『仁光の受難』庭月野議啓監督インタビュー「落語のような不思議さと滑稽さに溢れた怪談話を楽しんで」

仁光の受難 ポスター

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『仁光の受難』が長編映画初監督作品となる庭月野監督。世界の様々な映画祭で即チケット完売になったり、東京フィルメックスでも高評価を受けています。今回は庭月野監督になぜ時代劇を選ばれたのか、撮影の苦労などをお聞きしました。

──様々なジャンルの映画があるなかで、なぜ時代劇を選ばれたのでしょうか?

庭月野監督(以下、監督略) この長編を撮る前に短編映画を撮ってインディーズ映画祭にでていました。映画祭っていろんな映画を見られるはずなのに、インディーズ映画は予算の都合上、どうしても現代劇ばかりになってしまいます。

それで現代劇に食傷気味になったというか。自分が映画祭の観客なら現代劇ばかりじゃなく、違う時代の話や違う世界の話も観たいなと思って、現代劇じゃないモチーフというか舞台設定を考えました。

当時僕がは京極夏彦先生の小説にはまっていてたんですが、時代物もあり、妖怪小説で、侍がでてくるとは限らないのです。侍やお城をださなくても低予算で面白い映画時代劇が作れるのではないかと考えました。

戦略的に、プロデューサー的に考えて、自分が映画祭を開く側だと時代劇も1つ欲しいなと思いました。隙間産業じゃないけど、やらないことをやって注目を集めたいというか、差をつけたいみたいなのがあって、ちょっと挑戦してみようかというところからスタートしました。

──京極夏彦先生のファンなのですね。

庭月野 京極夏彦先生と森博嗣先生は勝手に人生の師と仰ぐくらい尊敬していて、そのお二人が好きな小説家の二大トップで、物の考え方や何から全部そのお二人に影響を受けています。

東京フィルメックスのときにQ&Aで「京極夏彦先生のファンで影響を受けて」と話したのですが、お客さんの中に「わかる、わかる」と頷いてる方がいました。

──「巷説百物語」をイメージされていますか?

庭月野 まさに。その中の「二恨坊の火」が題材として近いです。モテるお坊さんが災難に遭うというのから着想を得ています。
お坊さんが主人公で話がかけるなと思い、他にもモテるお坊さんの逸話がないかとを探していた時、史実で延命院事件というのがあり、モテるお坊さんが高貴な女性のお相手をしてお金を稼ぎ死罪になったという事件でした。モテるお坊さんの話はいろいろと残っているなと思ってそこからプロットを膨らませていきました。

──1番印象的なシーンはどこでしょうか?

庭月野 「ボレロ」が流れ、実写とアニメが入り乱れるシーンですね。先人が作った素晴らしい音楽や浮世絵を拝借しているので、そこはうまくできて当然みたいなところがあります。いろいろなものが集約されているシーンなので。

どれだけ狂気を出して、笑いを生むかという感じで。撮影が一番楽しかったのもあのシーンで、仁光に女性たちが群がって、仁光が必死に逃げてる様は、観客が見てても面白いし、撮ってる方も面白くて笑いながら撮っていました。

撮ってるときから面白いものになると、ぶっ飛んだものができるという確信はありました。
そのあたりから仁光の女性を引きつける力が増していくというシーンです。

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──初長編を撮り終えて、どのようなお気持ちですか?

庭月野 撮影後はいつも燃え尽きて、二度とごめんだなという気持ちですけど、やっぱり映画祭などで人に見てもらった時に一番喜びが込み上げてくるので、そこでまた撮ろうと思えるようになりますいます。

ペースが遅いかもしれません。発表して見てもらったときの喜びがないと原動力がわかない。発表したとき皆が見て、楽しんでもらえたときの喜びが何にも変えられない瞬間です。ようやくいま次への意欲が湧いてきています。

──撮影期間はどれくらいだったのでしょうか?

