映画コラム

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2018年06月07日

「リリーさんの知的な声が作品の邪魔をするのよ」映画『万引き家族』リリー・フランキー×樹木希林是枝組常連対談

「リリーさんの知的な声が作品の邪魔をするのよ」映画『万引き家族』リリー・フランキー×樹木希林是枝組常連対談

6月8日(金)より公開の映画『万引き家族』は『三度目の殺人』『海街diary』の是枝裕和監督が、東京の下町を舞台に、家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりを描くヒューマンドラマ。

息子とともに万引きを繰り返す父親・治のリリー・フランキーさん、初枝役の樹木希林さん、是枝組常連のキャストに対談をお願いしました。




──是枝組常連のおふたりですが、本作ならではのことはありましたか?

樹木希林(以下、樹木):すごくつらかったわ。寒い中、薄着で夏のシーンの撮影をしたの。もう今度こそ(是枝作品は)これでおしまいにしたいの。

リリー・フランキー:それ毎回言ってるじゃないですか(笑)。

樹木:違うのよ、これまではちょっと出るだけの役じゃない。撮影だって1日かそこらよ。今回は盆も暮れも正月も無いような撮影スケジュールだったのよ! しかも、海のシーンなんて台本も何にも無くて、自分の役どころもわかんない状態でいきなり海に行って撮影したのよ。

──海のシーンがクランクインだったんですね。

樹木:そう、暑い夏の日でね。いきなり「こんにちは!」ってみんなで集まって撮影したのよ。なんだか衣装も好きじゃないしさ。

リリー:衣装なんてだいたいそんなもんでしょう(笑)。

樹木:というのが、今回の撮影の印象でございます。

リリー:まぁ確かに真冬にあんな寒い格好で花火を見るなんてことはめったにないでしょう(笑)。




──海のシーンを撮影してからしばらく間を置いて、古民家ロケになったんですね。

リリー:古民家なんてそんないいもんじゃない(笑)。ただの廃屋ですよ。

樹木:そうそう、それがね、廃屋なだけならいいんだけど、ビルに囲まれてる廃屋で。風がビュービュー吹き込んでくるなかで、素足でビール飲んだりして、寒いのなんのって(笑)。今考えただけで震えがくるわ。

──でも映像を見ていると、そんなことはまったく感じさせない、何年も一緒に暮らしたかのような家族の温かさを…。

樹木:そう見せなきゃ撮影が終わんないのよ! 早く帰りたい一心だったわ。でも、撮影は割とすぐ終わったのよ。

リリー:子役もいるしね。

樹木:スタッフもすごく紳士的でね。それはすごくよかったと思います。あなたからは何か無いの?

リリー:まぁ撮影に関しては樹木さんがおっしゃるとおりで(笑)。ただ作品としてはこれまで是枝さんが描いてきた家族という題材の中でもハードコアなところを描いたものかもしれない。




家族って色んな要素をはらんでいて、金銭面だったり、それぞれの性に関してだったり。普通の作品では描きにくいようなところにフォーカスをあてて描いている。まさか是枝さんの映画で、こんなに前張り貼ったり剥がしたりを繰り返すことになるとは思わなかったなぁ(笑)。

樹木:でも、おふたりとも(リリーさんと安藤サクラさん)とても潔い脱ぎっぷりで。きっと脱ぐのが嫌いじゃないタイプなんだと思うわ。

リリー:はげみになります(笑)。

樹木:(2人の裸のシーンは)見ていてとても神々しいものがあったわ。「とっても上手に撮れたわねぇ」ってそこだけは褒めたのよ。

──リリーさんは子役の2人と過ごす時間も長かったと思いますが、距離のつめ方は苦労なく?

