『生きてるだけで、愛。』極上の日本映画となった「5つ」の理由!

 ©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

もし、この記事を読んでいるあなたが「生きづらさ」を感じているのなら、自分がダメな人であると思っているのなら、もしくは人生に絶望しているというのなら、そうでなくても、ごくわずかでも辛い気持ちになっているのなら……何よりも先んじて、観て欲しい映画があります。

それは、公開中の『生きてるだけで、愛。』。メジャーに公開されている作品ではないので知らない方もいらっしゃるとは思いますが、2018年の日本映画でもトップクラスの、いや、もはや日本映画の新たな到達点と呼んでも過言ではない、大傑作であったのですから。その魅力を大きなネタバレのない範囲で、以下にたっぷりと紹介します。

1:ヒロインはこれ以上のないダメ人間!
でも批判的な視点や、彼女に感情移入もできる愛おしさも多分にあった!

『生きてるだけで、愛。』の最大の特徴は、ヒロインの特異なキャラクターにあります。彼女は鬱病で情緒不安定、無職で引きこもり、しかも必要以上に眠り続けてしまう“過眠症”なのですから。

彼女の言動はエキセントリックで、男と同棲しているのに敷きっぱなしの布団で一日中眠りこけるだけで家事も何もしていない上に、時にはとんでもない奇行もしでかす……もはや社会不適合者を超えて、まともに生活をするのも困難と言えるほどなのです。人によっては(初めは)感情移入がしにくく、またはドン引きしてしまうかもしれません。

しかしながら、劇中にはヒロインを批判する第三者である、同棲相手の男の元カノ(演じているのは仲里依紗)もいます。彼女は鬱の人には絶対に言ってはいけないキツい言葉もたくさん浴びせるのですが、同時に多くの観客がヒロインに抱くであろう「どうしようもないダメ人間だよなぁ」という心情を代弁してくれる存在でもあるのです。(ヒロインと同棲する男の視点も重要になってくるのですが、これについては後述します)

さらには、このダメダメなヒロインが愛らしく感じてしまう、どうしても感情移入をしてしまう展開が劇中にはたっぷりと用意されています。とくに“ただスーパーに買い物に行くだけ”という一連のシーンは、言葉に頼ることなく「こんなに簡単なこともできないなんて……!」という彼女の悔しさと絶望がはっきりと表れており、それだけで涙を流してしまうほどでした。

一人のダメ人間に対して、批判的な視点、彼女の主観的な視点、そして客観的に彼女を愛おしく思うことができる視点などが交錯しているおかげで、観客の気持ちを一点だけに絞ることなく、複雑な感情に導いてくれるのです。これは、主演2人の最高の演技はもちろんのこと、映画ならではの工夫が多分に込められているおかげでしょう(これも以降の項で詳しく解説します)。

また、映画のポスターの予告編、設定やあらすじを見て“重そう” “暗そう”などと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、本編では意外にもクスクス笑えるシーンもあったりします(そのおかげで相対する絶望の感情がさらに際立っているのですが……)。観る前のイメージと反する“親しみやすさ”もあることも、本作の美点と言えるでしょう。

 ©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

2:趣里の“奇跡”とも言える最高の演技を見届けて!
その人生経験ともシンクロした役だった!

本作『生きてるだけで、愛。』を観た誰もが絶賛するであろうことは、主演を務めた趣里の演技です。この言い方が良くないことを承知で書きますが、どこからどう見ても“メンヘラ”な病んでいる女性にしか見えない!

 ©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

とくにアップになった時の顔、その虚ろな瞳からは“絶望している”心境がありありと見えるほど。劇中でいつも感情を表に出しまくっている彼女が、さらに本音をぶつけまくり、文字通りに“暴走”していく様、そして身体のすべてを使い切った一世一代の演技には、もはや言語化が不可能と思えるほどの感動がありました。

そんな趣里は、幼少時からバレリーナを目指していたものの、度重なるケガに遭遇し夢を断念せざるを得なくなり、希望を失った中で生きなくてはならないという葛藤を経験していたそうです。本作の台本を読んだ趣里は、その時の自分を思い出し、この役を演じることで少しでも観客に何かを残せるのではないか、共感してもらえる部分があるのではないかと考え、「この役は絶対に自分が演じたい」と決意したのだそうです。それは、自身が過去に映画を観て「辛いのは自分だけじゃない」と感じて心が救われていたことも理由にあったのだとか。

関根光才監督も、趣里のキャスティングにおいて「おそらく彼女の今までの人生経験の中から、ヒロインにシンパシーを感じる部分があったのではないか」「ヒロインの存在が彼女にとってもどこか救いになっていて、彼女もこの役をとおして誰かを救いたいと思っているんじゃないか」と分析し、役をお願いしたのだそうです。監督と主演女優の狙いと願いが、ここまで一致している例も、なかなかないでしょう。

