今年のアニメ映画ベスト1最有力候補! 『心が叫びたがってるんだ。』

■「キネマニア共和国」

今さら説明するほどのことではありませんが、2011年に放映されたTVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(略して『あの花』)がアニメ・ファンのみならず一般にも拡散して大いに話題となり、2013年にはその『劇場版』が公開され、興収10億円を突破する大ヒットとなりました。
その『あの花』を作った監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン田中将賀のトリオが再度結集して作り上げたのが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.26》

オリジナル青春群像アニメーション映画『心が叫びたがってるんだ。』(略して『ここさけ』)です!

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“心が叫びたがってる”4人の高校生

本作には、主に4人の高校2年生が登場します。

幼い頃、お城のようなラブホテルから父親が見知らぬ女性と出ていく姿を目撃し、それを不倫と知らぬまま母に伝えてしまったことから離婚の引き金を引いてしまい、“玉子の妖精”から「言葉を発するとおなかが痛くなる」呪いをかけられてしまった少女・順。

音楽の才能がありながらも、中学時代“あること”がきっかけとなって以降、どこか本音を隠しながら一見やる気なさげに、祖父母とともに生活している巧実。

その中学時代、巧実に告白するも、周囲に冷やかされて、思わず本人の前で交際を否定してしまい、“あること”で傷ついている彼を支えてあげられなかったことを、今も悔やみ続けている菜月。

甲子園を目指し期待されながらも、ひじを痛めてしまい、その鬱憤をはらすかのように野球部の面々を叱咤していくうちに、周りから疎まれていく元エースの大樹。

4人のクラスメイトは、担任の思惑で「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命され、しかも出し物はミュージカルと決定されてしまいます。

クラスの誰も乗り気ではない中、歌ならば声を発することができることに気づいた順は、この企画に前向きに取り組むようになり、いつしか残り3人も、そしてクラスメイトたちも引き込まれて、ミュージカル公演に向かって歩みだしていくのですが……。

言葉が人を傷つけることに過敏な今だからこそ

まず、こうした「心が叫びたがってる」4人のキャラクター設定が秀逸で、特にSNS時代の今、「言葉が人を傷つける」ことに過敏になりがちな若い世代にはたまらないリアリティがあることでしょう。

また、そんな彼らの心を徐々に叫ばせていく要素として音楽が効果的に用いられ、特にベートーベンの『悲愴』や映画『オズの魔法使』の名曲『虹の彼方に』などの名曲がミュージカル用の替え歌として使われていくあたり、高校生が取り組むミュージカルとしても違和感なくはまり、ひいては見事なまでに名曲と現代青春群像劇とのコラボレーションが成立していきます。

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一見、実写でも描けそうな題材ですが、こういった青春ど真ん中のストレートすぎるドラマは、安易に生身の人間が演じると逆に臭く捉えられがちで、正当に評価してもらえないような気もしてなりません。

しかしアニメーションという虚構の映像を駆使すれば、その臭みはろ過され、純粋な青春のきらめきとして素直に体感できるのではないか。

つまり、これはアニメーションという映像技術ならではの賜物である。

本作を見ながら、そう思えてなりませんでした。

(ちなみに前作『あの花』が実写ドラマとなって9月21日にフジテレビ系でオンエアされますが、どのような仕上がりになっているか、今からやきもきしております)

確実に変わりつつあるアニメ映画を取り巻く状況

『あの花』や『ラブライブ!』など、深夜アニメからスタートした作品群がアニメ・ファンだけでなく広く一般から支持されるようになり、一方ではスタジオジブリの長編アニメ映画の製作休止やそれに代わる細田守監督らの台頭、さらには年間100本近くの新作劇場用アニメ映画が公開されるようになってきた昨今、確実にアニメを取り巻く環境が変わってきたような感も無きにしも非ずで、今回の『ここさけ』もそのひとつの象徴たりえるような気がしています。

正直、映画マスコミや映画ファン、特に年配層の間では、アニメを実写と比べて見下す傾向が未だにあるのですが
(一方ではジブリや細田作品みたいなものしか見ようとせずに、それ以外のものを批判する。アニメ映画は絶対に上映しないと決めている映画祭もあります)、
今のこういった状況を見渡すと、一番時代からずれているのはそうしたマスコミであり、逆に偏見のないまま作品として愉しみ評価する今の若い世代の自由な感性にこそ拍手を送りたい気持ちになってきます。

特に今年は、6月に公開された映画『ラブライブ! The School Idol Movie』が、何と今夏のポケモン映画を超える興収25億円を突破するなど、確実にアニメ映画の状況を取り巻く“何か”が変わってきているのを肌で感じます。
ラブライブ!The School Idol Movie(C)2013 プロジェクトラブライブ!
『ここさけ』も『劇場版あの花』の興収を超えることは大いに予測できますが、できれば、それこそ『ラブライブ!』に迫るくらいの大ヒットを望みたいもの。

今、日本の映画でもっとも盛り上がっているのはアニメーション映画であり、本作はその筆頭と呼べるほどに優れた出来栄えなのですから。

とりあえず現時点で、『ここさけ』は私の今年のアニメ映画ベスト1です。

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(文:増當竜也)

映画『心が叫びたがってるんだ。』は2015年9月19日(土)より全国ロードショー
公式サイト http://www.kokosake.jp/

(C)KOKOSAKE PROJECT


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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