『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』下ネタと恋愛が融合した「3つ」の見どころ



©2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.



次期大統領候補の国務長官と冴えないジャーナリストという、まるで釣り合わない二人の出会いから恋愛に発展するまでを描いた話題作『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』が、新年1月3日から劇場公開された。

正直、観る前は、セス・ローゲンのコメディにシャーリーズ・セロンが上手く絡めるのか? そんな不安の方が大きかったが、すでに観た人の高評価が公開前からネットでも多数寄せられていただけに、単なるラブストーリーには終わらない作品を期待して鑑賞に臨んだ本作。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものだったのか?

ストーリー


アメリカの国務長官として活躍する才色兼備なシャーロット・フィールド(シャーリーズ・セロン)は、次期大統領選への出馬を目前としていた。そんなある日、シャーロットが出会ったのは、才能はあるものの、頑固な性格があだとなり、現在失職中のジャーナリストのフレッド・フラスキー(セス・ローゲン)。
一見、接点もなく正反対な二人だが、実はシャーロットはフレッドにとって、初恋の人だったのだ。予想外の再会を果たした二人は、思い出話に花を咲かせる。その後、シャーロットは若き日の自分をよく知るフレッドに、大統領選挙のスピーチ原稿作りを依頼。原稿を書き進めるうちに、いつしか惹かれ合っていく二人。だが、二人の間には越えなければならない高いハードルがいくつも待ち受けていた……。


予告編




見どころ1:大人向けの下ネタ+懐かしの90年代カルチャーが満載!



冒頭でも触れたシャーリーズ・セロンのコメディ演技、実はこれが違和感なく見事にハマっていた本作。

特に、フレッドとの関係が彼女の職務にプラスに働くという、爆笑必至な人質解放の交渉シーンは素晴らしく、予想以上に盛り込まれた下ネタギャグにも対応するその演技力には、彼女がコメディもシリアスも対応できる名女優であると改めて認識させられたほど。

どれだけ攻めた下ネタギャグが登場するかは、ぜひ劇場でご確認頂きたいのだが、正直、初デートのカップルが観るには多少注意が必要かも?

それだけでなく、国務長官として寝る時間すらなく仕事に打ち込むシャーロットの姿と、家に帰ってからの私生活で見せる孤独や疲労感との落差を通じて完璧な女性と思われたシャーロットの内面が冒頭から描かれることで、自分らしく自由に生きるフレッドに彼女が心惹かれていく展開が、無理なく受け入れられることになる点も実に上手いのだ。



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もちろん大人向けの下ネタ以外にも、主人公たちの年代に合わせて90年代の人気ドラマや音楽ネタが散りばめられることで、多くの観客が楽しめる内容になっているのも、実に嬉しいところ。

特に、日本でも放送されて人気を呼んだ、90年代人気海外ドラマの代表格である『ビバリーヒルズ高校白書』(以下、『ビバヒル』)や『フレンズ』のネタは、日本人にも理解しやすいものとなっている。

例えば、シャーロットのスピーチの中に『ビバヒル』のタイトルが出てきたり、それを報道するニュースの中で、キャスターがシャーロットのことを、「中身はアンドレア、外見はケリー」と評するシーンがあるのだが、これは二人とも『ビバヒル』の登場人物の役名であり、アンドレアは学級委員長タイプ、ケリーはクラス一の美人タイプといったらイメージしやすいだろうか。

『フレンズ』のネタでは、テレビから映画に進出して成功した女優の例として、ジェニファー・アニストンの名前がギャグに使われるだけでなく、何とフィービー役で『フレンズ』に出演していたリサ・クドローが、シャーロットの選挙チームのリーダーとして登場するというサービスっぷり!



