映画コラム
2023年上半期注目映画「5選」|マリオ、ジョージ・ミラー最新作など
2023年上半期注目映画「5選」|マリオ、ジョージ・ミラー最新作など
2023年が幕を開けた。みなさんは、映画初めに何を観ただろうか?
さて、2023年も注目作品が次々と公開される。今回は、上半期に注目したい作品について書いていく。
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1.『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』
★2023年4月28日(金)公開予定
■イルミネーション最新作は《スーパーマリオブラザーズ》!?
(C)2022 Nintendo and Universal Studios『SING シング ネクストステージ』『ミニオンズ フィーバー』を製作したイルミネーションが放つ最新作は、なんと《スーパーマリオブラザーズ》だった!
「スーパーマリオブラザーズ」は、1985年に任天堂から発売されたファミリーコンピューター用アクションゲームだ。物語の舞台は、クッパ一族によって滅んでしまったキノコ王国。しかし、王国を救える存在であるピーチ姫は大魔王に誘拐されてしまう。赤いオーバーオールを着たおじさんことマリオがこの危機を救うために立ち向かうといったもの。
一度聴いたら忘れることのできない音楽と、印象的なキャラクター、シンプルながらも奥深いゲーム性が評価された。
■国内外で愛される任天堂の看板
またアクションゲームだけでなく、RPG、レーシングゲームやパーティゲームなどといったさまざまな続編が製作されている。また、ゲームを最速でクリアするチャリティイベントRTA in Japan Winter 2021では、ドイツ人走者Bubziaさんが「スーパーマリオ64」を目隠しでクリアする企画が話題となった。このようにマリオの世界観は、今では任天堂を代表とする、もとい日本ゲーム界の顔として国内外から愛されているのだ。
イルミネーションが、任天堂とユニバーサル共同で製作した『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の予告編が2022年末に公開された。実際に観てみると、「スーパーマリオブラザーズ」はもちろん、マリオがゲームの中で初登場した「ドンキーコング」から「マリオカート」などといった往年のゲームの世界が完全に再現されており、マリオ界の『レディ・プレイヤー1』ともいえる内容に期待が高まる。
一方で、本作は2つの意味でイルミネーション映画らしい作品と考えられる。
■イルミネーション映画を読み解く2つのポイント
(C)2022 Nintendo and Universal Studios1つ目はマリオのキャラクター造形である。マリオといえば、世界を幾度となく救ってきたヒーロー。ゲームプレイによっては、時折お茶目な側面を垣間見せるキャラクターの印象が強い。確かに、彼をコメディキャラクターに仕立てた漫画作品に「スーパーマリオくん」があるが、基本的にマリオは真面目なキャラクターの印象がある。しかし、予告編を観ると、頼りないトラブルメーカーのイメージが強い。
イルミネーション映画における主人公は、トラブルメーカーだったり、自己中心的なキャラクターを配置する傾向がある。
例えば、『SING/シング: ネクストステージ』のバスター・ムーンに注目する。彼は、結果よければプロセスはどうでも良いと言わんばかりに厚顔無恥さとハッタリで、ショーを押し切る内容となっている。
『ミニオンズ フィーバー』では、怪盗を名乗る前の少年グルーが超極悪組織から宝石を盗み出したことがきっかけで誘拐されてしまう話だ。グルー、ミニオンズ双方の視点から物語が進行するのだが、やがて同じ目的を持った者が手を組むを友情が生まれる展開へと繋がっていく。善悪の垣根を超えた普遍的な内容となっているのだ。
(C)2022 Nintendo and Universal Studios
共感とは一歩距離を置いたキャラクターたちが織りなす騒動から、社会における関係性の複雑さをコミカルに描こうとする精神がイルミネーション映画にあると考えられる。それを踏まえると『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はファンムービーの域に留まらず、普遍的な人間社会の営みを捉えた物語になるであろうと思わずにはいられない。期待が高まるばかりである。
【作品情報】
監督:アーロン・ホーバス
出演:
(字幕版)クリス・プラット/アニャ・テイラー=ジョイ/ジャック・ブラック
(吹替版)宮野真守/志田有彩/三宅健太
4/28(金)TOHOシネマズ新宿ほかにて公開
【参考資料】
1.マリオポータル「スーパーマリオブラザーズ」
2.『アラビアンナイト 三千年の願い』
★2023年2月23日(木)公開予定
■ジョージ・ミラーが帰ってきた!
