岡田准一主演『来る』公開直前! 魅力的なホラー映画を振り返る



(C)2018「来る」製作委員会



12月7日に公開が迫った、ホラー映画『来る』。第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の『●●●●が、来る』(正式には●に名称が入るが、一応伏せ字で)を原作にし、『告白』『渇き。』の中島哲也監督が映画化した“最恐エンターテインメント”を標榜する作品だ。岡田准一・黒木華・小松菜奈・松たか子・妻夫木聡が一堂に会し、怪異に憑かれた家族を軸に霊媒師が“あれ”を食い止めようとする様を描く。



近年の映画界ではオリジナリティに溢れるホラー作品が増えているが、『来る』のようにホラー小説から映像化された有名作品も多い。そこで今回は原作小説を見事に映像化し、観る者を震え上がらせた魅力的なホラー映画5作を紹介していきたい。

『残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-』



吸血鬼ホラー『屍鬼』や異世界ファンタジー『十二国記』シリーズで知られる小野不由美のホラー小説を、『白ゆき姫殺人事件』『予告犯』の中村義洋監督が映画化。部屋に響く奇妙な音に悩まされる女子大生“久保さん”を橋本愛、彼女から相談を受ける小説家の“私”を竹内結子が演じている。原作小説は「本棚に置いておきたくない」と評されるほど恐怖感に溢れた小野の筆致が特徴だが、ほかのホラー作品にあるようなアイコニックな恐怖とはひと味違う。部屋や土地にまつわる“穢れ”を辿るうちに因縁が紐解かれていくミステリー要素も備え、ルポルタージュ風に物語が展開されていく。映画では若干修正が加えられているものの、原作では“私”にあたる小野の実生活が反映されているため、東雅夫や平山夢明といった実在する人物名も登場するのが特徴だ。

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―



さて、実は映画のキャッチコピーでは“ホラー”よりも“ミステリー”を推し出しているところがあるが、もちろん恐怖描写はたっぷりと盛り込まれている。小野の筆致も十分に映像的だが、実際に映像になるとより鮮明なイメージとなって、観る者に迫ってくるのだ。例えば序盤で誰もいるはずのない部屋から聞こえてくる、サァッ、サァッという畳を擦るような音。この怪奇音を調べていくうちにある場所で和装姿の女性が首を吊っていた事実に行き当たり、ぶらりぶらりと揺れる姿が映し出される。音と映像が重なり初めて真実が見えたときの恐怖感はまさに映像作品ゆえの演出の妙であり、調査を進めるうち次々と明らかになっていく怪異の正体によりリアルな不気味さを与えていく。また本作で扱われる“穢れ”とはその土地や空間にまつわるだけでなく、穢れに触れることで“伝染する”という点にも注目してみると、鑑賞後に一層の怖気を感じられるはず。

余談だが『残穢』は小野による“百物語”『鬼譚百景』の「お気に入り」と密接にリンクしている。幼い少女が部屋の一点を見つめ「ぶらんこ」とつぶやく場面は、意味が分かれば鳥肌ものの一言だ。またこの中の10編が、中村監督や白石晃士、のちに『ミスミソウ』をヒットさせる内藤瑛亮らの競作によって映画化されているのであわせてチェックしてみては?

『アナザー Another』



『殺人鬼』や『眼球綺譚』といったホラー小説も多いミステリー作家・綾辻行人(小野不由美の夫でもある)の同名小説を、山﨑賢人・橋本愛主演で映画化した学園ホラー作品。映像化不可能とされる叙述トリックを得意とした綾辻作品とあって原作にも相応のトリックが仕掛けられているが、映画化ではあえてスパッと切り落として映像にしている。一方で“災厄”と呼ばれる物語の核となる部分はほぼそのままであり、ミステリアスな状況を克明に映し出している。

