『日本のいちばん長い日』以前と以後の映画たち

『日本のいちばん長い日』以後
満州と福島、70年の時を結ぶ『ソ満国境15歳の夏』

さて、多くの日本人は1945年8月15日に戦争が終わったと思っている人が多いようですが、これって実は日本がポツダム宣言を受諾し、全面降伏したことを国民に告げた日であり、実際の終戦は翌9月2日、ミズーリ号の降伏調印式をもってなされています。この認識のずれが、大きな悲劇を生みました。

1945年8月9日、ソ連が日ソ中立条約を破棄して、満州および樺太に侵攻。それは8月15日を過ぎても収まることなく、なんと9月4日までそれは続きました。

松島哲也監督の『ソ満国境15歳の夏』は、そのソ連軍の侵攻によって地獄を見た満州の日本人少年たちの軌跡を、東日本大震災とそれに伴う原発事故で多大な犠牲を被り続ける現代の福島の少年少女たちが追い求めながら、ドキュメンタリー映画を作っていくというものです。
sample©「ソ満国境 15歳の夏」製作委員会

見識なのは、やはり満州の子供たちの悲劇と福島の悲劇を重ね合わせていることで、これによっておよそ70年の時の隔たりが一気に縮まり、何も解決されないまま新たな戦後を生きざるを得ない、そして今後も国に翻弄されかねない今の若者たちに対する覚悟と希望の念を示唆していきます。

映画は福島の少年少女たちが中国の黒竜江省・石岩鎮(旧満州国領)まで招待されて映画を撮るパートと、かつて少年たちが受けた苦難の過去の双方を描いていますが、個人的には、夏休みを通して子供たちが長崎の原爆の悲劇と対峙する黒澤明監督の『八月の狂詩曲』を彷彿させる現代編が興味深く、こちらも10代の役者たちが、撮影を通してそれぞれいい顔になっていくあたりは見ていて頼もしいものがありました。

また今回、現代編で重要な役割を担うのが、田中泯と夏八木勲の二大名優です。特に夏八木勲は既に鬼籍に入られており、本作は生涯現役を貫いた彼の姿を見る最後の映画ともなりました。このふたりの名演を見るだけでも本作は必見と断言しておきます。

きな臭くなってきた現代の日本において、今年の8月15日が過ぎても、また次の8月15日を平和な世界の中で迎えられるよう、祈らずにはいられません。そのために、映画もなにがしかの役に立てるはずです。

©「ソ満国境 15歳の夏」製作委員会
※「ソ満国境 15歳の夏」の上映スケジュールに関しては公式サイトをご確認ください。

今回は劇映画に絞らせていただきましたが、ドキュメンタリー映画でも今の時期『沖縄 うりずんの雨』(ジャン・ユンカーマン監督)『ひとりひとりの戦場 最後の零戦パイロット』(楠山忠之監督)『筑波海軍航空隊』(若月治監督)『天皇と軍隊』(渡辺謙一監督)などの作品が順次上映中です。

『日本のいちばん長い日』はもとより、これら多くの作品群もチェックしながら、戦争とは何かを、それぞれの目で見定めていってもらえたら幸いです。

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(文:増當竜也)

(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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