映画マーケットに潰されるな!!才能たち 前篇

■「役に立たない映画の話」

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(C)RVWフィルムパートナーズ

岩井俊二監督の新作は、ユーロスペース中心に公開

先輩  岩井俊二監督の「リップヴァンウィンクルの花嫁」は見た?(3月26日より全国公開)

女の後輩 見ました見ました。もー私、途中から涙が止まらなくて・・。

先輩 女性はそう言うね。対する男たちは、正直なところ、今ひとつピンと来ないんだが。

女の後輩 なんだか私、キュンキュンしちゃいましたあ。

先輩 脳味噌が(笑)?

女の後輩 違いますよお。胸が・・。

先輩 その平べったい胸・・・いや、これ以上言わんとこ。

女の後輩 聞こえなかったふりしてあげます。ともかく、岩井監督の描く女性って、頼りなさげで、でも芯はしっかりしていて。黒木華ちゃんがとっても儚げで、魅力的。

先輩 岩井監督の好みの女性って、昔から変わらないよね。若き日の松たか子に、蒼井優、そして黒木華と、みんな今いる環境に戸惑っている。

女の後輩 そのあたりに、世の女子たちは共感しちゃうんですよ。

先輩 なるほど。ところで「リップヴァンウィンクルの花嫁」の上映館のメインは、渋谷のミニシアター・ユーロスペースなんだねえ。これにはちょっと驚いた。

女の後輩 いつもは、違うんですか?

先輩 東映配給となれば、渋谷地区の上映館は東映直営の渋谷TOEIの1か2になることが多かったんだけど、なんでも今回は岩井監督の希望でユーロスペースになったと聞いたなあ。

女の後輩 他の映画館は?

先輩 新宿バルト9とか、いつものシネコンが編成されているよ。だから、ミニシアターで岩井作品を見たなあ。懐かしいなあ、という人はユーロスペースで見れば良いし、何せ3時間の映画だから、ゆったりした環境で楽しみたいという人は、シネコンを選べば良いと思うぞ。

女の後輩 ユーロスペースって、ネット予約とか出来るんですか?

先輩 いーや。やってない。

女の後輩 なんで岩井監督は、そういう映画館を選んだんだろう?

先輩 やっばり、自分を育ててくれた場だという気持ちがあるんじゃないかなあ?

女の後輩 そーなんですか?

先輩 岩井作品は、渋谷のミニシアターでよくかかっていたからね。というよりも、一時期日本映画の新鋭たちの作品が、ミニシアターにたくさんかかっていた時代があったんだよ。

女の後輩 今でもミニシアターでは日本映画がたくさんかかっていますよね。

先輩 80年からゼロ年にかけては、そこから大きなマーケットに飛躍する監督たちが出てきたのさ。

細田守監督、是枝裕和監督の場合。

女の後輩 昨年の作品で言えば、アニメの「バケモノの子」がそうですよね。細田守監督のデビュー作「時をかける少女」は、最初都内1館、全国12スクリーンでスタートして、ロングランでヒットしたと聞いていますが。

先輩 ブー!!

女の後輩 ちっ!!間違えたか!!

先輩 細田監督の場合、「時をかける少女」の前に、「デジモンアドベンチャー」を撮っているからね。これは1999年3月公開。この公開が全国東映系だったから、「時をかける少女」が全国12館と聞き、そのあまりの違いに愕然としたそうだよ。

女の後輩 そーだったんだ。じゃあ、昨年のヒット作の場合は・・。

先輩 是枝裕和監督が、初めて邦画系のブロック・ブッキングで新作を公開したね。「海街diary」。これのオープニング・スクリーン数が323スクリーン。前作「そして父になる」が309スクリーン。元はといえば、彼の映画監督デビュー作は1995年公開の「幻の光」で、これは今は亡きシネ・アミューズでの公開だった。そこから20年で、ここまでになったのは凄いことだよ。

女の後輩 「凄い」というのは、要するに大きなマーケットにでられることになったという意味でですか?

先輩 そうそう。それってたくさんの人が是枝監督の新作を待ち望んでいるわけだから。

女の後輩 ・・うーん・・そのあたりはちょっとひっかかるものを感じますが・・。

安藤サクラの日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞は、「フラガール」以来の快挙である!!

先輩 先日の日本アカデミー賞の最優秀賞の中継で、是枝監督が「ボクはまだ、ここに呼ばれるようになってから2回しか経っていない」と言ってたけど、あれはそういう意味だろうね。なんたって日本アカデミー賞は、邦画大手の映画会社の社員やOBが会員の多くを占めているわけだから。

女の後輩 インディペンデント作品には冷たいですよね。

先輩 でも、今年は驚いた。優秀主演女優賞の受賞者が壇上に上がったのを見て「え?」って。

女の後輩 どこがですか?

先輩 だって、樹木希林は「あん」で、安藤サクラは「百円の恋」で受賞しているわけだよ。2本ともインディペンデント作品じゃないか。そして最優秀主演女優賞が安藤サクラ!!これはもう、テレビの前で声上げちゃったよ。

女の後輩 確かに、綾瀬はるかでも吉永小百合でもなく、安藤サクラ。それも全国津々浦々で上映されたのではない「百円の恋」での受賞というのは、大きな意味がありますね。

先輩 スピーチの用意も何もしてこなかったんだろうね。とにかく本人が一番驚いたらしくて、その慌て方がまた良かった。これは日本アカデミー賞としては、「フラガール」に最優秀作品賞を与えて以来の快挙だよ。

大きなマーケットに出ることのメリット、デメリット。

先輩 話があっちこっちに行ってしまって申し訳ない。だけど、80年代からゼロ年代にかけて、明らかにこうした「ミニシアター発」の監督たちの新作が、色んな意味で力になっていった。このことは事実なんだよ。

女の後輩 私がひっかかっているのは、大きなマーケットで作品を公開することが、イコール成功ではないんじゃないか?ってことなんです。

先輩 その通りだ。現に岩井監督みたいに、他に大きなコヤがあるのに、渋谷はユーロスペースで上映したいって人もいる。つまり、大きな展開が出来るようになると、自ずとメリット、デメリットが生じるということさ。そのあたりのことは、ちょっと資料を揃えさせてくれよ。また来週ね。

女の後輩 はいはい。

(後篇に続く)

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映画マーケットに潰されるな!!才能たち(前篇)


映画マーケットに潰されるな!!才能たち(後篇)


 

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(企画・文:斉藤守彦)


    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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