映画コラム
『ロケットマン』が世代を超えて愛される感動作である「3つ」の理由!
『ロケットマン』が世代を超えて愛される感動作である「3つ」の理由!
©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
イギリスを代表する伝説のミュージシャン、エルトン・ジョンの波乱の半生を描いた作品『ロケットマン』が、8月23日から日本でも劇場公開された。
エルトン・ジョンの数々の名曲が楽しめるだけでなく、彼の公私にわたる波乱の人生をミュージカルとして描く内容だけに、昨年公開されて大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』の興奮と感動を期待してしまう本作。
気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものだったのか?
ストーリー
両親から愛されない少年時代を過ごした、後の大スター、エルトン・ジョン(タロン・エジャトン)。
レコード会社の募集広告を見て応募した彼は、同じ応募者のバーニー・トーピン(ジェイミー・ベル)の美しい詩に魅せられ、二人で曲作りを始める。一気にスターへの階段を駆け上がった彼だったが、マネージャーのジョン・リード(リチャード・マッデン)との恋愛関係の悪化や、成功し続けることへのプレッシャーなどから、薬物・アルコール依存や過剰摂取に陥り、心身共に追い詰められてしまう。
長年一緒に名曲を生み出してきたバーニーさえも、彼の元から去ってしまった今、エルトンはある重大な選択をするのだが…。
予告編
理由1:全編を彩る名曲の数々が凄い!
本作の見どころ、いや聞きどころは、何といっても全編を彩るエルトン・ジョンの名曲の数々!
例えば、ケビン・コスナー主演の青春映画『ファンダンゴ』の主題歌としても使われた「土曜の夜は僕の生きがい」や、アメリカでの初公演シーンで観客の心を見事に掴んだ、疾走感あふれる「クロコダイル・ロック」、更には彼の代表曲「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」誕生のエピソードに至るまで、エルトン・ジョンの曲とは知らなくても一度は耳にしたことがあるはずの名曲が次々に登場する内容は、きっと世代を超えた多くの観客の心に届くはずだ。
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中でも、映画『トミー』の中でエルトン・ジョンがカバーして歌い、同映画のサントラ盤にも収録されている、ザ・フーの名曲「ピンボールの魔術師」演奏シーンは、音楽業界で成功を手にしたエルト・ジョンの目もくらむような忙しさと、一度成功を収めたらそこから降りるわけにはいかないプレッシャーをも見事に表現したシーンとなっていて、必見!
加えて、「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」が、創作上の長年にわたるパートナーだったバーニーとの決別と、映画終盤でエルトンがある重大な決意をするシーンの2か所で効果的に使われる点も、本作の重要な見どころとなっている。
何故なら同じ歌詞でありながら、前者と後者ではその意味するところが大きく違っているからだ。
実際、前者のシーンではバーニーによって歌われることで、二人が出会った頃の幸せな創作活動の日々を"イエロー・ブリック・ロード"の言葉に託しているのに対し、後者のシーンではエルトンが歌うことで、自己逃避のために築き上げた虚飾の世界に別れを告げ、現実に向き合う決意の意味になるのが見事!
一度聴いたら耳に残るこれらの楽曲の魅力により、彼の楽曲に馴染みの無い若い観客層にも、この伝説的ミュージシャンへの興味を抱かせることは確実な本作。
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ちなみにタイトルにもなっている名曲「ロケットマン」は、日本でも放送された80年代の人気海外ドラマ『アメリカン・ヒーロー』で印象的に使われていたので、そちらの方で記憶に残っている方が多いかも?
残念ながら著作権の問題もあってか、最近は映画の中に登場する楽曲の歌詞に日本語字幕が付いていない場合が多いのだが、幸い本編中に登場する曲には、ほとんどの歌詞に日本語字幕が付いているので、是非その歌詞の意味を味わいながら劇場でご鑑賞頂ければと思う。
理由2:猛特訓で完全再現された、エルトン・ジョンの歌声が凄い!
前述した通り、エルトン・ジョンの数々の名曲が楽しめるこの『ロケットマン』だが、実は本作で登場する数々の楽曲は、全てエルトン・ジョン役のタロン・エジャトン本人の歌唱によるものというから驚かされる。
実際、製作当初は歌唱シーンの歌声に吹替を起用することも検討されていたが、撮影前に約5か月間のボイストーニングやピアノの特訓を受けて挑んだ、タロン・エジャトンの役者魂により、本人の歌唱法や歌声を完コピしているのが凄い!
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正直、外見的にタロンとエルトン・ジョンとは、必ずしも似ているとは言えないのだが、ストーリーが進むにつれてエルトン・ジョンの外見やファッションが変化していく過程で、次第に彼がエルトン・ジョンに重なって見えてくるのは、やはり彼の演技力と努力の結果と言えるだろう。
今年は他に主演作『フッド:ザ・ビギニング』が10月に公開されるなど、更にその活躍が期待されるタロン・エジャトン。
演技力と特訓でエルトン・ジョンを自分に引き寄せた彼の成りきりっぷりは、是非劇場で!
理由3:主人公が自己肯定するまでの、苦悩の道のりが泣ける!
