圧巻の大作『キングダム』! 邦画の域を超えた“10”の魅力

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

まさか邦画で、これほど大規模なスケールで中国史を基にした作品が堪能できるとは思わなかった。映像から伝わってくる並々ならぬ情熱はスタッフ・キャスト渾身一体となった産物だと言え、佐藤信介監督の『キングダム』は近年稀にみるほどの熱量とチャレンジ精神に溢れる作品となった。

人気漫画を原作とした映像化とあってプレッシャーは相当だったはず。たとえ佐藤監督が『アイ アム ア ヒーロー』や『いぬやしき』、『BLEACH』といった作品を手がけ、“漫画原作の映像化請負人”だったとしてもだ。それでもキャスト発表から特報公開、ONE OK ROCKによる主題歌をフィーチャーした予告編からは、これまでとはひと味もふた味も違う薫風を感じさせる気配が漂っていた。そして期待通りの、いやそれ以上の圧巻な歴史アクション絵巻が本編では展開されていたのだ。今回は映画『キングダム』の魅力について紹介していきたい。

魅力1:中華圏映画ファン必見のロケーション

『キングダム』の舞台は紀元前の中国春秋時代が舞台。撮影は“本物”を求めて2018年春に中国ロケが20日間にわたって敢行されており、オープニングは象山平原を大将軍・王騎が騎馬隊を率いて移動する壮大な映像に。またクライマックスでは「象山影視城」のオープンセットで咸陽宮・王宮の戦いが撮影されている。

大半のメインシークエンスが中国で撮影されたおかげで、本作はその独特な空気感や映像の質感を手に入れることになった。『キングダム』という世界観を表現するには必要不可欠であり、最初の足掛かりとも言える重要なステップを着実に踏んでいたのだ。さらにキャスト陣を着飾る民族衣装も映像にフィットしていて、ビジュアル面から完璧な形を追求していた製作陣の思いがひしひしと伝わってくる。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

魅力2:原作者・原泰久も積極的に参加

漫画を映画化する上で避けて通れないのは、長大な物語を2時間という映画の中に落とし込まなければならない作業だ。特にコミックスの『キングダム』は現在54巻まで刊行されており、映画の軸となる王都奪還編だけでも1~5巻にかけて描かれている。多くの漫画原作作品は“改変”によって劣化を免れないが、本作に関して言えば原作者の原泰久自身が脚本開発に参戦。シーン構成やセリフの再構築を行い、撮影ギリギリまで脚本の改稿が行われることになった。

『キングダム』という世界観を最も知り尽くしているのは、ほかならぬ“生みの親”の原である。複雑に絡み合う世界観を改めて解きほぐして、必要なパーツを当てはめると同時に削り落とす部分を見極めるにあたり、これほど最適な“脚本家”はいないはずだ。原作者が積極的に関与するという点から見ても、やはり『キングダム』の映画化がいかにビックプロジェクトだったかが窺える。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

魅力3:主演・山﨑賢人から放たれる信という魅力

3年前に『キングダム』連載10周年を記念した特別映像が製作された際に、主人公・信を演じたのは本作と同じ山﨑賢人だった。突如として登場した実写版『キングダム』の世界観は大きな反響を呼んだが、その信役を山﨑本人が継承したというのも大きな価値を秘めていた。言うなれば映画化において誰よりも早くキャラクターを熟知していたことになり、物語を牽引する主役としては申し分のないところだ。

実直なまでの信というキャラクターをどこかぶっきらぼうに演じているように見える山﨑も、その体当たりとも言える演技が紛れもなく功を奏している。天下の大将軍になるというあまりに壮大な夢を掲げる信というキャラに現実感を持たせているのは、間違いなく全力で信という青年を憑依させた山﨑の演技力にある。なおかつ山﨑は全編で大声を張り上げ、さらには驚異的ですらある身体能力で大立ち回りを演じなければならない。その全てを抱え込み、それをこなしてみせた山﨑の存在感は、『キングダム』という世界観をより魅力的に見せる重要なアイコンになったことは間違いないと思う。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

魅力4:“影”になった男と影に影響される王を演じた吉沢亮

奴隷として幼き日から信と寝食をともにした漂。そして弟・成キョウに謀反を起こされ追われる身となった王・エイ政。1人2人役で漂とその生き写し・エイ政を演じたのが吉沢亮だ。凛とした表情が美しさすら感じさせる俳優だが、本作ではどちらの役でもその瞳に熱く滾る炎を宿している様がなんとも勇ましい。漂は王に仕えると同時にエイ政の影となり、やがて命を落とすことになる。漂の悲劇的な死が物語を、そして信を突き動かして激動の歴史を紡ぎ出していく。

