<映画の領域を超える極上体験>『BLUE GIANT』が劇場をライブ空間に変える!
圧巻!
映画鑑賞中にそんな印象を抱いたのはいつ以来だろう。世界一のジャズ奏者になるべく奮闘する青年と仲間たちの姿を描いたアニメ映画『BLUE GIANT』。これほどまでに熱く、青く燃え盛る情熱の炎を浴びたのは久しぶりだ。
……なんて冷静に語ってなどいられない!
「ジャズのことよく知らないし」と敬遠してしまう人もいると思うが、筆者は声を大にして言いたい。
「この作品は絶対に映画館で観るべき」だと。
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プロプレイヤーが表現したキャラクターの“個性”
石塚真一による同名マンガを原作にした本作は、ジャズに魅了された宮本大がテナーサックスを引っ提げ上京するところから物語が始まる。
やがて大は東京で出会った同世代のピアニスト・沢辺雪祈、そして高校の同級生・玉田俊二とジャズバンド「JASS」を結成。日本最高峰のジャズクラブに立つべく、互いに刺激し合いながら実力を磨き上げていく。
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ジャズマンガが原作でスリーピースバンドの成長を描いた作品とあって、当然劇中では3人の演奏シーンが幾度となく描かれる。そこでまず注目したいのが、JASSメンバーの演奏シーンに起用されたプロプレイヤーの存在だ。
本作では大のテナーサックスを馬場智章、雪祈のピアノを本作音楽の作曲・編曲も務めた上原ひろみ、玉田のドラムを石若駿が演奏。プレイヤーそれぞれが実力を発揮する中で我(が)を主張するのではなく、キャラクターが憑依したように大たち3人の思いや人生そのものを乗せた音色が響きわたる。
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演奏を担当するプレイヤーたちにセリフは一切ない。だが大・雪祈・玉田が生み出す音の一つひとつから、感情が「見える」。テナーサックスを吹くことで、鍵盤を弾くことで、ドラムセットを叩くことでキャラクターの個性と性格が見えてくる。それは例えるなら、原作がマンガにも関わらず「音が聞こえる」と評されたように。
「究極の映像×音楽」あるいは「音楽×映像トリップ」
▶︎『BLUE GIANT』画像を全て見るただの吹き替え演奏ではないからこそ、本作のライブ音楽はJASSの音として胸に響く。クライマックスの没入感に至っては、もはや異常なレベルだ。映像表現の地平を越える抽象的なアニメーションを交えつつ、このまま音が可視化するのではないかという勢いで音楽が押し寄せてくる。
映画音楽とは本来、映像をサポートする役目を担うもの。だが本作では映像が音楽をサポートし、音楽がまた映像に迫力を与える。どちらかが主張するのではなく、絵と音の究極のセッションによって映画という枠組みを超越した世界に観客を誘うのだ。
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映像だけでなく、3人のキャラクターボイスを務めた山田裕貴・間宮祥太朗・岡山天音による名演技の功績も大きい。
映画『100日間生きたワニ』のオリジナルキャラを軽妙なトーンで演じた時とは違い、確固たる自信を声音に乗せた山田。雪祈の性格を言葉の端々に滲ませた間宮と、努力を重ねる玉田の意地を一つひとつのセリフから感じさせた岡山。
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ボイスキャストが3人のキャラクターの“人生”をつくりあげ、プロプレイヤーの音が彼らの鼓動を観客に届けるという共同作業を「最高のコラボレーション」と呼ばずになんと言えばいいのだろうか。
映画→サントラ→映画、止まらないループ
本作を鑑賞したら、ぜひサウンドトラックにも耳を傾けてほしい。いや、そんなお願いをしなくても自然とサントラを探しているはず(筆者はシアターを出た瞬間にチェックした)。JASSのライブ曲はもちろん劇伴もたっぷり収録されていて、その音を聴くだけで映像やキャラクターの感情がよみがえってくる。
ヘッドホンやイヤホンで聴くことによって、各楽器の音色をじっくり楽しめるのもサントラの醍醐味。リズムを司っているのはどの楽器か。メロディラインにはどんな思いが込められているのか。繰り返し聴けば聴くほど新たな発見があるのだ。
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するとどうだろう。「この音を、音楽を、もう一度映画館で聴きたい」と思うようになる。当然劇場の方が音響がよく立体感もある。演奏している場所・環境によって異なる反響音にも、いつしか耳が馴染んでいく。劇場を出たら余韻に浸るべく改めてサントラを流し、三度劇場で聴きたくなる──という無限ループ。
ちなみに本作は音楽に加えて音響へのこだわりも強く、立川譲監督自らが音響監督を兼任。さらに日本を代表する音響効果技師の柴崎憲治も、スーパーバイジングサウンドエフェクトとしてクレジットされている。できる限り音響設備の良いシアターでの鑑賞をおススメしたい。
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映画とジャズミュージックの相性の良さ
▶︎『BLUE GIANT』画像を全て見るジャズに対してハードルの高さを感じている人にとって、本作はその価値観をひっくり返すだけでなく門戸を押し広げてくれるのにうってつけの作品。まずは音楽映画から、映画音楽からジャズの世界を知るのもひとつの方法だ。
たとえば『バビロン』が話題のデイミアン・チャゼル監督&作曲家ジャスティン・ハーウィッツコンビは、『セッション』や『ラ・ラ・ランド』のようにジャズそのものへの造詣が深い。
またアメリカの女性プロ野球リーグを描いた『プリティ・リーグ』は、スウィング・ジャズが隆盛した1940年代が舞台。白熱する試合シーンでは、音楽担当のハンス・ジマーが「Sing,Sing,Sing」などの名曲に触発されたと思しきビッグバンド風スウィング・ジャズナンバー「The Final Game」を披露している。
日本では矢口史靖監督の青春映画『スウィングガールズ』がヒット。近年では、“現代版ジャズ・ロック”をコンセプトにしたバンド「fox capture plan」がドラマ・映画音楽界にも参入を果たしている(『コンフィデンスマンJP』シリーズや3月3日公開『なのに、千輝くんが甘すぎる』など)。
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ジャズ入門編としても、ジャズの“熱さ”に触れる上でも『BLUE GIANT』を見逃す手はない。
最後に改めて叫ぼう。
「『BLUE GIANT』は絶対に映画館で観るべき!」
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(文:葦見川和哉)
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©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館