つまり、劇中の素晴らしいという言葉では足りないほどの趣里の演技は、“自身の人生経験と劇中のキャラがシンクロしている”こと、“映画を観た人が救われて欲しいという尊い願いが込められている”こと、そして“監督の意図とも合致している”こと……もはや奇跡と言ってもいい巡り合わせによって、成り立ったものとも言えるのです。

しかも、劇中のあるシーンでは、趣里がかつてバレリーナを目指していたことを想起させる、“踊り”も披露されます。これもまた、現実の趣里の人生がそのままヒロインの姿に重なるような、虚と実の境界線が曖昧になったかのような……何よりも“美しい”からでこその、涙が止めどなく溢れる、唯一無二の感動がそこにはありました。

とにかく、アカデミー主演女優賞級どころか、もはや日本映画における最高の演技と呼んでも過言でない趣里の演技……これをスクリーンで堪能できるというだけでも、本作は一人でも多くの方に観て欲しいのです。

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3:菅田将暉はキャリア史上もっとも“本当の表情を見せない”役になっていた!

もう一人の主人公と言える、ヒロインと同棲をする男を演じた菅田将暉もまた、素晴らしいという言葉では足りません。

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彼はゴシップ雑誌の編集者で、いつもボサボサの髪で愛想もなく、ボーッとしているように見える反面、毎日しっかり会社に行き、望まない仕事でも淡々とこなしているという、ある意味では“まとも”な人間です。しかしながら、彼はヒロインとは正反対で、言いたいことを言えずに内面に隠している、無理をしてでも波風を立てないように日々を過ごしているかのような、ある種の“危うさ”をも感じさせます。菅田将暉は鋭い眼光と、ぶっきらぼうに見える態度そのものだけで、その複雑なキャラを体現しているのです。

そんな菅田将暉は“ヒロインの行動に変に一喜一憂しない”ことをテーマにして演技をしていたものの、関根光才監督から一度だけ「表情が優しすぎる」と言われたことがあったそうです。それを聞き、菅田将暉はなるべく淡々と、時には厳しい表情を見せるというバランスで演技を進めていったのだとか。

これまでの菅田将暉は、浮世離れしたような魅力を放っていたり、はたまた人懐っこくて親しみやすいキャラにもバッチリとハマっているなど、振り幅の広い演技を見せていました。この『生きてるだけで、愛。』では、そのキャリア史上もっとも良い意味での“本当の表情を見せない”、ある意味では(原作では32歳の男性という設定もあってか)“大人”と言えるキャラを、これ以上なく演じきっているのです。ここに来て、菅田将暉という素晴らしい役者の新たな一面を見られて、本当に嬉しくなりました。

※菅田将暉の魅力については以下の記事でもまとめています↓
□菅田将暉 4つの魅力!『ディストラクション・ベイビーズ』の“極端”なキャラクターも見逃すな!

また、菅田将暉演じる男がほぼ全編で“疲れている”こともポイントです。うがった見方ではあると思いますが、菅田将暉が日本における若手俳優のトップと言えるほどの人物と認知され、おそらく多忙な日々を送っていることも、今回の役にはシンクロしているとも言えるのではないでしょうか。

なお、菅田将暉は自身が演じた“とりあえず生きていくために仕事をしている”キャラには共感できる方が多いだろうと推測しています。まさにその通りで、彼は全編でほぼ無表情の上に愛想もないのに、社会における立ち位置、ヒロインとのやり取り、そしてクライマックスの“ある行動”はとても共感しやすいものになっていました。それもまた、菅田将暉という役者の魅力によるところが大きいのは、間違いありません。

その他、毒を吐いているものの決して悪人とは思えない女性を演じた仲里依紗、カフェを経営する夫婦を演じた田中哲司と西田尚美、ゴシップ雑誌の編集長役の松重豊、後ろめたい過去を背負った編集部の女性を演じた石橋静河、あっけらかんとしたカフェ店員の織田梨沙と、役者には実力派が勢ぞろいしています。観客がそれぞれの立場で共感しやすい人物がいることも、本作の大きな魅力でしょう。

 ©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

4:原作小説との大きな違いとは?
実は“裏テーマ”もあった!

