フランスでの『君の名は。』の評判・反応

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君の名は。 サブ1

(C)2016「君の名は。」製作委員会

『君の名は。』はフランスでは2016年12月28日に公開されました。日本で空前の大ヒットを記録したアニメ映画ということで、フランスでも随分と話題になりました。そして、フランスで近年公開された日本映画の中でも、スマッシュヒットを記録。『君の名は。』はフランスではどのような評価を得たのでしょうか。フランスで発表された批評からフランス人の反応を読み解きます。

フランスでの評価

フランスでは映画は五つ星で評価されます。フランス最大級の総合映画サイトAllocine.frによると、25の映画雑誌、新聞、週刊誌が評価をつけています。25のメディアの評価の平均は、4。今年度アカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』の評価の平均が、4,2なので、いかに『君の名は。』が、高評価を受けているのかが分かります。その中でも、ヌーベルバーグを生み出した伝統的な映画雑誌「Cahiers du cinéma」(カイエ・デュ・シネマ)は5をつけています。一方で、もう一つの有名な映画雑誌「Positif」(ポジティフ)は3と平均的な評価でした。

新海誠はポスト宮崎?

日本では新海誠監督はポスト宮崎駿と評価を受けているのを目にします。フランスのメディアもこれからの日本のアニメ映画界を背負って行くのは誰かということに興味津々。新海誠監督のアニメはフランスでは劇場公開されていないので、押井守監督のように映画ファンに知られた存在ではありませんでした。新海誠監督は突如現れた新星のような存在。メディアも興奮気味に、「新海誠はポスト宮崎になりえるのか」という問いかけをしています。

君の名は。 サブ09

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3,11東日本大震災後の映画として

3,11東日本大震災後の日本社会をフランスではポスト津波、ポスト福島と呼んでいます。死者を多く生み出した大災害のあと、日本の社会、日本人はどのように変わったか、そして芸術家たちに3,11はどのような影響を与えたのかについて論じられてきました。

「カイエ・デュ・シネマ」では「隕石落下で多くの死者を生み出す設定は、2011年の津波の災害を彷彿させる。同時に生きていく為に、この悲劇を忘れ、何もなかったように振る舞う日本人の姿勢が描かれている」、3,11と結びつけて、映画の一部分を分析しています。また実際に新海誠監督にインタビューを行っていますが、その中で監督は「滝が東京もいつかなくなるかもしれないと映画の最後の場面で言っているのは、運命論を表現している。それは3,11によってもたらされた変化」だと答えています。

また新聞「Libération」(リベラシオン)は「君の名は。」がこれほどまでに大ヒットした理由の一つが、「組紐」が映画のキーの一つであり、「結び」の概念が物語の軸の一つとして描かれているからだろうと述べています。3,11後日本人は「人との繋がり」を求めるようになったと言われています。現在の日本人のあり方に物語のテーマが合ったというのがフランス人の見方の一つです。

リアリズムのある描写

『君の名は。』はファンタジーな映画ですが、リアリズムのある描写が多いのも特徴です。新聞紙「La Croix」(ラ・クロワ)は、日本人の日常生活がリアリズムを持って描かれていると評しています。例えば、山手線の電車や新宿のシーンなんかは、東京に住む人なら同じように見えている景色なのではないでしょうか。映画の中で描かれたカフェや駅などは実在するものが多く、アニメの世界なんだけれど、現実感のある映画です。実際に舞台地を映画ファンが訪れるという現象も起きていますね。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

ノスタルジックではなくメランコリー

「カイエ・デュ・シネマ」では、都会の描き方に注目しています。現代では東京のような大都会をネガティブに描く風潮があります。都会の喧騒、そこにいる疲れ切った人びと。一方で、田舎を描くときは、静かで心が休まり、ゆったりとした生活のある場所。ノスタルジックが感じられる田舎の描写が多いように見受けられます。しかし、「君の名は。」の東京は、勿論主人公三葉の目線から描いている部分も大きいですが、全ての可能性のある輝かしい街として描かれています。映画の中では、田舎と都会の対立構造を作り上げるのではなく、物語が進むに連れて映画の中の田舎も東京もメランコリックな色調で描いています。

最後に

フランスでは、「君の名は。」は批評家だけでなく、観客の評価も高いのが特徴です。先ほど紹介したAllocine.frでは3月1日現在、観客の評価は4,6とかなり高得点を得ています。筆者は公開8週目に映画館で見ましたが、その時は満席でした。映画の鑑賞後は、文化コードの違いから、『君の名は。』は難しかったという意見を耳にしますが、同時に難解さがこの映画に惹きつけられる魅力のようでもあります。今後はどのようにフランスで受け入れられていき、どのようなポジションを獲得するのか、楽しみです。

参照サイト

http://www.allocine.fr/film/fichefilm-249877/critiques/presse/

参照文献

CAHIERS DU CINEMA/Descémbre 2016
Le Monde 28/12/2016
Le Monde 03/12/2016
Le Croix 21/12/2016
Libération 28/12/2016

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(文:北川菜々子)

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    ライタープロフィール

    北川菜々子

    北川菜々子

    パリ在住のフリーランス・ライター。大阪出身。大学卒業後、2007年に渡仏。パリの大学院では映画を社会学と記号学的アプローチから研究する。好きな映画「浮雲」(成瀬巳喜男)「「レディ・イブ」「赤ちゃん教育」「天井桟敷の人々」など、クラシック映画を愛する。その他に、読書や写真、カフェ巡り、街歩きなどが趣味。

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