庭月野 計2週間くらい。最初1週間まとめて撮影して、あとは飛び飛びで撮影して、3年後くらいに2日追加撮影しました。

勘蔵の回想シーンとボレロの踊り子のシーンは予算がつきてどうにもならなくて。その2つは時間軸や空間が切り離されたシーンなので、後日一回仕切り直しましょうということで一旦クランクアップしました。

追撮の資金をためつつの3年間です。それが制作期間が4年に伸びた原因のひとつです。
アニメーションを作るのもお金があれば短縮できたのですが、自分でやったので時間がかかりました。

はたから見れば悠長に見えたかもしれませんが、ひとつひとつ積み上げていきました。
30代になって、年齢のせいか焦りがなくなりました。20代のころは早く作らなきゃ、早く発表しなきゃ、早く認められたいと焦っていたのですが、30代になってからとにかく納得できるものをという考え方に変わってきました。

そういう意味では、この作品に関してはとくに、できあがるものに自信があったから、焦って中途半端な状態で出すべきじゃないと思っていて、時間がかけられました。

でも特殊な映画なので、完成図を他のスタッフ・キャストと共有するのがなかなか難しいんですよ。いどういう映画に仕上がるか見えない分、キャストやスタッフは4年かかったことには不安があったと思います。僕はできてしまえば面白いので皆分かってくれると思っていました。完成試写をやったときは皆が喜んでくれました。

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──海外でも高評価と伺いました。

庭月野 前評判がとてもよくて、初回が満席でびっくりして、海外の人にとって設定がキャッチーだったのかなと思いました。無名の僕の名前で客がくるわけないので、情報でいうと、あらすじしかないんですよ。それだけの情報で面白そうと思ってもらえたということでしょうか。

勘蔵役も最初のプロットではいなかったんです。でも海外に持っていきたいなと思ったときに、海外に見せるなら侍がいないとダメかな、侍が興味を持ってもらえるきっかけになるかなと思って、あとからプロットに入れました。

そういう話も海外のQ&Aで「なんで侍を追加しようと思ったんですか?」と質問されました。「だって皆侍好きでしょ?」というとウケました。

話に馴染むなら忍者も躊躇なくいれるんですが、さすがにマッチしないですから。武士とかでてこないと。浮世絵アニメーションも海外ウケを狙ってますね。

──主演の仁光役・辻岡正人さんの印象を教えてください。

庭月野  仁光にぴったりな人だったなと。すごく真面目な一面と、すごく天然な一面を持っている方です。そういうところ面が仁光の「真面目なんだけど、女性にモテてすごく慌ててるところ」と重なって、とても自然に演じて貰えたと思います。

辻岡さん以外では無理だったかなと思うくらいマッチしていました。

作中では模範的な僧侶を演じてもらっていますが、現場でも俳優の鏡というか模範的な俳優というか。キャストをまとめてくださって、ほかの俳優の見本になる姿勢で臨んでくれたので、本当に仁光みたいな人だなと思いました。

辻岡さんはもともと仏教に興味があったらしいです。オーディションの時が、たまたま仏教に興味を持っていた時期で、オーディションにも来てくださって、「どんな条件でもいいです」と言っていただいてすごく協力的で助かりました。今作にかけてくださってるのが伝わってきました。

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──頭は剃ってもらっているのでしょうか?

庭月野 剃ってもらっています。そこは嘘っぽくするのはいやだなと思って、お坊さん役の人はスキンヘッドが条件でした。
そこでキャスティングに苦労しました。スキンヘッドオーケーという人はなかなかいらっしゃらなくて、ほかの役ができなくなるし、ほかの作品にでられなくなるしみたいな。それでもでてくれたのがお寺のお坊さん役の役者さんたちです。

──女優さんたちも大変だと思いましたが、男の俳優さんも大変だったのですね。

庭月野 男性も大変でした。毎日剃らないといけないので。毎朝剃って、剃り慣れているわけでもないので。

──日常が変わるシーンで「ボレロ」が流れますが、「ボレロ」を選ばれたのには理由があるのでしょうか?

