『きみの声をとどけたい』が信じさせてくれるコトダマの存在と、その大切さ

■「キネマニア共和国」

(C)2017「きみの声をとどけたい」製作委員会

みなさんは言霊(コトダマ)を信じていますか?

私は信じています。

それは霊的な意味合いではなく、人が心に思うことを口にすることの責任とでも言いますか、言葉は相手に自分の気持ちを伝える上で欠かせない重要な要素であると同時に、ほんの少しの意識のずれで暴力となり、相手を傷つける凶器にもなるからです。

文字にしても同じで、SNSが一般化した現在、そこに書かれていることから起きる様々なトラブルや悩み、また最近では電話で相手と話すのが苦手な若者が増えているとも聞きますが、それもまた言葉を声にすることの過剰な恐れみたいなものも理由としてあるのかもしれません……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.253》

今回ご紹介するのは、コトダマをモチーフとしたアニメーション映画『きみの声をとどけたい』です。

結論から先に申すと、こんなご時世に今一度言葉を発することの難しさや大切さを簡明に描いてくれる映画として、強く推したい、そんな作品です。

ミニFM局を再開させる
7人の湘南少女たち

『きみの声をとどけたい』は、神奈川県の湘南・日ノ坂町を舞台に、高校生の少女たちが地元のミニFMラジオ局を再開させるお話です。

(C)2017「きみの声をとどけたい」製作委員会

幼い頃に祖母からコトダマの話を聞かされ、その存在をずっと信じ続けているなぎさは、夏のある日、ふとしたことから閉店して久しい喫茶店の中に入り込み、そこでラジオ・ステーションの設備を発見します。

かつてその店でミニFM“アクアマリン”を放送していたことを知ったなぎさは、店の娘で帰省中の紫音や地元の仲間たちと一緒に“アクアマリン”を再開させることに。

徐々に地元の人たちの支持も得て、うまく波に乗り出した“アクアマリン”ですが、しかし、実は店が夏いっぱいで取り壊されてしまうことが明らかになり……。

本作の見どころとしては、まず日之坂町の街並みをアニメーションならではの聖地的センスでリアルに活写し、その中の少女たちの青春群像を繊細に描出していることです。

ここには7人の少女たちが登場しますが、その中には口が悪くきつい子もいたりして、時折いさかいもおきたりしてしまいます。

(C)2017「きみの声をとどけたい」製作委員会

しかしヒロインのなぎさは「悪いことばかり口にしていると、自分に返ってくる」と信じており、実際に彼女の目にはコトダマそのものが見えているのです。

今回特筆すべきは、その7人の少女のうち6人が新人声優で占められていることで(片平美那、田中有紀、岩淵桃音、飯野美紗子、神戸光歩、鈴木陽斗実)、正直たどたどしいところもありつつ新鮮な耳心地の彼女たちの声を発することの大切さを実践してくれています。

もうひとり、店の娘で他人に対して心を開くことになれていない紫音役には若手実力派の三森すず子が扮し、6人を巧みにサポートしてくれています。

さらにはなぎさにコトダマの話をして聞かせる祖母にはベテラン野沢雅子。その慈愛あふれる声を聴くだけで、もうコトダマが本当にあることを納得させられることでしょう。

TVの視聴者は批評家
ラジオのリスナーは友達

実は本作のマスコミ試写会の後、「ツイッターとかやってる時代に、今さらラジオとかコトダマって、若い連中に笑われちゃうよね」と揶揄している年配のマスコミ陣がいて、思わず嘆息してしまいました(というか、本当は「笑われるのはあなたたちのほうでしょう?」と言い返したくなったほどでしたが、言葉にすると悪しきコトダマになりそうなので止めました……でも、今ここで書いちゃったから同じか!?)。

ツイッターやフェイスブック、LINEなどSNSの時代だからこそ、言葉そのものが本来持つ意味や力などを、改めて今の若い世代はもとより、そういった不遜な言葉を平気で吐き、SNSの炎上騒ぎなどを面白がっているスレた大人たちに知らしめる必要があるのではないか?

(C)2017「きみの声をとどけたい」製作委員会

以前、深夜ラジオを聞いていたとき、TV出演も割かし多いパーソナリティが「TVの視聴者って80パーセント以上が批評家の目で私たちを見ちゃうんですけど、ラジオのリスナーは80パーセント以上が友達になった気分で聞いてくれるんですよ」と言ったとき、ものすごく納得できるものがありました。

視覚と聴覚の違いもあるのでしょうが、言葉を含めた音というものの繊細さや、それを受け止める人間そのものの資質を言い当てた言葉のように思えます。

本作の場合、若い世代がラジオという決して新しくはないツールに興味を抱き、それを扱っていくうちに、いつのまにか仲間たちと、町の人々と自然につながっていきます。

(C)2017「きみの声をとどけたい」製作委員会

先にも申した町のリアルな風景の中に、青木俊直の淡いキャラクターデザインが好もしく映えながら、TV&劇場版『オーバーロード』で評価を得た伊藤尚住監督の素直な演出が画と音の両面から施されていきます。

全体的に淡白な印象を受ける向きはあるかもしれませんが、その分傑作だの何だのといった冠を入れたくない、それまた実にナチュラルな雰囲気に心地よく浸りきりながら、いつしかコトダマの存在を信じたくなるような、そんな作品です。

夏の終わりに、何となく気持ちのいいものを見ちゃった!

そんな気持ちにさせられる作品です。

なお、私は映画を見た後、深夜ラジオを聞く習慣が久々に戻ってしまいました。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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