『普通に生きる』ことを問いかける映画を5本集めてみた

先日『普通に生きる』というドキュメンタリー映画を見て、普通に生きるということとはどういうことなのか、改めて痛感させられてしまいました。

普通に生きるってどういうこと? 

そもそも普通って何?

こう問われてすぐに答えられる人がどれだけいるのでしょう……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街337》

たまさか最近、そういったことを考えるに足る映画が他にも数本ありましたので、せっかくなので一気に並べてみることにしました!

『ゴンドラ』プロデューサーが手掛けた
2本のドキュメンタリー映画

まずはやはり命題そのものの『普通に生きる』(11)から。

この作品は重症心身障がい者のための通所施設として静岡県富士市にある生活介護事業所「でら~と」を利用する障がい者およびその家族、関係者らの日常を通して、現代における日本の福祉問題を直視しつつ、新しい未来を誘おうとするドキュメンタリー映画です。

プロデューサーおよび撮影を手掛けたのは、今から30年以上も前の映画にも関わらず、昨年リバイバル公開されるや異例のロングランヒットとなった伊藤智生監督作品『ゴンドラ』(88)プロデューサーの貞末麻哉子。

彼女は2006年から「でら~と」の人々を取材し続け、東日本大震災を経て2011年5月にようやくこれを完成させました。

本作は障がい者とその家族らの実態を慈愛の眼差しで見据えつつ、たとえどのような境遇であろうとも、すべての人は“普通に生きる”権利があるのだと、声高にではなく、あくまでも等身大の姿勢で訴えていきます。
(それは孤独な少女と青年の交流の中から現代社会の闇を訴えた『ゴンドラ』と共通するものも大いにあるのです)

そして、そのためにも人は差別や偏見を乗り越えて、福祉に対して単なる“受け手”から“担い手”へと意識を変えていくべきであるとも。

現在、障がい者を持つ親たちの最大の悩みは、自分らがこの世を去った後、子どもたちの面倒を誰が見てくれるのか? その不安を払拭し、すべての人生を明るく“普通に”送れるようにするために、国や地域社会に理解を求める術としても、本作は機能し続けています。

貞末プロデューサーはドキュメンタリー映画でもう1本、『ぼくは写真で世界とつながる~米田祐二22歳~』(15)も発表しています。

こちらは自閉症と診断されつつもデジタルカメラで写真を撮り続け、毎年写真展を開催し続けている米田祐二さんが「観光バリアフリーモニターツアー」に参加し、沖縄を旅したときの模様を映像に収めたもの。

つい先ごろ自閉症の少女が『スター・トレック』の脚本を書いて映画会社まで届ける独り旅を描いた劇映画『500ページの夢の束』が公開されたばかりですが、本作はそのリアル版と言ってもいいかもしれません。

『普通に生きる』と『ぼくは写真で世界とつながる』は今も全国各地で上映され続けていますが、介護のために上映会場まで出向けられない人たちのために、このたびようやくDVD化もされました。
(詳細は下記まで)
http://www.motherbird.net/~ikiru/

当事者にならないとなかなか理解されづらい世界かもしれませんが、だからこそ、その理解の補助としての映画も存在してしかるべきかと思います。

上映会でもDVDでも、一度ぜひこれらの作品に接してみてください。

若き理学療法士の苦悩を描く
長編劇映画『栞』

次に、理学療法士の仕事を通して、生きることや命の尊さを問いかける長編劇映画『栞』(10月26日公開)を。

(C)映画「栞」製作委員会 

監督はこれが長編映画2作目となる榊原有佑ですが、実は彼、理学療法士のキャリアを持ち、そのときの体験をフューチャーした作品でもあります。

ここでは三浦貴大扮する若く生真面目な理学療法士・高野雅哉が病院の中の仕事を通して、その理想と現実のギャップに苦悩しつつも自問自答を続け、人として少しずつ成長していく姿が気負いなく淡々と描かれていきます。

特に前半は、ラグビーの試合中にケガをしてリハビリを強いられる若者・藤村孝志(阿部進之介)と雅哉との交流がメインとなっていきます。

スポーツマンらしく一見豪快で明るい孝志ではありますが、果たしてその結末は? 

