新しいのに懐かしい!?『ジュラシック・ワールド/炎の王国』が賛否両論でも大ヒットするワケ

© Universal Pictures

夏休み映画の本命とも言える『ジュラシック・ワールド/炎の王国』が、大方の予想通り興行収入ランキングを席巻している。映画は公開以降、アメリカだけでなく日本でもその内容を巡って“賛否両論”が巻き起こっているが、7月23日付で35億円を突破しており、興収自体はどこ吹く風。新作の公開が相次ぐ中、公開から2週連続で首位獲得となった。

前作『ジュラシック・ワールド』で監督を務めたコリン・トレボロウは脚本・製作総指揮に回り、スペイン人監督フアン・アントニオ・バヨナを起用。監督のバトンタッチもあって作風がガラリと変わり、観客の声には「後半が完全にホラー」「子どもは怖くて観られないんじゃない?」という感想が多いが、それでもヒット街道を驀進している理由はどこにあるのだろう?

J・A・バヨナ監督起用が成功!

トレボロウ前監督から大作シリーズのバトンを受け取ったバヨナ監督だが、フィルモグラフィーを遡ってみると実は監督作としての本数は少ない。鬼才ギレルモ・デル・トロに見いだされての監督デビューとなった『永遠のこどもたち』、スマトラ島沖地震を描いた『インポッシブル』、ダークファンタジー『怪物はささやく』と、言うなればフランチャイズ作品を手掛けること自体初めてのことだ。もちろん理由もなくいきなり超大作の監督に抜擢されるようなことはなく(記録的な興収を挙げた前作からすればなおさらのこと)、作品群を通してみれば今回トレボロウとデレク・コノリーが用意した脚本を映像化するに見合った才能だからこその人選と言える。

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例えば物語の“掴み”となる冒頭だが、嵐が吹き荒れる中、夜の闇とわずかな光源の中でいきなりティラノサウルスが大暴れをみせる。降りしきる雨の中ぬうっと現れる巨体は、おそらく観客の誰もが「今から“何か”が起きる」と予測しながらなお恐怖感を駆り立てられたはず。さらに圧倒的多数の観客が指摘するとおり、舞台を“屋敷”という限定空間に移して大胆に物語を転換させる後半は夜の闇がより生かされ、演出の一つひとつにいよいよホラー的な要素が反映されていく。“闇”や“屋敷”というシチュエーションそのものを物語の中に取り込み、より効果的に(もはやキャラクターの一部として)見せる手法は既に『永遠のこどもたち』『怪物はささやく』で発揮されており、まさにバヨナ監督が得意とする手だ。その感性が存分に作品になじんだことで、生半可な恐怖感ではなく観客に「闇の中から恐竜が現れるかもしれない」という“予感”と“リアリティー”を持たせているのではないだろうか。

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また、物語の前半をつかさどる“イスラ・ヌブラル島の噴火”という大災害描写にもバヨナ監督起用の妙が光る。イスラ・ヌブラル島といえば『ジュラシック・ワールド』シリーズだけでなく原点の『ジュラシック・パーク』の舞台でもあり、言わば“原点の島”だ。『ジュラシック・パーク』シリーズを愛するファンにとって初めて恐竜たちと遭遇した特別な世界であり、恐竜からすれば楽園でもある。そんな楽園すら、恐竜たちの“日常”すら奪い去ろうとする大噴火は前半の最大の見せ場になっている。ここで振り返ってみれば、バヨナ監督が『インポッシブル』で見せた無慈悲なまでの“大災害と日常の崩壊”が生かされていることは間違いない。『インポッシブル』では主人公一家を、街そのものを、島そのものを巨大津波が襲った。圧倒的な力で全てを飲み込んでいく災害描写は、まるで実録映像のような、絶望的な生々しさがあった。今回はもちろんフィクションであるものの、迫りくる溶岩や火砕流が恐竜たちを追い詰めていくリアルな描写に、思わず逃げ惑う恐竜に感情移入してしまった人も多いのではないだろうか。

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こういったリアリティーが観客の共感を呼び、それがたとえホラー的な画作りであっても「面白い!」と思わせる要因になった印象が本作にはある。また、物語を俯瞰して見ただけでなく、よりマクロな視点でもバヨナ監督の持ち味が発揮されていることにも注目していこう。

