映画コラム

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2016年08月11日

「クズとブスとゲス」が全女性必見な理由とは?実は「シン・ゴジラ」だった?

「クズとブスとゲス」が全女性必見な理由とは?実は「シン・ゴジラ」だった?

クズとブスとゲス


(C)2015 映画蛮族



超ヒット作「シン・ゴジラ」とほぼ同時期、7月30日から公開が始まった映画、「クズとブスとゲス」


渋谷ユーロスペースでの単館上映にも関わらず、公開前から新聞・雑誌などに熱い紹介記事が掲載されるなど、各メディアからも注目されている話題作なのだが、その強烈なポスタービジュアルと過激な描写やストーリーなどから、「何か怖そう・・」、「うーん、観に行くのはちょっと・・」など、鑑賞をためらっている方も多いのではないだろうか。確かに、スキンヘッドの凶暴そうな上半身裸の男が、こっちを睨んでいるポスターのインパクトは強烈過ぎるほどだ。

しかし、断言しよう。実は、本作「クズとブスとゲス」は、全女性必見の純愛ラブストーリー!更には、結婚とは、家庭とは何かを問う、深い内容を持つ良質の人間ドラマなのだ。事前情報とその作品内容とのギャップに、是非あなたも劇場で観て、驚いて頂きたい!

ストーリー


見知らぬ女に声をかけては薬で意識不明にさせたあげく、裸の写真を撮って脅迫を働くスキンヘッドの男。ある日彼が毒牙にかけた女は、ヤクザが経営する風俗店に勤める女だった。

一週間以内に200万円を払え、と逆に恐喝されたスキンヘッドの男は、行きつけのバーのマスターに大麻を売りつけて金を作ろうとするが、約束の金額には程遠かった。
一方、恋人のためにまともな職に就こうとしていたリーゼントの男は、マスターから大麻の運び屋を頼まれる。恋人の誕生日祝いの金欲しさに仕事を請けた彼だったが、結局恋人にそれがバレて大喧嘩になってしまう。

一人バーで途方にくれる彼女は、偶然居合わせたスキンヘッドの男の罠にはめられ、200万の肩代わりにヤクザの経営する店で働かされることに。全てを知ったリーゼントの男は彼女を救い出し、スキンヘッドの男の家に殴りこむ。そこに例のヤクザたちも女の行方を追って現れる。運命のいたずらによって交錯する、彼らの行く手に待ち受けるのは、地獄か?それとも希望か?

実は繊細でロマンチストな奥田監督、本作は女性にこそ見て欲しい純愛映画だった!


ポスターのビジュアルと、ストーリーの印象だけでは、「どれだけ残酷で胸の悪くなる乱暴な映画だろう?」そう思われる方が殆どに違いない。

しかし、実際に映画を観れば、きっとその繊細さとやさしさに驚くことだろう。予想に反して女性の裸は一切出て来ないし、殴り合いやヤクザのリンチなど、男同士の過激な描写は出て来るが、女性が直接的にひどい目に合う描写は全く無いからだ。これは奥田庸介監督自身の強いこだわりによるものらしく、安易に女優を脱がせて裸で客を釣るということを嫌ったためだそうだ。

その他にも、リーゼントの男の一見馬鹿で乱暴だが、意外な真面目さと恋人に対する思いやりとやさしさ!この役を演じる板橋駿谷の好演も加わって、劇場で観たら、一目でこの男の魅力にハマることは確実だ。

名前の無い登場人物たち、そこに込められたものとは?


ストーリー紹介を読んで、「あれ?」と思った方も多いと思うが、実は本作の登場人物たちには、一切名前が無い。それぞれ、スキンヘッドの男、リーゼントの男、ヤクザなど、その外見や特徴に応じた呼び名が役名になってはいるが、いわゆる「個人名」で呼ばれることがないのだ。

過去にもウォルター・ヒル監督の映画「ザ・ドライバー」のように、登場人物たちに特定の名前が無い映画は存在しているが、実は本作のこの設定は、映画のテーマである「家族・家庭の大切さ」と密接な関係がある。

本来、個人の名前は、この世に生を受けて一番最初に親から貰う愛情の印=プレゼントのはず。だが、本作の登場人物にその名前が無いということは、彼らが家族から十分な愛情を得ていないことの象徴であり、つまりは既に家族関係・親子関係が破綻していることを意味する。

映画の中で一番子供に愛情と関心を注いでいるかに見える、芦川誠演じるヤクザでさえも、息子の名前を一切呼ぶことは無いくらい、この設定は徹底しているのだが、これも撮影当初からの奥田監督による強いこだわりだったそうだ。この部分に注目して鑑賞するだけでも、登場人物それぞれの置かれた家庭環境と、本作のテーマが明らかになってくるはずだ。

テーマは家族、そして母親の大切さだった!


本作の大きなテーマ、それは家族と家庭、特に母親の存在が人間にとっていかに大切か?という点だ。

実は本作の登場人物は皆、「家族」特に「母親」の存在に囚われており、現在の閉鎖的状況から抜け出せずにいる。一見して強烈な印象を残す、奥田庸介監督が自ら演じるスキンヘッドの男にしても、悪役のヤクザにしても、皆心の奥には家族への複雑な思いを秘めている。

特に、芦川誠演じるヤクザの家庭の描写は、単なる悪役になりかねないキャラクターに複雑さと深みを与えていて、この部分だけを見ても、奥田監督の繊細さが分かるほどだ。セリフに一切頼ることなく、一人息子への愛情と亡くなった妻への想いを表現したこの部分、本当に必見なので是非劇場で!

更には、常に自己主張することなく、回りに流されて生きていたリーゼントの男の恋人が、ラストに取るある決断!

彼女が遂に自分の意思で行動したことは、過去との決別と閉鎖的状況からの旅立ちを意味するのだが、それは同時に自分の母親を捨てることにも繋がる。この部分の残酷な選択なども、奥田監督が女性心理を掴むのが上手いことの証明だと言えるだろう。

最後に


この物語を出来るだけ単純に要約すると、実は次のようになる。

「ある日突然平凡な日常の中に出現した、異質で理解を超える存在により、被害を受け危機的状況に陥る主人公たち。何とかその状況から脱却するが、もはや今まで住んでいた場所は破壊され、以前の生活には戻れない程の被害を受ける。しかし、実は破壊者だと思っていた異物のお陰で、主人公二人は閉塞した日常から脱出し、新たな可能性を求めて生きて行くことを決意する。

うん、これって正に「シン・ゴジラ」の設定そのものじゃないか!鑑賞中、実は自分の中ではそんな脳内変換が行われていた。(これは、あくまでも個人の見解です、念のため)

今年の邦画界はいわゆる「バイオレンス映画」が多かったのだが、この「クズとブスとゲス」は、見終わった後の余韻と一種のさわやかさにおいて、他の同傾向の作品とは一線を画している。実は一見過激で殺伐とした包装を取っ払えば、まるで少女マンガの映画化の様な純粋な恋愛を描いている本作。実際自分が観に行った土曜日夜の回は、意外にも20代女性の一人での鑑賞が多く、既に情報に敏感な女性の間では、口コミで噂が広がっているようだ。

是非あなたも劇場に足を運んで、映画の主人公達と一緒に家族や恋愛・結婚について考えてみて頂きたい。

(文:滝口アキラ)

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