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の興奮から7年。ジョージ・ミラー監督がユニークな「ものがたり」を提げて帰ってきた!
主演はティルダ・スウィントン。『MEMORIA メモリア』で「ことば」を巡る冒険をした彼女の前に現れた新しい冒険。それは「ものがたり」を巡るものであった。
物語を研究しているアリシア。彼女はトルコの雑貨屋でガラス瓶をお土産に買う。すると中から魔人ジン(イドリス・エルバ)が現れ「3つの願い事を叶えよう」と語りかけてくる。
もしもあなたの前に3つの願いを叶える魔人が現れたら何をお願いするだろうか?富・名声・力……様々な欲望がわき立つであろう。しかし、彼女はその権利を放棄しようとする。
テクノロジーが発達した今において物語はメタファーでしかない、どんなに神秘的な話でも誰かの教訓でしかないと考えている彼女。願いを叶えてもらうと悲劇へと繋がることを知っている。現状にも満足している彼女にとってほしいものはないのだ。
彼女を見兼ねたジンは、身の上話を始める。
■「千夜一夜物語」のユニークなアレンジ
(C)2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.本作は「千夜一夜物語」におけるシャフリヤールとシェヘラザードの関係性を逆転させた物語になっているところが面白い。「千夜一夜物語」は、暴君シャフリヤールの怒りを沈めるためにシェヘラザードが面白い話を聞かせ続ける内容である。
『アラビアンナイト 三千年の願い』では、生殺与奪をアリシアが握っており、本来では優位に立っているはずのジンが話を聞かせ続けることなるのだ。また、安易に関係性を逆転するだけでなく、ジンが身の上話をしていく中で、アリシアが立てた物語=教訓といった方程式に説得力が増してくる内容となっている。そして、ジンが話す内容は女性にまつわる話が中心となる。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で抑圧された女性の解放を描いてきたジョージ・ミラーが今回は別のアプローチからこのテーマに挑む。これまた惹き込まれる作品となっている。
【作品情報】
監督:ジョージ・ミラー
出演:イドリス・エルバ/ティルダ・スウィントン/ピア・サンダーボルト
2/23(祝・木)TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
3.『いつかの君にもわかること』
★2023年2月17日(金)公開予定
■『アイ・アム まきもと』の原作となった映画とは?
2022年9月に阿部サダヲ主演の映画『アイ・アム まきもと』が公開された。本作は、人知れず亡くなった方を悼み埋葬する「おみおくり係」に勤務する男を描いた作品。実は、この作品はリメイクであることをご存知だろうか?
原作はヴェネツィア国際映画祭にてオリゾンティ部門監督賞など4部門を受賞した『おみおくりの作法』である。ロンドンの新聞で読んだウェストミンスターの葬儀屋のインタビュー記事に基づく作品であり、監督のウベルト・パゾリーニは30人もの葬儀屋に取材していき、リアルな物語を生み出した。本作は日本でも話題となり、2015年のキネマ旬報ベスト・テン外国映画にて10位に選出された。
■シングルファーザー、余命わずか、息子の居場所探す
そんなウベルト・パゾリーニ監督の新作『いつかの君にもわかること』が2/17(金)より公開される。『おみおくりの作法』同様、新聞記事からインスピレーションを得た作品だ。
余命わずかのシングルファーザー・ジョン(ジェームズ・ノートン)。彼は、自分の死後、息子が安心して過ごせるように養子縁組の手続きを行う。自分にとってあまりに重い「死」。4歳の息子に突きつけて良いものなのか?ジョンは真実を隠しながら、息子と共に新しい生活の場を探していく。
現実において、痛みを叫ぶことは難しい。ジョンはひとり、バーの影に佇み、つらさを噛み締めていく様は涙なくして観ることができない感傷的な場面である。
監督はCineuropaでのインタビューの中で、『おみおくりの作法』が「生」の作品であることに対し、本作は「死」の作品であることを語っている。配給のキノフィルムズは、2/3(金)に尊厳死を扱ったフランソワ・オゾン監督作『すべてうまくいきますように』を公開する。『おみおくりの作法』や『すべてうまくいきますように』と併せて観ることで、深掘りできる作品といえよう。
【作品情報】
監督:ウベルト・パゾリーニ