実は、『生きてるだけで、愛。』の本谷有希子による原作小説は、ヒロインの一人称視点で語られており、菅田将暉演じる男の内面はほとんど掘り下げられていませんでした。今回の映画版でその男のキャラクターを大きく膨らませたことこそが、物語が持つ普遍性をより強固にし、忘れがたい大傑作になった理由であると断言します。

前述した通り、本作のヒロインは鬱で過眠症のダメ人間です。原作小説では彼女がインターネットの掲示板に思いの丈を書き込んでいる他、歪んでいる独善的な語りをしています。これをそのまま映像で言葉のまま表現してしまうと、彼女に感情移入がしにくくなってしまうでしょう。

しかしながら、映画ではヒロインの独白はかなり少なくなり、代わりに趣里の演技こそが彼女の複雑な感情を表現しています。さらに、“言いたいことを素直に言えないまま黙々と日々を過ごしている”という、引きこもりのヒロインとは正反対の、より多くの人が自己を投影しやすい菅田将暉演じる男のキャラが深掘りされているため、ヒロインに対しての「面倒くさいな」という感情が観客とシンクロするつくりになっているのです。

そして、本作を観た観客の多くは「なんでこの男はこんなにダメダメな女と一緒に住んでいるんだろう」と思うことでしょう。実はそれこそがミステリーとして物語を引っ張っており、それが氷解するシーンでは“正反対に思えた二人が実は似た者どうしだった”ことが示され、また新たなる感動を呼ぶようになっているのです。(これも原作小説とは少し異なっている!)

ちなみに、脚本も手がけた関根光才監督によると、本作の“裏テーマ”は「世の中におかしくない人間はいない」ということだったそうです。確かに、どうしようもないダメ人間でエキセントリックに思えたヒロインだけでなく、ちゃんと仕事をしている同棲している男も、その男の元カノも、社会的にまともにカフェを経営している夫婦も、かなり“おかしな”発言や行動をしており、それぞれが何かしら心に抱えているものがある、と想起させるようになっています。これも、ヒロインの一人称視点であった原作小説ではあまり想像し得なかったであろう“気づき”あり、その点でも映像化の意義があったと言えるのです。

なお、映画においてヒロインがシャワー室でカミソリを持った後に……というシーンがありますが、これは原作小説の冒頭部分、女子高生の頃にしていた“とんでもない行動”があってこそのものになっています。映画だけでは彼女の真意がわかりにくかった、という方はぜひ原作小説を読んでみることをお勧めします。

 ©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

5:世武裕子によるエンディングテーマにも涙腺決壊!
スタッフが最高の仕事をした映画だった!

映画としての“ルック”が格段に優れていることにも触れなければならないでしょう。何しろ本作は16mmのカメラで撮られており、その“なまめかしさ”や“ざらつき”のあるフィルムの質感にもこだわっているのですから。

夜のシーンや走るシーンが多かったこともあり、フィルムでの撮影は決して容易ではなかったそうですが、この“寒々しい都会の片隅”を表現した映像はとにかく美しく仕上がっています。これほどにエモーショナルな表現を、CMやミュージックビデオディレクターとしてキャリアを積んできた関根光才監督が、初の長編劇場用映画として撮り上げたというのも驚異的!

もちろん、撮影、編集、 録音、編集に至るまで、スタッフの手腕には文句のつけようがありません。とくに井上心平が手がけた美術は、“散らかって汚いはずなのにどこか綺麗にも見える(ヒロインの混乱も示している)部屋”や“クライマックスの屋上のボロ布で作り出したファンタジックな空間”などは、ずっと観ていたい程の魅力に満ち満ちていました。

そして、『だいじょうぶ3組』や『羊と鋼の森』や『日日是好日』など、多数の映画音楽を手がけ強い印象を残して世武裕子の音楽、とくにエンディングテーマの「1/5000」にも涙腺を決壊させられました。もう、一体、どこまで泣かせるんだ!

この曲タイトルである「1/5000」とは、葛飾北斎の富嶽三十六景(その中でもとくに有名な神奈川沖浪裏)が“5000分の1秒”の瞬間を描いた絵画であることに起因します。原作ではその富嶽三十六景についての記述があるのですが、映画ではそれをエンディングテーマに“託している”と言っていいでしょう。

何がエンディングテーマに託されているかと言えば、本作のキャッチコピーにある「ほんの一瞬だけでも、わかりあえたら。」ということ。具体的にはネタバレになるので書きませんが、それがタイトルの『生きてるだけで、愛。』に繋がることもわかるクライマックスとラスト、それにかぶさってくる最高のエンディングテーマを聞けば、もう嗚咽するほどに泣けるとしか言えません。

また、本作を観て、共感できなかった、感動できなかったという方は、きっと大切な人に愛され、誰かを愛し、真っ当に生きている幸せな人なのでしょう。しかし、どこかでその真っ当な生き方のレールから外れてしまった、または外れかかった経験がある、そうなる可能性がこれからだってある……と実感している人にとっては、きっと『生きてるだけで、愛。』は一生大切にしたい映画になるはずです。ぜひ、映画館で、日本映画における最高の感動を、体験してください。

(文:ヒナタカ)

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    ヒナタカ

    ヒナタカ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」運営中のフリーライター。All Aboutでも映画ガイドとして執筆中。なぜか中高生向けの恋愛映画もよく観ています。

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