アナザー Another



本作における災厄とは、『残穢』と同じように“見えざる何か”によって引き起こされるもので、その舞台となっているのが夜見山北中学校の3年3組そのものだ。あることがきっかけで3年3組には新年度になると“死者”が紛れ込み、その正体を突き止めない限りクラスの生徒に死(災厄)が訪れる。山﨑演じる榊原の転校した先が夜見山北中学校3年3組であり、このクラスでは災厄を回避するための暗黙の“ルール”が敷かれ、その影響が及んでいたのが橋本演じる見崎という謎めいた少女だ。本作は災厄をめぐる緻密な設定が張り巡らされた作品だが、一方で災厄によって容赦なく生徒たちが凄惨な方法で命を落としていくのが特徴でもある(あわよくば少女の首すらぽーんと飛んでしまう描写も。それでも原作よりはマイルドだが)。いずれにしても綾辻印ともいえるミステリー性とホラー性を兼ね備えた作風が楽しめるので、榊原・見崎とともに災厄をめぐる“謎解き”に挑戦してみてはどうだろう。なお映画のオチは原作にないオリジナルのものだが、設定を活かしなかなかゾッとする内容なので、じっくりと鑑賞してほしい。

『悪の教典』



『黒い家』や『ISOLA 多重人格少女』など映像化作品も多い、貴志祐介のサイコホラー小説が原作。単行本そのものが凶器となりかねない分厚さであり、映画化の際に内容の多くがオミットされてはいるものの、あの三池崇史が監督とあってバイオレンス感は妥協のない描写に。前述の2作品が“見えざる何か”によって恐怖描写が生まれるのに対して、本作は生身の人間、しかも教師という役職の人物が虫けらのように他者を血祭りにあげていくのが特徴だ。

悪の教典



本作の主人公であり、サイコホラー史上類を見ないような殺戮を繰り広げるのは、高校教師の蓮実聖司。頭脳明晰で外見も良く生徒からは“ハスミン”の愛称で親しまれているが、その裏には他者への共感性が全くなく、必要になれば躊躇なく命すら奪う“サイコパス”の顔を持つ。映画では伊藤英明が蓮実役を務め、『海猿』などの好青年役からは想像もつかない狂気的な演技となっており、伊藤が見せる笑顔(のようでいて実は全く笑っていない)が蓮実という役柄に憎らしいくらいにフィット。表現としては正しくないが、どこか“アンチヒーロー”にも通じるような存在感すら放っている。

何事も完璧にこなす蓮実がある失敗をきっかけに惨劇の火蓋を切ることになり、猟銃によって一晩で教師や生徒たちの死体の山を築いていく様は、文字通り地獄絵図といっていい。その勢いたるや『13日の金曜日』のジェイソンや、『エルム街の悪夢』のフレディといったホラーアイコンの殺戮も及ばない。伊藤のほか二階堂ふみや山田孝之、浅香航大、染谷将太、林遣都、吹越満といった三池らしい豪華キャストが集結しており、誰が生き残るのか予断を許さない緊張感がラストまで持続する。原作者の貴志(教師役でカメオ出演も果たしている)は続編に意欲を見せており、映画のラストにも気になる一文がクレジットされているので期待して待ちたい。

『リング』



もはや説明不要となった、中田秀夫監督の“ジャパニーズホラー(Jホラー)”の金字塔的作品。大ブームを巻き起こした本作の原作は鈴木光司の同名小説だが、実は原作ではホラーよりもミステリー色を強くした体裁となっており、ミステリ小説を募集する「横溝正史賞」に投稿して最終選考まで残った経緯がある。また原作での主人公は男性(浅川和行)であり、恐怖の象徴・貞子の描写についても原作と映画で大きく違う点が見られるなど改変点は多い。それでも映画版が歴史に名を残すことになったのは、その改変点が十分すぎるほどの役割を果たし、映画として機能したことにほかならない。