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二人が出会うきっかけが、やはり90年代に一時代を築いたボーイズⅡメンだったり、その他にもロクセットが歌った映画『プリティ・ウーマン』の挿入歌「愛のぬくもり(It Must Have Been Love)」の、最高に印象的な使い方など、まさに90年代に青春を送った人々には堪らない要素が持ち込まれている点も、本作が観客からの支持を得ている理由と言えるだろう。

個人的には、まさか映画『原始のマン』が二人の共通の話題として登場するとは思わなかったので、これには相当笑わされた。

『原始のマン』は、主人公の高校生デイヴの自宅の裏庭から巨大な氷が出現し、氷の中から蘇った原始人が彼と一緒に高校に通う! という、当時アメリカで大ヒットを記録し、日本でも公開されたカルチャーギャップ・コメディなのだが、本編の中でシャーロットが披露するポーリー・ショアの物まねは本当にソックリなので、もしも気になった方は、ぜひ一度『原始のマン』を観て、その完コピぶりをご確認頂ければと思う。

見どころ2:これこそまさに現代のラブストーリー!



現在Amazonプライム・ビデオで配信中の作品に、日本未公開の『ハート・オブ・マン』という映画があるが、実はこれもメル・ギブソン主演による2001年日本公開の映画『ハート・オブ・ウーマン』を、男女の立場を入れ替えてリメイクした作品。

アメリカでの公開は2019年の2月なので、5月に公開された『ロング・ショット』の直前に公開されたことになる。

ハート・オブ・ウーマン(字幕版)

ハート・オブ・マン(字幕版)



もちろん、これ以前から女性の自立や社会進出の厳しさを描いた作品は数多く作られてきたのだが、今や男女の社会的な立場や関係性が大きく変化してきているだけに、こうした男女の立場を逆転させたり、過去の常識に縛られない発想で描かれるラブストーリーこそ、現代に求められている内容なのは間違いない。

しかもこの『ロング・ショット』が凄いのは、単なる男女逆転のシンデレラストーリーには終わらせない、現代の理想の男女関係を描いた傑作に仕上がっている点!

特に、自由な生き方のフレッドを理解しようとして終始彼の側に歩み寄ってくれていたシャーロットに対し、男としての面子から虚勢を張って、彼女の立場に立って理解しようとしなかったフレッドが、ついに己の過ちに気付いて駆けつける展開は、まさに現代における男女の意識変化と、理想の男女の関係性を具現化したものとなっている。

加えて、シャーロットに相応しい男性に変わることを受け入れられずにいたフレッドが、最終的に選択した道こそは、まさに理想の男女関係の実現に対する一つの解決法であり、これから増えていくであろう新しい恋愛の形に他ならない。

もちろん、フレッドに決心させるだけの大きな代償をシャーロットは払ったのだが、同時にそれは、少女時代の自分自身に対して恥ずかしくない存在でありたいという、彼女の生き方や信念を貫いた結果とも言えるだろう。



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こうして、改めてお互いに同じスタートラインに立つことで、そこから共通の目的に向かって協力するという展開は、男性が女性を守り養うという過去の関係性ではなく、お互いにリスクを分け合って同じ目線で生きていくという、明確なメッセージを我々に伝えてくれるもの。

そう思って観ると、ラストのシャーロットの演説こそは、テレビを通じてフレッドに向けられた公開プロポーズだったのでは? そんな考えも浮かんできてしまうのだ。

とはいえ、映画の後半でフレッドと共に夜遊びに出かけた結果、普段の有能な国務長官とは真逆なシャーロットの素の姿が明らかになるシーンには、彼女の女性としての可愛らしい魅力があふれているのも事実。

ここは、まさにシャーリーズ・セロンの演技力の見せどころであり、このギャップで改めて彼女のファンになった、そんな男性が続出しそうな、この『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』にハマった方にこそ、ぜひ観て頂きたい傑作なので、全力でオススメします!

見どころ3:二人の目線の変化に注目!