エイ政は王都奪還編におけるキーマンとなるが、エイ政に王としての変化を与えるきっかけとなったのが他ならぬ漂と、のちに出会う信という兄弟以上の絆を持った2人というのが面白い。奴隷として粗削りな部分がある漂と、王としての威厳を備えたエイ政を演じ分けるという点では吉沢の繊細な演技のスイッチが見事と言うほかない。根底にある信に向けた信頼を剣に乗せて振りかざす場面においても、その太刀筋に両者の性格がはっきり見て取れるのも吉沢ならではの技量だと言える。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

魅力5:長澤まさみ、新境地開眼

王都奪還においてエイ政が頼った山の民の王・楊端和。妖獣の骸のような分厚い仮面の奥に、妖艶な微笑を浮かべた威厳あるキャラクターだ。そんな山界の死王を演じた長澤まさみの威風堂々たる佇まいはこれまでにないほど重厚な演技。特殊メイキャップもあって今までとは打って変わったビジュアルも魅力的で、なるほどこの存在感は粗暴な山の民をまとめるに相応しい。

楊端和を地に足つけて体現した長澤だが、二刀流で鮮やかなアクションを決める姿もなんと美しいことか。本格的なアクションとしては初挑戦というのが信じられないほど豪快にして華麗な身のこなしで、短刀を振りかざし弧を描く軌道で敵兵をまとめてなぎ払う姿は実に勇ましい。そしてそんな強さを内に秘めた楊端和だからこそ、臆面もなく夢を振りかざす信や、大いなる野望を持ったエイ政という2人の男を認めたのではないだろうか。彼女もまた、山の民の王であると同時に希望に賭した戦士だったのだ。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

魅力6:脇を固める個性派キャラクター

本作は原が生み出した数多くのキャラクターが魅力を放っていて、たとえば蓑を身にまとった河了貂は、ある意味演じる橋本環奈が良い塩梅でコメディ性を与えているのではないかと思う。蓑を被ってまるでだるまのようなビジュアルも可笑しなところもあるが、さらに被り物で巨大な梟へと“変身”を遂げるのも面白い。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

またエイ政派としては、近年変態紳士という呼称が定着した感のある高嶋政宏演じる昌文君の存在感も良い。無精ひげを蓄えた姿はいかにも戦国武将といった様相で、エイ政に忠誠を尽くし王都奪還に向けてまい進する姿が頼もしいではないか。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

とりわけ原作の人気キャラクター・王騎を演じる大沢たかおの名演も見逃せない。常に微笑をたたえたような温和な表情の持ち主だが、むしろその表情が真意を掴み取らせない“盾”にもなっている。また大沢が体重を増やして挑んだだけあって、巨大な矛を携えた大将軍たる威圧感も堂に入ったもの。それにしてもひとたび口を開けばその独特な口調はしばらく耳にこびりついて離れそうにない。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

魅力7:新たなる到達点を極めた怒涛のアクション

本作では王都奪還を機軸として、友のために大将軍を目指す信と民のために中華統一を目指すエイ政のドラマが描かれる。そんな2人の命を暗殺者から大軍勢までが狙うことになり、命を懸けた戦闘アクションも随所に盛り込まれている。アクション監督を務めたのは『図書館戦争』や『GANTZ』、『いぬやしき』などで佐藤監督とのコラボが続く下村勇二。『BLEACH』で邦画アクションのレベルを押し上げたタッグが、中国史戦記という土台を得てまたしても別次元のアクションを作り上げた。

プロダクションノートによると物語の舞台となる中国春秋時代には、中国武術がまだ誕生していなかったという。そこでアクション部ではオリジナルのアクションを生み出すことになり、各キャラクターの持ち味を活かしたアクションがそれぞれに振りつけられた。大半のキャラが剣術や格闘術を披露する中、物語を通して成長を遂げていく姿を見せたのが信役の山﨑だろう。これほどまでの本格アクションをこなすのは山﨑にとって初のことで、彼が信という役を通して徐々に逞しく強く変化していく様子が見て取れる。

格闘術に長けた暗殺者・朱凶との序盤のバトルや、毒矢から近接術まで体得しているムタとの中盤のバトルなどクライマックス以外にも見どころは盛りだくさん。中国武術は誕生していない時代だったとはいえ、そこはかとなく香港作品(例えばジャッキー・チェンのようなカンフースタイルからツイ・ハーク監督作に見られるようなソードアクション)のテイストも嗅ぎ取ることができる。

