『三度目の殺人』から『天国と地獄』まで、面会室でのドラマ

サスペンス、ミステリーといえば捜査の場か法廷が舞台になることが多い。 しかし、その中間地点にある“面会室”でも濃密なドラマが繰り広げられている。

『三度目の殺人』

三度目の殺人

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

是枝裕和監督待望最新作『三度目の殺人』もまた、まさに面会室で濃密なドラマが繰り広げられた。

是枝監督はこれまでも様々な事件を扱ってきました。『誰も知らない』では母親による子供の置き去り、『そして父になる』でも乳児の取り違えを扱っています。

しかし、『三度目の殺人』は今までにないは残忍な殺人事件を描いています。物語の主人公エリート弁護士を演じるのが『そして父になる』以来の4年ぶりの是枝組参加となる福山雅治。

過去にも殺人を犯し再び罪を犯した男を是枝組初参加の役所広司が癖のあるトリックスターとして怪演を見せています。そしてカギを握る少女に広瀬すず、ブレイク作『海街diary』の是枝監督に“すずしかいない”と再び声をかけられたのとのことで感慨深いことでしょう。

この『三度目の殺人』は今年のヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に日本映画として唯一選出されました。是枝監督というとカンヌ国際映画祭のイメージがありますが、ヴェネチアはデビュー作『幻の光』以来の22年ぶりのことになります。

物語は面会室で繰り広げられる

『三度目の殺人』は物語の始まりの時点で、役所広司演じる殺人犯三隅は逮捕されている状態。自然と福山雅治演じる弁護士重盛との邂逅は面会室(接見室とも言いますがここではわかりやすく面会す津で統一します)のアクリル板越しとなります。このわずか1cm程度の透明な壁が両者を隔てます。このわずかな壁が真実にたどり着けないもどかしさを象徴しています。是枝監督が小多利にこだわった接見室での7度にわたる二人の邂逅・攻防は物語のすべてを構成します。クライマックス、アクリル板の反射を利用した福山雅治と役所広司の顔が重なり合うショットは強烈な印象を残します。

面会室で対峙する人々

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

支えたい・・・。支えられない・・・。

当然といえば当然ですが、面会室で犯罪者と一番対峙する機会が多いのは弁護士です。『三度目の殺人』では犯人を演じた役所広司ですが07年周防正行監督作『それでもボクはやってない』では立場が逆で冤罪と思われる痴漢事件の被告となった加瀬亮の担当弁護士を演じています。

また、親族との面会も多く06年の香川照之とオダギリジョーが主演した『ゆれる』、今年公開の妻夫木聡と満島ひかりの『愚行録』ではアクリル板を挟んで兄弟(兄妹)が心の奥底にあったものを吐き出します。これはアクリル板というどうしようもない壁ができてしまったから起きたことかもしれません。

ゆれる

有罪が確定するとその人は受刑者となって、面会を許される人間がグッと制限されます。基本的には親族のみで、あとは特別に許された人だけとなります。場所も拘置所から刑務所へと変わります。

ただし死刑囚となると拘置所にその身を置かれます。死刑囚とも面会は可能ですが、条件はさらに厳しくなるために支援者と養子縁組をしたり獄中結婚をしたりするケースが多いです。この限られた時間と人と共に再審請求について話合ったりします。

刑事訴訟法上死刑執行は確定から六ヶ月以内という規定がある中、死刑囚が43年に渡って確定死刑囚のまま収監され獄死した名張毒ぶどう酒事件を描いた10年の『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』や長期の拘置と死刑執行を停止され釈放された袴田事件を描いた同じく10年の『BOX袴田事件とは』などでは面会室を舞台確定死刑囚と親族、支援者の短くも濃密な邂逅が描かれています。

またなかなか信じられない心境ですが、死刑囚に強烈なシンパシーを抱いて獄中結婚を申し出る女性もいます。小池栄子の女優開眼作08年の『接吻』では豊川悦司演じる死刑囚に強烈な運命を感じ獄中結婚します。また、16年の劇作家赤堀雅秋が自身の戯曲を映画化した『葛城事件』では田中麗奈が獄中結婚を申し出ますが、ここでは死刑反対論者であるということも大きな要因となっています。この2つの映画は共に実際に起きた凶悪事件をもとにしたストーリーといわれています。

葛城事件

面会室で明らかになる真実と心の叫び

死刑囚とジャーナリストという特別な面会の中から物語が始まるのが山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキーの3人の怪演合戦となったのが13年の『凶悪』。俗に“上申書殺人事件”と呼ばれる実際の事件をモデルに映画化したもので、確定死刑囚となった元暴力団組長からの手紙を受けた記者は、警察にも知られていない“先生”と呼ばれる人物が関わった3つの殺人事件の告白を受けて取材を進めていきます。

映画化はされていませんが書籍などでは確定死刑囚とジャーナリストとの文通や面会をもとにしたものが多く出版されています。 ちなみに『愚行録』でも妻夫木聡ジャーナリストとしての顔を持っていて、とある事件を追う姿が描かれます。ミステリー映画ということでネタバレになるので詳細は伏せますが、この追跡取材が満島ひかりとの面会と徐々に絡み合っていきます。 『ゆれる』でも感情が爆発して思いもよらないことが露になるシーンがあります。

凶悪

実際にはまずない“容疑者(死刑確定後)と被害者の面会”が描かれ、結果的に映画を代表する名シーンになったのが巨匠黒澤明監督の63年の傑作サスペンス『天国と地獄』。自分の息子に間違われた運転手の息子のために身代金を用意した製靴会社の社長三船敏郎と誘拐グループのリーダーを演じた山崎努が面会室でぶつかり合います。当時の面会室はアクリル板ではなく金網で遮られていて、その金網が長時間照明を当てられ続けたことで山崎努は金網を握った手に火傷を負った中でも演技を進めて、巨匠黒澤明も唸らせました。

天国と地獄

面会室という空間的にも時間的にも大きく制約を受けた中で限られた人物同士の出逢いの場です。そこには交じり合う人たちもあれば決して交じり合うことのない人たちもいます。

ただ、そこにいる者は“事件”という大きな共通項のもとに出逢っているために、ある部分ではとても近い存在同士となります。そう考えると短いシーンでも強烈な印象を残す濃密なドラマが生まれるというのは自然なことかもしれません。

サスペンス・ミステリーものというと事件層に関わる警察の姿や法廷でのやり取りの部分が目立ちますが、これからはその部分が面会室という場だということを意識して見ていくとまた物語の感じ方に深みが増すかもしれません。

(文:村松健太郎)

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    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

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