出演:ジェームズ・ノートン/ダニエル・ラモント/アイリーン・オヒギンズ
2/17(金)YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開
【参考資料】
1.Cineuropaウベルト・パゾリーニインタビュー『おみおくりの作法』
2.Cineuropaウベルト・パゾリーニインタビュー『いつかの君にもわかること』
4.『私、オルガ・ヘプナロヴァー』
★2023年4月29日(土)公開予定
■ジョン・ウォーターズ映画ベストに選出されたチェコ映画
『WANDA ワンダ』『ノベンバー』と個性的な作品を配給してきた新鋭クレプスキュール フィルム。第3回配給作品を飾るのは、2017年にジョン・ウォーターズのベスト映画に選出された『私、オルガ・ヘプナロヴァー』だった。
チェコスロバキア最後の死刑囚オルガ・ヘプナロヴァーの生き様を描いた本作は、まるでロベール・ブレッソン『少女ムシェット』を彷彿させる冷たいタッチで、トラック殺人までの経緯を描いていく。病院にも家にも居場所がないオルガ・ヘプナロヴァー(ミハリナ・オルシャンスカ)は、イジメに遭い、精神が衰弱している。自立しようと働き始めるも、職場でパニックを引き起こして社会に溶け込むことができない。やがて彼女は自分しか信じられなくなっていく。
『私、オルガ・ヘプナロヴァー』は人に裏切られ続けることで、他者の存在がどうでもよくなっていく過程をじっくり描いた作品である。
【作品情報】
監督:トマーシュ・ヴァインレプ/ペトル・カズダ
出演:ミハリナ・オルシャンスカ/マリカ・ソポシュカクラーラ/メリーシコヴァー
4/29(土)シアター・イメージフォーラムほかにて公開
【参考資料】
1.ARTFORUM FILM: BEST OF 2017 JOHN WATERS
5.『〈特集上映〉オタール・イオセリアーニ映画祭』
★2023年2月17日(金)公開予定
■オタール・イオセリアーニ作品一挙上映!
ジョージアの名匠オタール・イオセリアーニ監督作21本が一挙上映される。これは映画ファンにとって2023年上半期最大の事件であろう。国内外のサブスクリプションサイトで配信されることは少なく、DVDもプレミアム価値がついていることが多いためだ。いくつかの時代の物語をサイレント映画のような演出で包み込むことで、暴力と死の普遍性を描いた『群盗、第七章』、窓や狭い通りをユニークなアクション装置として機能させた『四月』はもちろん、今まで鑑賞が困難だった作品が劇場で観られるのだ。
■輸入でも入手困難な激レア映画、日本上陸!
特に注目な作品は『そして光ありき』である。ヴェネツィア国際映画祭にて審査員特別賞を受賞した作品でありながら、国内はもちろん国外でも鑑賞が困難な作品である。確かに、この作品はフランスで発売されているDVD-BOXに収録されている。それも英語字幕つきだ。しかし、Amazonでは15万円以上のプレミアム価値がついているのである。
本作は、セネガルのディオラ族の村に白人による森林破壊の魔の手が迫ってくる内容。フッテージを観ると、ディオラ族が生活しているすぐ横で無惨にも倒される木々の暴力性が滲み出ている。運動で物語ることを得意とするイオセリアーニ特有の演出が光る作品と予想できるのだ。
筆者は高校時代に『そして光ありき』の存在を知り、探すこと10年。ようやく観られると知り、涙が出てきた。それぐらい珍しい作品である。
ほかにも、ジョージアの歴史をフッテージから語る約4時間にも及ぶドキュメンタリー『唯一、ゲオルギア』も公開される。こちらは、『ミスター・ランズベルギス』や『バビ・ヤール』などといったドキュメンタリー映画が気に入った方、注目の作品である。
【作品情報】
■上映作品
『落葉』
『歌うつぐみがおりました』
『田園詩』
『蝶採り』
『群盗、第七章』
『素敵な歌と舟はゆく』
『月曜日に乾杯!』
『ここに幸あり』
『汽車はふたたび故郷へ』
『皆さま、ごきげんよう』
『四月』(中編)
『鋳鉄』(短編)
『ジョージアの古い歌』(短編)
[劇場初公開]
『月の寵児たち』
『そして光ありき』
『唯一、ゲオルギア』※3部作
『エウスカディ、1982年夏』(中編)
『トスカーナの小さな修道院』(中編)
『水彩画』(短編)
『珍しい花の歌』(短編)
『ある映画作家の手紙。 白黒映画のための七つの断片』(短編)
2/17(金)シアター・イメージフォーラムほかにて公開
(文:CHE BUNBUN)
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