リリー:どうなんでしょう。逆に僕らよりも彼らのほうが仕事をしに来ている意識がありましたからね。さっき希林さんが言ったように僕も「よくわかんないけど、つれて来られた」みたいな感覚だったけど、向こうは「仕事をしてやるぞ!」っていう意思を持って現場に来てましたね。

樹木:子役のほうが立派ですよ。志がありますから。とはいえ、子供は子供だからさ、私は苦手だったんだけど、(リリーさんは)とても上手に接していて。怒るときも威圧的ではなくてね、普通な感じで過ごせていて、リリーさんの人柄だと思うわ。

リリー:希林さんはね、逆に子供として接しないでひとりの役者として彼らと接しますからね。こんなちっちゃい子(佐々木みゆ)に「オーディション落ちちゃったの? あんた、自分が芦田愛菜になれると思ったら大間違いよ」とか言って、圧かけてた(笑)。




樹木:あらまぁ、そんなこと言ったかしら(笑)。

──おふたりは台本の無い状態で撮影していたとのことでしたが、そういう環境で子役の子たちは戸惑いはなかったのでしょうか?

樹木:それはないわよ。意味が分からなくても、とりあえず自分の役目を果たせば撮影は成立するんだから。

リリー:戸惑いがあったのは親や事務所のほうじゃないでしょうか。台本がないから、完成するまでどういう作品だかわからない。この作品は軽犯罪や性に関する描写もありますが、「気がついたら自分の子供が万引きするシーンを撮っていた」ということになるわけです。

──本作はタイトルの通り万引きが常習化してしまっている家族を描いた作品ですが、おふたりは「悪いと分かっていてもついやってしまうこと」はありますか?

樹木:今はもう物が多すぎて、捨てられないし、うちから万引きしていってもらいたいくらいなんだけど…。昔は私も貧乏だったし、撮影セットに本棚があったら、その中から読みたい本をちょっと拝借…なんてことはありましたね(笑)。

リリー:戦前の話?(笑)

樹木:戦後よ(笑)。自分のものにしようとかそういうことではないのよ。ちょっと借りて読むつもりがついつい返し損ねてしまってね(笑)。もちろん、悪いことだし社会のルールに反しているのはわかっているのよ。ただ、そういう時代だったって言うのもあるしね。そうやって生きてきた歴史もあるわね、私は。

リリー:希林さん(演じる初枝)が劇中(のパチンコ店)で、人がトイレに立った瞬間に人の千両箱を自分のもんにするっていうシーンがあるんだけど、オレ実際にそういう人見たことあるよ(笑)。

樹木:バレなきゃいいって感じかなぁ(笑)。でも、そういうことって続けるのはよくないわ。

──そういう時期もあるということでしょうか?

樹木:人間の中にそういう悪い部分って誰にでもあるでしょ? それが人間だもの。切羽詰った時には誰だってそういう本性が出てしまうものよ。




リリー:昔はそういう「泥棒」をテーマに描いた作品っていっぱいありましたけど、今はコンプライアンスがどうのこうので『万引き家族』っていうタイトルすら大丈夫か? ってなるくらいですからね。でもね、是枝さんが僕をこの役にしたのは「そういう悪い部分を心の根っこに持ってそうな人がいい」って理由なんだって。複雑な気分です(笑)。

樹木:いやいや、誰だって悪い部分持ってるのよ。みんな、そう。

リリー:「万引きなんて!」って糾弾する人たちの中にも不倫している人がいたり…。

樹木:そうよ、そんなの万引きみたいなもんよ。

──確かに、治たち家族全員が万引き常習犯ですが、ひとりも悪人はいないように感じました。

リリー:劇中のサクラさん(演じる信代)のセリフで「盗んだんじゃないです。拾ったんです。捨てた人がほかにいるんじゃないですか?」ってあるんですけど、これがすべてをあらわしている気がしましたね。

樹木:そうだね。拾ったんですよ。

リリー:この映画は子供たちが主役。子供たちの目線で家族というものを描いていて、祥太がダメな大人たちを見ながら成長していくストーリーでもありますし。

──祥太から見た家族への思いは伝わってきたのですが、治は初枝のことをどう思っていたのでしょうか?