リング



映画版では主人公が松嶋菜々子演じる浅川玲子へと変更され、浅川に協力する高山竜司(演じるのは真田広之)の元妻という設定に。物語の鍵となる“呪いのビデオ”を見てしまった一人息子(原作では娘)を救うために奔走する母親としての姿が、映画後半をより引き立てることになった。そしてなにより映画版をJホラーの金字塔へと仕立てたのが、貞子という“化け物”だ。白い衣装を着た髪の長い女性はホラー映画や怪談でお決まりのスタイルともいえるが、ときおり画面に現れるその顔は、黒髪によって全くうかがうことができない。見た者を1週間後死に追いやる呪いのビデオが恐怖の象徴であったはずが、いつしか観る者の心臓は貞子によって鷲掴みにされることになっているのだ。

映画版では中田監督の演出が冴えわたり、日常風景に潜む得体の知れないモノがさりげなく画面上に紛れ込む手法が逆に恐怖心を煽り立てた。そして原作から最も大きな改変(そして当時観客を恐怖のどん底に叩き落した)点が、テレビから貞子が這い出てくるシーンだ。よく見ていると呪いのビデオの映像で井戸から徐々に貞子が姿を見せ始めていることが分かるが、最終的(つまり1週間後)には井戸からその姿を現し、カクカクとした奇妙な動きでこちらに向かって近づいてくる。そんな姿でも十分に背筋が凍るが、やがてテレビから出現して畳を這い進む姿は、死を目前にした者だけでなく観る者にとっても悪夢にほかならなかった。

『シャイニング』



ホラー小説の映画化というくくりでアメリカの大御所スティーヴン・キングを外すことはできないので、数ある映像化作品群のなかで最もセンセーショナルな話題を呼んだ、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』を。映画版を鑑賞したキングが改変に激怒したというエピソードは有名なところで、のちに自身で指揮を執ってテレビドラマとして再映像化を図っている。中でも主人公であるジャック・トランスをめぐる解釈の相違が原作と映画版で大きく違うこともあり、両作を通して観るとその差は歴然としている。ただ原作者の評価を超えて映画版が評価されているのも事実で、ホラー映画ランキングで常に上位に位置しているほどだ(スティーブン・スピルバーグが某作品で扱ったことからも愛されっぷりが窺える)。

シャイニング (字幕版)



キューブリックといえば徹底した完璧主義者として知られ、そのこだわり或いは執念は本作にも存分に詰め込まれている。雪に閉ざされたホテルという限定空間である特徴を最大限に活用して、閉鎖的で圧迫感のある環境に俳優を立たせているかのような錯覚を生み出した。それに呼応したのが主演のジャック・ニコルソンであり、狂気に支配されたジャック・トランスが扉の裂け目から顔を覗かせるビジュアルは誰もが知るところだろう。またトランスの妻を演じたシェリー・デュバルがキューブリックによって精神的に追い詰められたことも、皮肉ともいうべきか絶望的な状況下に置かれた人間の表情をまざまざと刻みつけ、リアリティを生み出すことになった。もちろんそうした背景以外にも、エレベーターから溢れ出る血の海や“存在しえない”存在がさも当たり前のように出現するシーンは、恐怖の根幹にも通じる部分が大きい。

なお続編となるキングの小説『ドクター・スリープ』も映画化が進んでおり、ユアン・マクレガーがトランスの息子であり成長したダニー役で主演。ほかにレベッカ・ファーガソンや名子役ジェイコブ・トレンブレイが共演する予定だ。


まとめ



ひと口に“ホラー”といっても、その内容・ジャンルはさまざま。人間がもたらす恐怖もあれば、人間ならざるものが与えてくる恐怖もある。またそういったジャンルにこだわらず、ホラー小説には活字だからこそ読み手に想像させる恐怖があり、映像だからこそ直接的に恐怖心へと訴えることができる。ホラーの楽しみ方は千差万別。「怖い、怖い」と思いつつホラー映画を観てしまうのは、もしかするとそういった“楽しみ”に対する探求心の表れなのかも。

(文:葦見川和哉)

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