一方、同時期に雅哉の病院に父・稔(鶴見慎吾)が入院してきますが、治療費などのシビアな問題を経て、ようやく手術を受けるも衰弱していく父に対して何もできない雅哉は葛藤します。

病院の中で生と死の問題に対峙し続けていく困難、しかし本作はそのことを重荷のように描くのではなく、むしろ静謐な趣で、それこそ死が生と隣り合わせのものであり、人の営みの中でごく自然なことであることをさらりと訴えつつ、その上で人として生きることの意識の向上を示唆しているのが美徳ともいえるでしょう。

児童養護施設出身の若者たちを描く
短編劇映画『レイルロード スイッチ』

続いて『レイルロード スイッチ RAILROAD SWITCH』。

こちらは児童養護施設を出て社会に生きる若者たちの青春群像を描いた劇映画ショートバージョンです。

児童養護施設出身の和樹(大野ユウジ)は、相棒(小野島徹)とともにお笑い芸人として現在活動中。ある日、和樹は同じ施設だった弘也(加賀美秀明)と再会して旧交を温めますが、その一方で和樹は施設出身ということにどこか負い目を感じています。その後、彼は施設時代の憧れの女の子(山本夢)と思わぬ形で再会するのですが……。

この作品、10月13日(土)に東京中野ZERO(視聴覚ホールにて13時30分開場、14時開映/入場無料)など、現在全国各地で上映会&トークイベントを開催中ですが、ホームページにて本編を鑑賞することもできます。

https://www.nishizakaraito.com/new-project/

監督の西坂來人は、特撮美術の仕事を経て現在は映像作家&絵本作家&イラストレーター&デザイナーとして活動していますが、実は彼も少年時代の一時期を児童養護施設で過ごしており、今回その経験を基にした劇映画を作るべく、長年温めてきた企画をついに具現化。

まずはパイロット版としてのショートバージョンを作り、現在は長編映画化に向けての制作資金の寄付などの応援を受け付けております。

ショートバージョンを見ますと、短いながらも施設出身者のシビアな現状などを身をもって知る監督の目線が、ラストのカタルシスへ巧みに結びついているように思え、これはぜひ長いものを見てみたいという気にさせられました。

まずはぜひショートバージョンをご覧になっていただき、作品の趣旨に賛同された方は、ぜひこのプロジェクトを応援してあげてください。

安らかな死を迎えられるための
インド映画『ガンジスに還る』

(C)Red Carpet Moving Pictures 

最後にインドの長編劇映画『ガンジスに還る』(10月27日公開)をご紹介したいと思います。

ある日、不思議な夢を見て死期を悟った父ダヤ(ラリット・ベヘル)が、ガンジス河の畔の聖地“バラナシ”へ行くと決め、仕事人間の息子のラジーヴ(アディル・フセイン)が同行することに。その聖地には、安らかな死を求める人々が暮らす施設“解脱の家”があり、ダヤはそこで残された時間を有意義に過ごそうとするのですが、そんな父に対してラジーヴは……。

最近『バーフバリ』2部作などで盛り上がっているインド映画ですが、本作は生と死が混在するとされるガンジス河の畔を舞台に、死もまた人生の中に普通にあるものとして、その中から父と子、そして家族の絆などを大河の流れのように悠々と描いていくのです。

海外では小津安二郎監督の『東京物語』を彷彿させる傑作として讃えられ、アメリカのうるさ型映画サイト「ロッテントマト」では何と100%の最高点を樹立!

また、こういった死の問題に真摯に取り組んだのが弱冠27歳の新鋭シュバシシュ・ブティアニ監督というのも興味深いところです。

「人はみな大河の一滴」

この映画を見ながら、ふと五木寛之のこの言葉が脳裏をよぎりました……。

以上、秋も次第に更けていく中、人はいかに普通に生き、そして普通に死んでいくべきか、こういった作品群を通して想いを馳せてみるのもよろしいのではないでしょうか。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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