樹木:ただのババァだよ。金づるのババァ! ババァもそれでいいだろうってね(笑)。なのにさぁ、リリーさんの声が知性があるからさ。それが作品の邪魔をするのよ。

リリー:なるべく今回知性を殺したつもりだったんだけど(笑)。

樹木:いやどうにも殺せないのよ、知的な感じが! 私はもう、是枝さんの作品でいっぱいセリフもしゃべったから、もう何言ってんだかわかんなくてもいいやって。自分を壊すつもりで入れ歯をはずして臨んだのよ。役者って面白いもんでね、いくつになっても挑戦できるのよ。




リリー:いや、オレだって、自分の声がこういう(知的な)声じゃなきゃいいのになってクランクイン前からずっと思ってましたよ。わかってるんですよ、自分の声がケラケラ笑いながら万引きしてる下町の兄ちゃんの声ではないって。もっと甲高くて癇に障るような声だったらいいのにって。

樹木:いくら役でもね、「こいつこういう声してるからさぁ」って思うような個性があるといいわよね。でも、リリーさんの場合は、本当に知的過ぎてね…残念よね(笑)。

リリー:最初のほうはね、なるべく甲高く癇に障るしゃべり方してたんだけど、やっぱ素地がないから無理だなぁって(笑)。

樹木:声がいいのも考え物ね(笑)。どんなでくの坊を演じていても、しゃべりだすと「時事放談」なんて言い出しそうなんだもの。

リリー:言ってないでしょ(笑)。

──そういう意味で、初枝がみかんを食べるシーンが本当の初枝を象徴しているようでとても印象深かったです。

樹木:歯を抜いてるからね、ああなるのよ。

リリー:希林さんが何かを食べながらものをしゃべるシーンが僕は好きなんだけど、今回のみかんの食べ方はダントツに気持ち悪かったですね(笑)。是枝さんがよくおっしゃってるんだけど「希林さんが言えばセリフ然としたセリフでもシーンとして成立する」って。

『海よりもまだ深く』の「幸せってのは何かをあきらめなきゃ手に入らない」ってのものそう。今回のみかんのシーンもそうですね。すごくいい台詞なんだけど、あの気持ち悪いみかんの食い方と声で全部持ってかれちゃう。




樹木:芸がないからね、目くらましを使うのよ。それで入れ歯を抜いたの。是枝さんにも「入れ歯抜いてやるからこれで最後にしてくれ」って言ってね。女優が入れ歯抜くって相当なことよ。でも、それをやろうと思うくらいに自分に飽きてもいたの。

リリー:あとビックリしたのは「ここ感動的なシーンで見せ場だろう」と思っていたシーンが完パケではバッサリカットされてる(笑)。

樹木:あぁ確かに、そうかもしれないねぇ。役者が「見せ場だから!」って気合を入れて奮い立ってやったシーンなんか監督からしたら、いらないんだよね。だから、気楽が1番なのよ。優れた監督とやるときは、お任せが1番。肉体が現場にあればいいのよ。

──是枝監督自身のファンの方々も本作を楽しみにしていると思います。

リリー:是枝さんのファンは好きな映画になってると思います。『海よりもまだ深く』がいちばん好きだなぁ、と思ってる人には刺さる映画なんじゃないかと。

あとは是枝さんがずっとテーマとして描いている家族、そして社会現象をどう映画の中に取り入れていくかということ。ネタバレになってしまうから核心に迫る部分は言えないけれども、世界中でおきてる問題に深く切り込んでいる作品になっていると思います。

樹木:長く長く、ひたひたと生きていく作品になっていけばいいなぁと思います。作品の好き嫌いなんて人それぞれだけど、大好きって言ってくれる人もいる。だから評価は人それぞれ、私はその材料としてそこに立っていられたことに幸せを感じます。




映画『万引き家族』は6月8日(金)より、公開(全国順次)です。

(写真:生熊友博、文:NI+KITA)

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