『レディ・バード』タイトルに込められた意味と、本作をより楽しむためにオススメの海外ドラマとは?

 © 2017 InterActiveCorp Films, LLC.

本年度アカデミー賞やゴールデングローブ賞にもノミネートされ、観客からも高い評価を得た話題作『レディ・バード』が、6月1日よりついに全国公開された。

作品の内容や製作規模も関係してか、意外と公開館数が少なく小規模公開となった本作を、今回は公開4日目平日午後2時の回で鑑賞してきた。上映館が少ないためか、平日にも関わらず女性の観客が多く来場しているのが印象的だった本作。果たしてその内容はどんなものだったのか?

ストーリー

2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感溢れる片田舎のカトリック系高校から、大都会ニューヨークへの大学進学を夢見るクリスティン(自称“レディ・バード”)。
高校生活最後の1年、友達や彼氏や家族について、そして自分の将来について、悩める17歳の少女の揺れ動く心情を瑞々しくユーモアたっぷりに描いた超話題作!(公式サイトより)

予告編

『レディ・バード』のタイトルに隠された重要な意味とは?

本作の主人公クリスティンが夢見る、理想の生活と将来なりたい自分。だが厳しい現実の前に、その夢すらも押しつぶされそうな状況の中、彼女にとって言わば最後の砦となっているのが、本作のタイトルにも使用されている、クリスティンのニックネームのレディ・バードという言葉だ。

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実はこの印象的な言葉が、本作を読み解く上で非常に重要な意味を持っていることにお気づきだろうか?

確かに本編中には生徒会の選挙ポスターとして、文字通りクリスティンの顔写真と鳥を合わせたポスターが登場するのだが、実は本作のタイトルの『レディ・バード』とは、以前シネマズに寄稿した『ドント・ブリーズ』の記事でも解説した通り、イギリス英語でてんとう虫を意味する。欧米では、てんとう虫は神の使いもしくは幸運の象徴として非常に大事にされており、しかもこのLADYとは、聖母マリア様のことを指すのだ。クリスティンがカトリック系の高校に通っていることからも、自分のニックネームに幸運の象徴で宗教的な意味合いが強いレディ・バードを選んだ意味の重要さがおわかり頂けると思う。ただ、レディ・バードにはスラングで「みだらな女」という意味もあることを考えると、クリスティンの反抗的な生き方がその中に反映されている様で、実に興味深いものがある。

更に、てんとう虫は3ヶ月程の短期間しか生きられないことから、「心配事や恐怖に怯えていないで、自分を信じて前進し、人生を楽しみなさい」という意味もあるのだそうだ。監督のグレタ・ガーウィグ自身が、マザー・グースの童謡の「lady bird, lady bird, fly away home」という歌詞から、無意識のうちに頭の中に浮かんだのではないか?とインタビューでもタイトルについて答えているので、これからご覧になる方は、是非本作のタイトルに込められた意味にも注目して、ご鑑賞頂ければと思う。
ちなみにグレタ・ガーウィグ監督の答えにあった、マザーグースの童謡の歌詞は以下の様な物。

LADYBIRD LADYBAIRD,FLYAWAY HOME.
YOUR HOUSE IS ON FIRE,AND YOUR CHILDREN ARE GONE.
ALL EXCEPT ONE,AND THAT IS LITTLE ANNE.
FOR SHE HAS CREPT UNDER THE WARMING PAN.訳:てんとう虫、てんとう虫、急いでおうちにお帰りなさい。
おうちが火事になり、子供たちは皆死んでしまった。
でも、一人だけ助かった、それは末っ子のアン。
フライパンの下に潜り込んでいて助かった。

この歌詞の意味を踏まえて鑑賞して頂ければ、ラストシーンでクリスティンが母親に電話をかけて故郷に想いをめぐらせるという描写の意味が、きっとより理解し易くなるはずだ。

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主人公家族の生活をより理解するために、オススメしたい海外ドラマとは?

実は本作で興味深いのが、主人公クリスティンの家族の生活の様子だ。

父親が失業、母親は病院で夜勤の激務、そして兄はスーパーのレジ打ち。決して豊かでは無い、いや、むしろ貧困層に入るクリスティン一家の生活は、あまりハリウッド映画では描かれないリアルな物となっている。これよりも更に底辺の暮らしであったり、黒人社会の厳しい暮らしなどは、逆に映画の題材として取り上げられることも多いのだが、クリスティン一家の様なアメリカ社会の平均的な中間層の暮らしは、実は海外ドラマ、特に30分物のコメディドラマで良く目にすることが多い。

本作に登場するクリスティン一家の生活レベルを、より深く理解するために是非オススメしたいのが、海外コメディドラマの『ザ・ミドル中流家族のフツーの幸せ』という作品。
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過去にBS放送のDlifeでも吹き替え版が放送されていた作品なのだが、現在ではアマゾンビデオでシーズン1が吹き替え版で視聴可能となっている。

『レディ・バード』の中にも、リサイクルショップで卒業パーティー用の服を買ったり、クリスマスプレゼントがかなり低予算?という描写が出て来るのだが、この『ザ・ミドル』でもスーパーの賞味期限切れ間近のコーナーで食品を買う描写が出てくるなど、アメリカの中間層の暮らしがいかに厳しい状態かが理解でき、日常生活にも経済的格差が存在するアメリカの状況が肌で感じられる作品となっている。

更にもう一本、クリスティンが大学に進学してからの都会での生活や初体験のリアルにダメな感じは、レナ・ダナム主演の海外ドラマ「ガールズ」を観て頂くと、更に面白さが増すはずだ。こちらも現在アマゾンプライムで視聴可能なので、機会と時間的余裕がありましたら是非!

最後に

クリスティンの最初の彼氏ダニーのある秘密については、実は学校の外でダニーとクリスティンと女の子の友達3人で会話している際に、ダニーが首に白い貝殻のネックレスをしているの見た段階で気が付いた、という方も多いのでは?

残念ながら、非常にリアルな女の子同士の友情や会話に比べて、その分登場する男の子たちが埋もれてしまっている感が強いのだが、脚本の初期タイトル『Mothers and Daughters』が示す様に、あくまでもクリスティンと母親との関係性に重点を置いて描かれている本作。映画冒頭の『怒りの葡萄』の朗読テープを聞きながら母娘で泣く!という描写でも分かる様に、反発している様に見えて実は同じ性格であるこの母と娘の複雑な関係と微妙な距離感こそ、多くの観客の共感と感動を呼ぶ重要な要因となっているのは間違いない。

女性の方はもちろん、実は男性観客にも女性のリアルな本音が聞けて非常に参考になる本作。時間を作ってでも劇場で見るべき作品なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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