バヨナ監督が描く“子ども”と“家族”

バヨナ監督が自身の作品で一貫して描いているのが、“子ども”とその先にある“家族”の繋がりだ。前述の監督3作品はどれも“子どもの視点”が物語の骨格となっており、今回も新登場キャラクターの少女・メイジーが後半の物語の視点を担うとともに、ある重要な(ともすれば今後の展開に影響を与えるほどの)役割を背負わされている。バヨナ監督が新たに示す“家族の形”は現代的なテーマを含んでいるからこそ、“科学”を取り扱う本シリーズにより合致しており、新たなテーマとなって観客へと突きつけられている。

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さらに、ヒトと恐竜の間にまで家族、或いはそれに属する繋がりを見出そうとしているのがクリス・プラット演じるオーウェンとヴェロキラプトルの“ブルー”との関係性だ。ブルーは前作で、育ての親であるオーウェンと種族を超えた信頼の絆を結んで観客を驚かせた。旧シリーズでヴェロキラプトルが“悪役”として描かれていたことを思うと予想外の設定ではあったが、ブルーの活躍ぶりは本シリーズの新たな魅力となった。今回は、死にゆく島にブルーを置き去りにすることができなかったオーウェンの親心が描かれ、傷ついたブルーに寄り添う表情もまた父親そのものといえる。オーウェンとブルーの“親娘”もまた前作以上のターニングポイントを迎えることになるので、バヨナ監督がそこに至るまでいかにして道筋を立てているのかにも注目してほしい。

作品に漂う意図的な“懐かしさ”

先にも書いたように本作では冒頭からティラノサウルスが“活躍”を見せてくれるのだが、ここでシーンを分解してみると、嵐の夜・いきなり姿を現すティラノサウルス・獲物を狙い走るティラノサウルス、というように『ジュラシック・パーク』のティラノサウルス初登場シーンを彷彿とさせる描写になっている。また遺伝子操作により誕生した本作の“悪役”・インドラプトルが登場した際にも、『ジュラシック・パーク』で描かれたヴェロキラプトルとの厨房での攻防や、かぎ爪による硬質な床のノッキングなどが新しい形で描かれている。バヨナ監督のホラー的演出は自身の手腕の見せ所であると同時に、『ジュラシック・パーク』で同じくお得意の恐怖演出を見せたスティーヴン・スピルバーグ監督へのオマージュにもなっているわけだ。

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物語自体、島から本土へと恐竜を移送すると同時に舞台が移行するのも旧シリーズの『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』と似た構造で、何より旧シリーズの“もう1人の”主人公イアン・マルコム博士(ジェフ・ゴールドブラム)が登場していることからも旧シリーズを意識した作りになっていることが分かる。今回マルコム博士は旧シリーズと本シリーズの橋渡しとしての語り部を担っており、前作よりさらに旧シリーズへの回帰を試みていることが伝わってくるのだが、原点への回帰を意識したことでより原作が持つテーマ性に立ち戻った印象がある。

マイケル・クライトンが描いた“ロスト・ワールド”

シリーズを通してクレジットされている、『ジュラシック・パーク』の原作者である小説家マイケル・クライトン。残念ながらクライトンは2008年に亡くなってしまったが、小説界はもとより『コンゴ』『ライジング・サン』『ディスクロージャー』『ツイスター』などの映画化作品や、『ER 緊急救命室』『ウエストワールド』といったドラマ作品(『ウエストワールド』はクライトン自身が映画化もしている)の原作者として、ショービジネスにおいても多大な功績を遺した作家として知られている。

