世界が心揺さぶられた『万引き家族』、作品が訴える現代社会の闇とは?

  (C)2018『万引き家族』 製作委員会 

本年度のカンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の『万引き家族』が同映画祭の最高賞ともいえるパルムドールを受賞しました。

日本映画のパルムドール受賞は今村昌平監督『うなぎ』(97)以来の快挙であり、6月8日の全国公開に向けて、国内は本作の話題で大いに盛り上がっています。

タイトルからしてユニークかつピカレスクに映えるこの作品、まずは……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.311》

まさにカンヌ最高の栄誉を与えられるに足る、映画史上に残る大傑作であると断言しておきましょう!

貧困の中、軽犯罪を繰り返す“家族”
その正体と彼らがたどる運命

『万引き家族』の舞台は、東京のとある下町です。

高層マンションが立ち並ぶ一角の谷間にポツンと取り残されたような一軒のおんぼろ平屋に、父・治(リリー・フランキー)と母・信代(安藤サクラ)、母の妹・亜紀(松岡茉優)、息子・祥太(城桧吏)、そして祖母・初枝(樹木希林)が住んでいます。

一家の生計は信代のクリーニング屋勤務と、治と祥太の連係プレイによる万引き、亜紀のJK風俗、そして初枝の(とある筋からの)“年金”で賄われています。

貧しいながらも一家の仲は良好のようです。

そんなある冬の寒い夜、治と祥太は“仕事”を終えた後、親から虐待を受けていたと思しき5歳の女の子ゆり(佐々木みゆ)を見かけ、そのまま家に連れて帰り、新たな家族の一員に迎え入れます。

春が訪れ、児童相談所の報告でゆり=本名じゅりの行方不明がニュースで報じられますが、彼女は一家とともに生きていくことを選択し、呼び名をりんに変え、髪を切りました。

しかし時が流れて夏、一家にある異変が……。

本作は万引きなどの軽犯罪や風俗業などで生きている家族の絆がユニークに醸し出されていきますが、実はそれだけではない、家族そのものの“秘密”が解き明かされていきます。

同時に、その中から現代の日本が抱えるさまざまな問題が色濃く浮き彫りになっていきます。

それは一体何なのかは見てのお楽しみで、またご覧になる方の捉え方によってはさまざまな解釈も可能なように、あえてメッセージ色を前面に出さず、あくまでも“家族”の映画として(しかも哀しいまでに)屹立させているあたり、人の慈愛をクールに語ることに長けた是枝監督ならではの秀逸な人間讃歌に唸らされること間違いなし。

これまで是枝監督は『誰も知らない』(04)『そして父になる』(13)など、家族とは一体何なのかを問う作品を多く手掛けてきましたが、今回はそこからさらに一歩踏みこんで、現代社会のひずみがもたらす闇が人々の人生にどう関わっていくのか、それゆえに家族のありようはどう変わっていくのか、さらにはそうした事象を通して家族の“絆”と称されるものの正体にまで、わかる人にはわかるように言及しています。

家族と社会、万国共通の要素が
世界中の映画ファンを圧倒

本作がなぜ海の向こうのカンヌで絶賛されたのか、それは家族と社会の関係性という、万国共通の要素に鋭く斬り込んでの描出が世界中の映画人および映画ファンの心を打ったからに他ありません。

また、そういった是枝演出に見事に応えたキャスト陣の好演も特筆もので、ちょい悪オヤジを演じさせたら今右に出る者はいないであろうリリー・フランキー、もうこの人がいるだけで映画の星の数が確実に増えていく安藤サクラ、見た目の色気が心の哀しみと巧みにリンクしている松岡茉優(曾て、是枝監督がダッチワイフの悲しみを描いた異色作『空気人形』を彷彿させるものもあります)、そしてもはや映画仙人のごとき貫禄の樹木希林!

城桧吏と佐々木みゆに至っては画面を突き破って抱きしめたくなる衝動に駆られるほどで、かつて『誰も知らない』で柳楽優弥や北浦愛、韓英恵などを世に送り出すなど、子役の資質を引き出すことに秀でた是枝監督のキャメラアイの賜物ともいえるでしょう。

『そこのみにて光り輝く』(13)などで知られる撮影・近藤龍人&照明・藤井勇の名コンビが構築した映像美(意外にも、これが是枝作品初参加!)はリアリズムの中にファンタジックな情緒を湛え、『銀河鉄道の夜』(85)の名匠・細野晴臣が奏でる音楽との相乗効果によって、現代社会のねじれを巧みに突いた本作の設定から醸し出される、優しくも残酷な寓話性を一層高めてくれています。

正直なところ「賞をとったから」「海外で絶賛されたから」などという美辞麗句にほとんど反応することがなくなるほどにスレきって久しい我が心根を大きく覆すほどの衝撃を与えてくれた作品です。

是枝監督作品の中でも、個人的にはこれが最高峰。

映画ファンの方々は、映画にさほど興味のない方を引っ張ってでも連れて、見てもらいたい。そこまでするに足る傑作であり、己が映画ファンであることに誇りを持てること必至、そしてこれから映画ファンを新たに生み育てること確実な大傑作、それが『万引き家族』です!

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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