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魅力8:左慈役・坂口拓の圧倒的存在感

これは実際に鑑賞すると明白なことだが、成キョウ派として登場する元将軍の左慈は間違いなく本作で異質な存在として観客の目に焼き付くはず。まずは初登場シーンにして抜刀からの目にも止まらぬ太刀筋で3人を斬る様に、一瞬で目を奪われるはず。たったそれだけの(秒にして1秒もないのではないか)剣術で、左慈という“本物の剣士”の姿を垣間見ることになる。

それもそのはず、演じる坂口拓は数々の格闘術を体得した稀代のアクション俳優であり、剣術に関しても俳優の域をはるかに超えた実戦レベル。何よりの証左として本作のアクションパートは終盤の信と左慈の対決から撮影されたそうだが、敢えて手を決めずに“本気で”斬りに来るよう山﨑に指示があったという。そのため坂口の動きはアクションではなく戦闘本能そのものでの太刀裁きとなっており、演じるのではないリアルな動きと殺気がそこで展開されているのだ。

アクション監督の下村勇二と旧知の仲であり、下村監督作の『デス・トランス』や『RE:BORN』で主演を務めている坂口(『RE:BORN』はTAK∴名義)。目下のところ77分ワンカットで挑んだ未完作『狂武蔵』が完成に向けて動いており、さらには下村監督との新作侍映画も控えているので楽しみに待ちたい。余談だが筆者は『RE:BORN』と『狂武蔵』の関係でたびたびご本人とお会いしているのだが、普段(カメラの外)は実にユーモアあふれるお人柄。その証拠に、最近はツイッターで15秒ほどの一風変わったアクション講座を公開して話題になっているので、気になる人はぜひチェックしてほしい。

魅力9:目を見張る特殊造形

漫画の世界観を表現する上で、人ならざる者の姿を映し出すために必要となるのが特殊造形。たとえば前述の楊端和が初めて登場した際に被っている仮面は、ILMで活躍する田島光二がコンセプトアートを手がけたもの。さらに『アイ アム ア ヒーロー』のゾンビメイク・造形が評価を集めた藤原カクセイが造形を手がけている。2人のタッグはほかにも山の民のバジオウやタジフなどのデザインでも見られ、原が漫画という技法で生み出した世界観を立体化することに成功した。

さらに終盤に怒涛のアクションを見せる王宮の処刑人・ランカイは、ボディスーツと特殊脚部装置、特殊メイクで人ならざる異形の姿となった。さらにワイヤーを駆使するなど技術の集合体としてランカイは誕生し、まるで蒸気機関車が突進するかのような迫力あるアクションを作り上げている。ちなみに藤原のツイッターにて楊端和の仮面とランカイの貴重な製作段階写真が公開されているので、こちらもぜひチェックしてほしい。

魅力10:王道をゆく音楽

予告編が公開されると同時に、映像を盛り上げたのが主題歌を担当するONE OK ROCK。壮大な中国歴史絵巻を想起させる映像にぴたりと寄り添う主題歌「Wasted Nights」は、エモーショナルなメロディが耳に馴染みやすい。この楽曲をもって予告編は近年の邦画においてトップレベルの完成度を誇る内容となったが、もちろん本編でも高らかに鳴り響くので、物語の余韻に浸ると同時にじっくり耳を傾けたい。

また劇伴を担当するやまだ豊も、『いぬやしき』や『BLEACH』など佐藤作品の常連作曲家。本作は中国が舞台ながら過度に中国由来の民族楽器には捉われず、言うなれば王道のヒロイックなサウンドに仕上げられている。信が剣を振るうたびに高揚するような“燃え”のメロデイやリズムが勇壮感を引き立て、音によってキャラクターの背中を押すような抒情性も持ち合わせている。歴史モノとはいえ違和感なくデジタル音も導入して、狂気的な力や軍勢の迫力が誇示されているのも音の魔法だと言えるのではないか。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

まとめ

映画化発表と同時に大きな話題を集めた『キングダム』だが、公開後の初週末で6億円を超える大ヒットスタートを記録。壮大なエンターテインメント作品らしいスタートダッシュを決め、どこまで興収が伸びるのか気になるところ。『名探偵コナン 紺青の拳』と『アベンジャーズ エンド・ゲーム』というビッグタイトルに挟まれた形での公開となったが、スタッフ・キャストの情熱が報われる結果となることを祈りたい。

(文:葦見川和哉)

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    ライタープロフィール

    葦見川和哉

    葦見川和哉

    葦見川和哉 映画が好き。旅が好き。小説が好き。 映画開眼と同時に映画音楽の魅力にも取りつかれたサウンドトラック収集家。

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