人々の持つ多様性が、まだ現在ほど社会的に認められていなかった時代。現実と理想とのギャップに苦しみながら、音楽の世界で成功を手にしたエルトン・ジョンの挫折と、そこからの再起を描いた本作。
実の両親に愛されずに育った子供が、自身のセクシャリティと向き合いながら成長する困難さを、綺麗ごとだけでなく薬物・アルコール使用の事実も踏まえて描いているだけに、華やかで奇抜なファッションに身を包んだステージ上のエルトンの姿と、次第に破滅に向かう私生活とのギャップは、彼の置かれているギリギリの精神状態を見事に物語っている。
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特に、名曲「アイ・ウォント・ラヴ」に乗せて両親・祖母・少年時代のエルトンがそれぞれの想いを歌うシーンでは、心の奥では家族全員が愛を求めているものの、その気持ちが家族には伝わらず完全にすれ違っており、この家族の修復できない関係性が明らかにされることになる。
実は本作で重要なのが、エルトン・ジョンの父親の存在だ。
戦争の後遺症か、或いは派手で奔放な生活を好む妻へのあてつけのためか、最後まで息子に対して愛情を抱けなかった男として描かれている、彼の父親。
本編中にも、ミュージシャンとして成功したエルトン・ジョンが、今は再婚して別の家庭を持つ父親を訪ねる印象的なシーンがあるが、ここで父親が取ったエルトンに対する態度が、彼に残酷な現実を思い知らせることになる展開は見事!
だが、同時にこのシーンで描かれるのは、かつては心が空っぽで我が子を愛せなかった人間でも、最愛の相手を見つけることで幸せな家庭と真実の愛を手に入れられるという、エルトンの将来に対する希望に他ならない。
ただ、当時のエルトンにはそんなことを考える余裕もなく、この父親との再会が更に彼の精神を蝕むことになってしまう。
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加えて、もともと派手な生活と音楽好きの母親とは、ミュージシャンとして成功後に良好な関係を築いていたことが映画では語られるが、彼のセクシャリティの公表に際して、母親との溝や確執も決定的なものとなってしまうのだ。
ステージ上の理想の自分を演じることに疲れ果て、次第に薬物やアルコールに溺れ消耗していくエルトンに、文字通りドン底と絶望の淵から"浮かび上がる"きっかけを与えた存在とは、果たして誰だったのか?
ラストの自己肯定に至る描写と併せて、破滅寸前の現在の自分を少年時代の無垢な魂が救うという展開が素晴らし過ぎる本作。
実は、エルトン・ジョンには"レジナルド・ドワイト"という本名があるのだが、両親の愛情を得られずに育った環境から逃れるため、"理想の自分"として生まれ変わりたかった彼は、バンド仲間の一人から"エルトン"の名前を貰って芸名にしたことが、映画の中では描かれている。
では、もう一つの芸名である"ジョン"の由来とは? その意外なエピソードについては、是非劇場でご確認頂ければと思う。
最後に
両親からの愛情や承認が一番必要な時期に、そのどちらも与えられずに育った少年、レジナルド・ドワイト。
その音楽的才能と彼が生み出す優れた楽曲により、後に世界的なミュージシャン、エルトン・ジョンとして富と名声を手にすることになるが、華やかなスターとしての扱いと、実生活で味わう孤独とのギャップが彼を苦しめ、恋人で長年マネージャーとして彼と行動を共にしてきたジョン・リードすらも、彼をビジネスの道具としてしか思っていないことが明らかになっていく。
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特に歌手としての成功後、一見関係が修復されたかにみえた実の母親に、エルトンが自身のセクシャリティを告白した途端、肉親とは思えないほど冷たい言葉を浴びせられる描写は、彼が感じた孤独や絶望感を観客も共有できるほどの残酷さ!
実はエルトン・ジョンが一番依存していたのは、自分をスターとして扱い声援を送ってくれるファンの存在に他ならない。
不幸にして私生活で心の平穏や愛情を得られなかった彼には、ステージ上の華やかな自分と観客の声援こそが、生きているという実感と自己肯定感を与えてくれるものであり、唯一自分が輝ける"仕事"にのめり込むしか道がなかったのだ。
ステージ上に存在する大スター"エルトン・ジョン"と彼の歌が世界中で愛される反面、一人の人間"レジナルド・ドワイト"は誰からも愛されず孤独に耐えるしかないというギャップが、長い間彼を苦しめ続けることになるが、悲しい過去に人生を支配され続けた彼が、ついに過去の自分と正面から向き合い、文字通りその孤独な魂を"抱きしめる"ことで、未来へと一歩踏み出す決意をする展開は必見!
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エンドクレジットで映し出される実際の過去のエルトン・ジョンの姿と、演じるタロン・エジャトンの再現っぷりの比較には、この大スターが人生を賭けて成し遂げてきた偉業へのリスペクトと、彼への愛情が込められている気がした本作。
両親に愛されずに育った少年が、ついに自分が無価値ではなく存在する価値があることを見つけるまでの感動作なので、全力でオススメします!
(文:滝口アキラ)
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