クライトンは医学博士号を持つ医師でもあり科学にも精通した才人で、『ジュラシック・パーク』の主人公で古生物学者のアラン・グラント博士やカオス理論が専門の数学者・マルコム博士にクライトンの姿が投影されていたのではないだろうか。小説『ジュラシック・パーク』は“科学への警鐘”“科学の暴走”が全面に濃く描かれており、映画化の段階でエンターテインメントとしての肉付けを行ったのがスピルバーグ監督だ。小説では科学や生物学など専門用語がページを埋めるように飛び出しており、冒険譚であるもののサイエンス・スリラーとしての面も強い。ちなみにクライトンによる続編小説『ロスト・ワールド -ジュラシック・パーク2-』は前作以上に映画版で脚色が行われており、別物感が強い。小説ではメインステージである離島“サイトB”を発見・移動するまでに小説の約半分を割いているほどで、映画があくまでエンターテインメントであるのに対し、原作小説は常に“科学あってのストーリー”が強調されている(なお映画『ジュラシック・パークⅢ』はクライトン死後の作品のため原作小説はない)。

ショービズの世界で誰よりも、猛スピードで発展を遂げる科学に対し危機感を覚えていたクライトン。“DNAと恐竜”をテーマに小説へと落とし込んだものが『ジュラシック・パーク』であり、ある意味現代においてクライトンが予見していた未来がほぼ“実現可能”となった今だからこそ、『ジュラシック・ワールド』シリーズは改めて“科学の暴走”にフォーカスすることになった。さらに今回の作品では“人間のエゴ”が色濃く反映されており、バヨナ監督とトレボロウも(さらにスピルバーグも)、クライトンが示した道筋をたどりながらさらにその先にある“暴走の果ての世界”を見据えて今回のラストシーンを描いているのではないか。

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今は亡きもう1人のキーパーソン、スタン・ウィンストン

新旧シリーズを語る上で、もう1人の重要な人物にも目を向けたい。それが特殊造形界の巨匠スタン・ウィンストンだ。第1作目の『ジュラシック・パーク』はILMによる視覚効果が大きな話題を呼んだが、アニマトロニクスを用いて現代に恐竜を蘇らせたウィンストンの功績も計り知れない。CGでは出しきれない“質感”や“重量”にこだわり、雨中に現れたティラノサウルスやじりじりと迫りくるヴェロキラプトルに息吹を与え、以降の作品でもウィンストンは多くの恐竜を“誕生”させてきた。

ウィンストンもまた逝去し、シリーズへの参加はティラノサウルスとスピノサウルスの激突シーンが見せ場の『ジュラシック・パークⅢ』が最後となった。時を経て『ジュラシック・ワールド』が製作されたが、クリエイターたちはウィンストンへのリスペクトを忘れておらず、新たに開園したパーク内に“WINSTON’s”という看板を紛れ込ませるという粋な“隠しネタ”を仕込んでいる。前作では特にティラノサウルスとインドミナス・レックスの怒涛のバトルなどVFXが大活躍したが、今回バヨナ監督は改めてアニマトロニクスに注力してウィンストンの遺志をスクリーンへと焼きつけている。

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今回アニマトロニクスを担当したニール・スカンランは、『スター・ウォーズ』新シリーズなどを担当している特殊効果スーパーバイザー。本作ではストーリーの展開上、ヒトと恐竜が最接近する場面が多く尚のこと恐竜の質感が重要で、一筋一筋丁寧に彫り込まれた鱗状の肌、ぐりぐりと動く眼球、ぬらりと輝く牙など、言ってみればシリーズ随一に接写場面が多い。それこそ『ジュラシック・パーク』でグラント博士たちが遭遇した横倒しのトリケラトプスのように、恐竜たちが手を伸ばした“すぐそこ”にいるのだ。バヨナ監督の演出やスカンランのきめ細やかな造形のおかげで恐竜それぞれの“個性”がより際立つことになり、肌の質感といった目に見える部分だけでなく、より感情に訴えかける存在としてスクリーンに登場している。

まとめ

前作のトーンや前半の展開と打って変わり、確かに後半はホラー要素満載となるが、“絵空事”にならないためのリアリティーが作品をしっかりと支えている。そのリアリティーこそ『ジュラシック・パーク』が見せた魅力にも通じ、新しくも懐かしい映画になったのではないか。それならば“怖がる”こともまた楽しみ方のひとつ。たとえホラーに抵抗がある子どもでも、恐竜たちの存在がよりリアルに近づけば十分に面白さが伝わるはず。大きな転換点を迎えた物語だが、根っこにあるものは『ジュラシック・パーク』となんら変わりはないのだから。

(文:葦見川和哉)

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