次期大統領選を狙うシャーロットのスピーチ執筆のために雇われた、現在失業中のジャーナリストのフレッド。良いスピーチを書くためのリサーチとして、彼女の私生活や過去のエピソードを共有するうちに、次第に二人の中も接近していくことになる。

最初は接点のないように思えた二人に、実は思いがけない出会いの秘密が用意されていたり、このカップルに最後の一線を超えさせるための工夫が用意されているなど、細かい部分までちゃんと練りこまれている脚本が素晴らしい本作。

実際、二人がお互いの気持ちを確かめ合うに至るには、かなりの力技による危機的状況が用意されているのだが、その前に二人でMCU映画を観るという伏線が挟まれることで、観客側が無理なくこの展開を受け入れられるのも、実に見事なのだ。

もちろん、そうした力技だけでなく、細やかな描写の積み重ねによって二人の心の動きを観客に伝えることも忘れてはいない本作。

特に上手い! と感じたのが、社会的な立場も外見も釣り合わない二人の目線の高さの変化によって、彼らの関係性や二人の距離感の変化を観客に理解させる点だった。

例えば、お互いの気持ちを確かめ合って初めてキスするシーンでは、二人とも床に座って見つめ合うので、お互いの目線が同じ高さにある。この描写によって二人の気持ちが重なっていることや、お互いの格差は消えていることが観客に示されることになるのだ。

更に、シャーロットが初めてフレッドの前で自分の本心や弱音を告白するシーンでは、シャーロットが床に仰向けに寝ているため、自然とフレッドを見上げる形になるので、二人の立場の逆転と、彼を男性として頼るシャーロットの女性としての弱さが明らかになるのが上手い!

ここから更にストーリーは二転三転、フレッドも男としての厳しい決断を迫られることになるのだが、果たしてこの二人の恋の結末がどうなるのか?

今の時代を反映した二人の選択は、ぜひ劇場でご確認を!

最後に



今回鑑賞したのは、公開初日のTOHOシネマズ日比谷、昼12時の回。この日はお昼の時点で、すでに夜の回までチケットは完売という盛況ぶりだったが、観客の年齢層が高く年配の男性の一人鑑賞が目立ったのは、本来のメイン観客層を若い女性と思い込んでいたので、正直予想外だった。

だが、こうして幅広い観客層が来場していることも、本作にこれだけの高い評価が寄せられている大きな理由なのだと実感できたのも事実。

ネットやSNSにより、実際に出会える範囲よりも遥かに遠くの人々と繋がれるようになった今、ちょっとしたきっかけやアクシデントにより、全く接点のなかった世界や人物と縁ができることが、もはや夢物語では無くなってきている。

それだけに、一昔前であれば荒唐無稽な"おとぎ話"であった本作の設定も、現代では逆にリアルなラブストーリーとして共感できるものとなっているのだ。



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とはいえ、いくら過去に接点があったとはいえ、シャーロットがフレッドを自分の側近チームに引き入れたのは、あくまでも彼の書く記事の内容やライティングのスキルを評価してのこと。

恋愛に外見や社会的地位は関係ないと簡単に夢を持たせるのではなく、やはり評価されるべき何かを持たなければ、その人の内面や本質にはたどり着かないという、厳しい現実の壁も描いている点は、本作が単なる男女逆転のシンデレラストーリーに終わっていない理由と言えるだろう。

加えて、前述した二人の目線の変化だけでなく、フレッドがいつも着ているウインドブレーカーを、夜遊びに行ったシャーロットが着ていたり、映画『プリティ・ウーマン』の挿入歌やボーイズⅡメン、更に映画『原始のマン』など、二人の共通点が巧みに盛り込まれることで、自然と観客が二人の格差を超えての恋愛を受け入れられる点は見事!

中でも印象的だったのは、仕事があまりに多忙なため、話題の映画やドラマの情報は得ているが実物を観たことがないシャーロットが、初めて観たMCU映画に対して、子供のように素直な反応を見せるシーン!

こうした彼女の素の部分が時折描かれることで、フレッドに惹かれる女心が観客にも理解・納得できるのも、実に上手いのだ。

男女共にその外見やキャリアではなく、その人の内面や本質を認め合って一緒にいられるのがベストではないか? そんな理想の関係を我々に提示してくれる、この『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』。

公開館数の関係からか毎回満席状態となっているが、ぜひ劇場に足を運んで頂ければと思う。

(文:滝口アキラ)

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