『君が世界のはじまり』レビュー:思春期の普遍的焦燥を見事に描いた青春群像劇

思春期にのしかかる
さまざまな関係性

本作はこうした6人の男女がそれぞれ関わったり、ぶつかったり、共闘したりする姿を瑞々しくもどこかしら寂しげに、しかしながら少しだけ温かい風が吹いてくるような世界観の中で進められていきます。

1対1の関係性だったのが、ちょっとした三角関係に微妙に絡み合っていったり、クライマックスの閉店後のショッピングモールで繰り広げられるみんなのファンダンゴであったり(しかし、そこに一人だけいなかったり)などなど、さまざまな組み合わせの中から思春期の繊細な想いが巧みに描出されていくのです。

また彼らのバックボーンに“親”という存在が重さの大小はともかくとしてのしかかっているあたりは、とかく親の存在を無視しがちな昨今のキラキラ映画のノリとは一線を画したリアルなものを痛感させられたりもします。
(だって10代の頃って、親ほどそばにいて鬱陶しい存在はなかったですものね、でも、いざというときにはいてくれないと実は大変困る、といったあたりも煩わしかったりして……)

前作『おいしい家族』に比べると今回はシリアスなタッチも多く見受けられますが、それでもふくだ監督ならではのキャラクターひとりひとりに対する慈愛の目線はひしひしと感じられます。

また、その目線に呼応するかのように瑞々しく画面の中で立ち回り続ける6人の心地よさたるや!

さすがに6人の中ではやはり松本穂香の上手さが光り、また彼女が他の5人を巧みに引っ張っている感もあります。

が、個人的には印象鮮やかだったのは琴子役の中田青渚で、あの猪突猛進的な過激少女の近くにいる者らはさぞ大変だろうと思いつつ、おそらく彼女はその後一生忘れられない高校時代の思い出の存在になること間違いなし。

そう、この作品、現在進行形の10代から20代の今をリアルに描きつつ、かつては現在進行形だったこちらのようなロートルにまで心の奥底まで訴求していく力を大いに持ち合わせています。

その意味では老若男女を問わず、大いに堪能できる逸品であると強く断言しておきたいところです。

鑑賞後「何か良いもの見ちゃったな……」という気持ちにさせられること間違いなし!

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事

    WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com