“忠臣蔵”の世界をワールドワイドな視点で 見事に蘇らせた紀里谷和明監督の『ラスト・ナイツ』

■「キネマニア共和国」

“忠臣蔵”といえば日本の時代劇映画&演劇の代名詞的な存在ではありますが、何とこれを題材にした外国映画が、しかも日本人監督のメガホンで作られました……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~ vol.58》

紀里谷和明監督の『ラスト・ナイツ』です!

ラストナイツ


世界中の名優たちを集結させて
日本が誇る題材を見事に映画化


“忠臣蔵”そのものの物語を今さらここに記す必要もないでしょうが、今回の企画はふたりのカナダ人脚本家が“忠臣蔵”を基にして記した騎士たちのドラマに感銘を受けた紀里谷監督がハリウッドで手掛けることになったものです。

そもそも主君の仇討ちというストーリーは世界各国共通のものであり、日本の侍と西洋の騎士にもまた忠誠心といった共通項があるものと思われますので、意外にグローバルな題材であることに日本人自身が一番気づいてなかったのかもしれません。

現に、2013年にも“忠臣蔵”を基にしたハリウッド映画『47RONIN』が日本でも公開されましたが、これは日本に似た架空の東洋の国を舞台にしており、またダーク・ファンタジーの要素を多分に盛り込んだことで、結果的に“忠臣蔵”というよりも『里見八犬伝』でも見ているかのような不可思議な印象の作品になっていました(まあ、それゆえに憎めない楽しさもあるにはありましたが)。

対する『ラスト・ナイツ』の面白さは、武士道を巧みに騎士道に転化させつつも、その奥にきちんと日本の魂といったものを感じさせる作りになっていることで、さらにはそれを具現化するための世界各国のキャスティングがなされていることでしょう。

“忠臣蔵”の大石内蔵助に該当する主人公の騎士ライデンにはイギリス出身のクライヴ・オーウェン。まるで日本のサムライ・スピリッツが西洋人に乗り移ったかのような存在感です。

サブ1


彼の主君バルトークには名優モーガン・フリーマン。“忠臣蔵”における悲劇的主君・浅野内匠頭が青年であったのに対し、ここでは貫録ある殿様に改変しているあたりが妙味でもあり、ここに微妙な東西の意識の違いも見受けられます(思えば『47RONIN』の主君も、ベテラン田中泯が演じていました)。

吉良上野介にあたるギザ・モットを演じるのはノルウェー出身の俳優アクセル・ヘニー。ここではサイコパス的な悪役となっています。

そして“忠臣蔵”の吉良側の剣客・清水一学か小林平八郎かといったイトー役には、我が国から伊藤剛志が抜擢。ここではライデンと同じ騎士として心を通わせつつも敵対せざるを得ない宿命を、その見事な殺陣とともに体現しています。

さらにはライデンの妻ナオミにはイスラエルのアイェレット・ソラー、バルトークの妻マリアにはイランのショーレ・アグダシュルー、ギザモット夫人ハンナ(パク・シヨン)の父でもある良識派の重臣オーガストには韓国の国民的名優アン・ソンギなどなど、よくぞここまで国際的キャスティングがなされたものと感服しますが、これによって“忠臣蔵”から始まる本作のワールドワイド感が増幅されていくことになったようにも思えます。


ラストナイツ


日本の“義”を国の別など抜きにして
世界に向けて発信し続ける豊かな感性


そもそも紀里谷和明監督のフィルモグラフィを振り返りますと、デビュー作『CASSHERN』(04)は人気TVアニメ『新造人間キャシャーン』の実写映画化ではありましたが、ここで紀里谷監督は原作に忠実な映画化ではなく、チェコのアニメなどを含む東欧ファンタジー的な要素を多分に盛り込みながら、映像作家としての己の色を出すことに腐心しており、それゆえ原作ファンなどから激しいバッシングを受けたりもしましたが、私はそんな彼の意欲や今後の可能性という点で大いに注目させていただきましたし、現にその年のベスト・テンにも『CASSHERN』を入れております(おかげで当時、かなり同胞たちから叩かれました⁉)。

続く『GOEMON』(08)は、戦国時代に活躍した天下の大盗賊・石川五右衛門の物語を基に、あたかも『スター・ウォーズ』でも見ているかのような無国籍的な異世界の中でスタイリッシュな活劇を成し得ており、こちらはマスコミの評価も良好ではありました(ただし私自身は、『CASSHERN』のときのなりふり構わぬパワーが陰をひそめてしまっているのが、少し不満でもありました)。

この2作、CGIを過剰なまでに意識して用いたアーティスティックな映像表現が大きな特徴ともいえますし、それまでPVも含めた紀里谷監督の大きな個性ともいえますが、意外なことに今回の『ラスト・ナイツ』にはそういった要素は控えめに、むしろリアルな画を構築するためにCGが駆使されているあたりに、彼の新たな挑戦を感じます。

映画はもちろん画の力が重要ですが、同時に全体の構成などストーリーテリングをおろそかにすると、映画そのものの魅力も薄れてしまいがちで、その伝で申すと前2作の紀里谷作品は画の圧倒的パワーを支えるだけのドラマ構成に対する配慮がやや欠けていたように思えましたが、今回の『ラスト・ナイツ』はそういった短所を見事に克服し、オーソドックスな演出できちんと全体を貫いているあたりに、映画監督としての彼の着実な成長と底力を改めて痛感させられます。
ラストナイツ


紀里谷作品には常に日本独自の“義”の要素があふれているように思えますが、それを国別など抜きにしたワールドワイドな世界観で展開させようとしているあたりに、私などは毎回カタルシスを感じてしまいますし、それが今回“義”の最たる“忠臣蔵”を用いて表現し得ているあたり、溜飲が下がる想いでもあるのです。

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