこの二人の天才から映画術を引き継いだ、現役の映画監督10人のインタビューが映し出される。

〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.10:『ヒッチコック/トリュフォー』と、神様に魅せられた映画人たち>

来年新作の『沈黙-サイレンス-』が控えるマーティン・スコセッシを始め、デヴィッド・フィンチャーやポール・シュレイダー、黒沢清がヒッチコックの影響を受けたと聞けば、まあそうだろう、と思わざるをえない。しかし、インタビューに登場する監督たちの中には、ウェス・アンダーソンやピーター・ボグダノヴィッチがいることに、意外性を感じる。改めて思い巡らせてみれば、この二人の喜劇にはどこかミステリアスな要素が必ずと言っていいほど入っている。

ヒッチコックの映画は大衆娯楽である。でもそれと同時に強い作家性と、芸術性が秘められた、映画のすべてであることは言うまでもない。今回このコラムを書くにあたり、筆者が初めてヒッチコックを体験した作品を、20年ぶりに鑑賞してみた。

1963年、ちょうどトリュフォーがヒッチコックとのインタビューに臨んだ直後に作られた、代表作のひとつ『鳥』である。

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ある日突然、鳥が襲ってくる。この映画について説明しようと思ったら、この一言で片付いてしまう。本当にそれだけの作品なのだ。サンフランシスコの街の中にあるペットショップで、ティッピ・ヘドレンがロッド・テイラーに出会う。テイラーが買おうとしていたつがいの鳥を持って、ヘドレンは彼の住む湖畔の家を訪れるのだ。

そんな序盤30分は、ロマンティックコメディのようなテイストを匂わせながら物語が進み、ヘドレンがボートで湖を渡る間に、湖畔の道路を車で飛ばしてきたテイラーが、係留所に迎えに行く場面で突然変貌する。

そこからは、ありとあらゆる鳥が、人間の予想を超える動きとともに襲いかかり続ける。もはやサスペンス映画やパニック映画というよりは、あまりにも品の良いホラー映画といったところだ。

たとえば双眼鏡で覗き込む主観ショットから、徐々にカラスが校庭の遊具に群がる過程をとらえたカット割り、ジェシカ・タンディ演じる母親が、知人の家に訪れる場面の不穏なカメラワークなど、現代ではもうやり尽くされているあらゆるテクニックは、すべてヒッチコックによって生み出されたものだと気付かされるのである。

直接的にこの映画の影響を大いに受けている作品といえば、M.ナイト・シャマランの『サイン』と『ハプニング』の2本だろう。方や異星人の襲来に怯える一家の動向でオマージュを捧げ、もう一方では植物によるバイオ的な変化を人間の脅威と捉え、『鳥』が描き出した「自然は復讐する」という概念を継承している。

このシャマランをはじめ、『サイコ』へのオマージュとも取れる『殺しのドレス』を撮ったブライアン・デ・パルマ、『鳥』の影響を感じ取れる『宇宙戦争』のスティーブン・スピルバーグ、そして『サイコ』をリメイクしたガス・ヴァン・サントなど、まだまだヒッチコックの映画に魅せられた名匠・巨匠たちが大勢映画界には存在しているのだ。

死後36年を経ても、未だに映画界に影響を与え続けるヒッチコックは、映画界を志す者たちの活力とアイデアの源になっているのだ。これこそが、彼が単なる大衆作家ではないことの何よりの証明で、それに一役買ったのが「映画術」なのだろう。

もちろん、今回の『ヒッチコック/トリュフォー』を観れば、ヒッチコックの作品が観たくなるはずだ。それと同時に、このヒッチコックへのインタビューを通し、自身の憧憬を論理的に分析することに成功したトリュフォーの作品へのアウトプットも忘れてはならない。直後に製作した『柔らかい肌』は、まさにヒッチコック調の傑作なのだ。

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(文:久保田和馬)

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