庭月野 もともと「ボレロ」が好きだったというのもあるのですが、脚本を書いている時期にバレエの「ボレロ」を見る機会があってたのですが、そのときに踊りの意味を調べました。

テーマは酒場の踊り子が踊りだし、周りの客は踊り子に見向きもせずに飲んでいたら、踊りが熱を帯びていくと客たちも注目しだし、踊りが激しくなってくると、客たちも熱狂していき狂乱の渦になっていくというものです。

それが『仁光の受難』と共通したテーマだなと思って。踊り子に熱狂するお客たち、仁光に熱狂する女たち。二重の意味をもたせています。

すべてをリンクさせることができる曲だと思って。テーマの共通性を見出したときに、すごいスッとシーンにハマったというか、あそこを描くときに必要な曲でした。脚本にも“「ボレロ」始まる”と書いてあります。そのシーンを書くときもボレロを聴きながら書いていました。

海外の質問でもボレロについては必ず聞かれます。自分たちの曲が時代劇に使われるのはどういうことだろうと。説明すると納得してもらえます。

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──キャスティングが難しかったのではないでしょうか?

庭月野  大変でした。条件が厳しくて、男性はスキンヘッド、女性はヌードだったので。男性は和尚のキャストだけなかなか決まらなかったです。年配でスキンヘッドにできる人がいなくて。そこは苦労しました。和尚がでるシーンは撮影の前日に決まりました。

女性も必然性があれば脱いで頂ける方はいますが、役柄によってモチベーションも変わってきます。自主映画なのでとにかく熱意を伝え、色々と条件を交渉して頭キャスティングをしていく感じでした。

山女の若林美保さんはオーディションではなく、探して出演交渉をしました。山女だけは、顔をみたらひと目で男を惑わす妖怪だとわかるビジュアルが欲しくて、美しさと妖艶さを兼ね備えた、顔に説得力があ、スタイルのいい人を探しました。これもクランクインしたあとでした。撮影半分終わってようやくキャスティングができたという感じです。

キャスティングには苦労しましたが、出来上がってみるとキャストはみんな役にハマってて、すごくよかったなと。いま思えばこの配役はこの人しかいないというような感じばかりでした。

──撮影での苦労のエピソードは何かありますでしょうか。

庭月野  キャスティングに限らず、プロデューサーも制作部も兼ね、一人何役もやっていたので、なかなか監督業に専念できないのも大変でした。

ロケハンもキャスティング以上に大変でした。例えば古い建物、東京近郊で日帰りで行ける場所に毎週末遠出して、まずそこに行くまでが片道2~3時間なので一苦労でした。

いい場所があっても、映画のエロテックな内容でNGをもらうことも多かったです。「ここで撮ろうよ」と言いながら帰っていたら、資料を渡して交渉した人から、卑猥な内容かと邪推されお断りの電話がかかってきたりということも多かったです。

毎週良い場所が見つかるかどうかわからないのに遠出して、空振っては温泉入って帰って来るみたいな日々でした。最初はOKといってくれた場所もあとでNGになるとか。

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──映画を楽しみにしているみなさんに一言いただけますでしょうか。

庭月野 予告を見ていろいろ想像されてる方も多いでしょうが。まんが日本昔話や百物語のような民話伝承、落語の怪談話のようなテイストで、こういう不思議で滑稽な話があだったんですよ、ちょっと聞いて行ってくださいなというスタンスの映画です。ぜひ気軽に楽しんで下さい。

日本人ってあんまり映画館で笑わないと思うのですが、遠慮なく笑ってほしい。怪談話とはいっていますが、ホラーではなく、むしろコメディやファンタジーの要素が強い、とても楽しい映画です。

『仁光の受難』は9月23日(土)より公開です。

(取材・文:波江智)

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