第89回アカデミー賞速報&レポート!!アカデミー賞始まって以来の珍事が舞い降りた!!

 ジャスティン・ティンバーレイクが歌う「Can’t Stop Feeling」(『Trolls』の主題歌で歌曲賞ノミネート)のパフォーマンスから幕を開けた第89回アカデミー賞授賞式。

 今年の司会を務めたのは「ジミー・キンメル・ライブ!」でおなじみのコメディアン、ジミー・キンメルだ。司会のポテンシャルで左右されるのがアカデミー賞の授賞式。今年は当たり年だったのではないだろうか。
 天井からアメが降ってきたり(しかも音楽は『地獄の黙示録』の「ワルキューレの騎行」!)、観光客をサプライズで授賞式会場に入れてみたり、挙句はドナルド・トランプのツイッターにリプライを送るというスマートなユーモアに溢れたショウを見せつけた。

『ラ・ラ・ランド』の受賞数は??

ラ・ラ・ランド

(C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.

 さて、今年一番の注目が寄せられていたのは、やはりノミネート段階で歴代最多タイの14ノミネート(13部門)を獲得した『ラ・ラ・ランド』の動向だろう。

 序盤から、衣装デザイン賞を『ファンタスティック・ビースト』のコリーン・アトウッドに譲り、有力視されていた録音賞では強敵『ハクソー・リッジ』に。さらに音響効果賞では『メッセージ』に敗れただけでなく、作品賞を受賞するための大きな弾みとなる編集賞も『ハクソー・リッジ』のサプライズに屈し、脚本賞では『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に完敗。完全に危ういムードが漂ったことは言うまでもない。
 それでも、絶対に落とせない作曲賞と歌曲賞、そして美術賞を獲得し、監督賞では『スキピイ』のノーマン・タウログが85年間守り続けた史上最年少記録を破ることに成功。デイミアン・チャゼルは32歳2ヶ月で、世界最高の映画監督の名を勝ち取ったのである。

 その勢いを保ち、エマ・ストーンが主演女優賞を受賞すると、ふたたびムードが『ラ・ラ・ランド』に戻ってくる。そして、2016年最高の栄誉に輝くことが、もはや至極当然のことに思われた。

 ところが、アカデミー賞始まって以来の大珍事が舞い降り、運命を狂わせた。

今年最大のハイライト

 プレゼンテーターが作品賞で『ラ・ラ・ランド』の名前を読み上げ、舞台に関係者が上がり、スピーチを始めた途端、なんとそれが読み間違えであったことが明らかに。直前の主演女優賞の封筒が行き渡っていたのである。

 代わりに作品賞に輝き、今年の頂点に輝いたのは『ムーンライト』。史上空前の大珍事に、世界中が言葉を失った。これまでこんなことが起こったことは、当然のように一度もない。一度はタイ受賞かもと想起したが、現状のアカデミー賞のシステムではありえないこと。これは何ということだ。

(C)2016 Dos Hermanas, LLC. All Rights Reserved.

 爆笑と驚きに包まれたコダックシアターの光景は、今後のアカデミー賞史に永久に刻まれる二度とない瞬間だろう。もちろん、この後ある程度の批判が出てくることは充分に想定できるが、それでも、『ムーンライト』の逆転受賞は、バリー・ジェンキンスにとっても、配給会社A24にとっても大きな弾みとなるにちがいない。驚くべきサプライズという、最高のエンターテインメントによって迎えられた、この『ムーンライト』の受賞劇に、ただただ賛辞を送りたい。

 既報の通り『ラ・ラ・ランド』の受賞数は6部門にとどまり最多受賞で面目を保った。そして作品賞の『ムーンライト』は3部門の受賞となった。

 そんな珍事も素晴らしいが、個人的にはマット・デイモンとベン・アフレックのコンビがプレゼンテーターとして上がった脚本賞がじつにアカデミー賞らしい素晴らしい瞬間だったように見えた。

 有力視されていた『ラ・ラ・ランド』を下し、戴冠したのは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケネス・ロナーガン。マーティン・スコセッシの弟子として、これまで『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』と『ギャング・オブ・ニューヨーク』で2度ノミネートされている寡作のロナーガンが、ついに受賞を果たしたのだ。

 しかも、対象作の主演はプレゼンテーターのベン・アフレックの弟ケイシー。壇上でケイシー・アフレックの名を3度呼んだのは、かつてジャン=リュック・ゴダールが溝口健二の名を3度連呼したのと同じように、最高の経緯の表明なのであろう。

ホワイト・オスカーからの極端な転換

 昨年のアカデミー賞では、演技部門20人が白人俳優で埋め尽くされたことで「白人至上主義の賞」=〝ホワイト・オスカー〟として大きな批判を生み出した。

 そこから一転、今年はわかりやすいほどに有色人種俳優の活躍が目立った。作品賞に輝いた『ムーンライト』はもちろんのこと、演技すべての部門に有色人種がノミネート。助演女優賞に至っては5人中3人が有色人種女優という、これまでにない事態となったのだ。

 結果的に助演男優賞のマハーシャラ・アリ『ムーンライト』、助演女優賞のヴィオラ・デイヴィス『フェンス』が受賞。演技4部門のうち、2つを有色人種が勝ち取ったのは、ちょうど10年ぶりのことである。

 余談であるが、助演女優賞のヴィオラ・デイヴィス。対象作『フェンス』は日本では劇場未公開でiTunes配信が予定されており、助演女優賞受賞作が日本で劇場未公開になるのは、1980年の『メルビンとハワード』のメアリー・スティーンバージェン以来。もしかすると、今回の受賞を受けて劇場公開に踏み切る可能性も高まったが、今後配信が中心になることも寂しいことだが増えていくのだろう。

トランプ政権誕生の煽りがここでも……

 前日に発表されたゴールデン・ラズベリー賞では、大統領選で敗れたヒラリー・クリントンのドキュメンタリー映画『Hillary’s America: The Secret History of the Democratic Party』が最低作品賞ほか最多部門で受賞するという皮肉たっぷりな事態が起こったが、アカデミー賞の場では真面目にトランプ政権の生み出した問題に立ち向かう。

 トランプ政権が中東7カ国に対して出した、アメリカへの入国禁止措置に、最も過敏に反応したのが外国語映画賞に輝いた『セールスマン』だった。主演女優、そして監督のアスガー・ファルハディまでもが授賞式へのボイコットを宣言したことで形勢が逆転。それまで批評家賞で圧勝を見せていたドイツの『ありがとう、トニ・エルドマン』に替わり、『セールスマン』に投票することこそが、アカデミー会員の為せるトランプ政権への反骨心だと言わんばかりに、賞自体の空気が変わった。

 また、短編ドキュメンタリー賞に輝いた『ホワイト・ヘルメット シリアの民間防衛隊』もまた、一部関係者が入国できないという騒動に見舞われた。こちらは元々本命視されていた作品だっただけに、『セールスマン』とは対象的に授賞を危ぶむ声も上がったのが印象的だ。
 いずれにしても、政治的な問題がこの映画の祭典に影響を及ぼしたと考えると、素直に授賞を喜べないのが正直なところである。来年の外国語映画賞に、多くの国がボイコットを表明する可能性も低くはないだろう。

アカデミー賞受賞一覧はこちら

(文:久保田和馬)

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事