アカデミー賞特集 主演男優賞編:今年は「伝説 vs 未来」

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現地時間3月4日に発表される第90回アカデミー賞。その主要部門を解説していく当コラム。
第3回は「主演男優賞」。例年にも増してスペシャルな雰囲気が漂っているのは、やはり“彼”の名前があるからだろうか。今年の注目すべきポイントを一言でまとめるならば「“伝説”vs“未来”」といったところだ。

ノミネート一覧

ティモシー・シャラメ『君の名前で僕を呼んで』
ダニエル・デイ=ルイス『ファントム・スレッド』
ダニエル・カルーヤ『ゲット・アウト』
ゲイリー・オールドマン『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』
デンゼル・ワシントン『Roman J.Israel,Esq』

ダニエル・デイ=ルイス
『ファントム・スレッド』

© 2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved

『ファントム・スレッド』より

さて、『マイ・レフトフット』 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 『リンカーン』と唯一3度の主演男優賞に輝く伝説の存在ダニエル・デイ=ルイスが登場。対象作『ファントム・スレッド』が、作品賞をはじめ今年の大サプライズを演出したのは、彼の花道を飾るためと言ってもいいだろう。

『ボクサー』のあとに休業を発表し、靴職人をしていたところをマーティン・スコセッシに呼ばれ『ギャング・オブ・ニューヨーク』で復帰。レオナルド・ディカプリオ演じる主人公の敵役という、助演ポジションであったにも関わらず主演男優賞にノミネートされた彼が“伝説”に昇華したのはこの頃からではなかっただろうか。

それ以前から徹底した役作りが注目されてきたデイ=ルイスだが、1作出演したら賞に輝き、そしてそれなりのブランクを空けなければ次に進めないほど役に入り込む。『リンカーン』から5年が経ち、ようやく戻ってきた彼は本作で正式に「引退」の2文字を掲げたのである。

ゲイリー・オールドマン
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』

© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』より

しかし、そんなデイ=ルイスの有終のときに待ったをかけるのが、同じく徹底した役作りで知られる無冠の名優ゲイリー・オールドマンだ。『裏切りのサーカス』でアカデミー賞候補にあがった際に、彼が初ノミネートだということに世界中が驚かされた。どんな作品でも強烈なインパクトを見せてきた彼だが、考えてみればそのほとんどがアカデミー賞で相手にされないようなジャンル映画だったからに他ならない。

とはいえ、アカデミー賞の傾向も変わり始めた近年。彼の出演作の作風こそ大きく変わらずとも、着実に“アカデミー賞っぽい”作品も増え始めている。そこで舞い込んできたのが、元英国首相ウィンストン・チャーチルという大役だ。

例によって徹底的にチャーチルの所作をリサーチしたオールドマン。これまでも多くの俳優が挑戦してきた最近ではマイケル・ガンボンであったり、ティモシー・スポールであったりブレンダン・グリーソンであったりと、まさに英国系俳優のひとつの目標へとなっている。(面白いことに『ハリー・ポッター』出演俳優ではオールドマンが6人目のチャーチルとなるようだ)デイ=ルイスを打ち負かし、“伝説”の称号を手中に収めることができるのだろうか。

デンゼル・ワシントン
『Roman J.Israel,Esq』

そして、もう一人の“伝説”を忘れてはいけない。有色人種俳優として最多の8度目のノミネートとなり、主演も助演も両方受賞しているデンゼル・ワシントンだ。対象作のインパクトは今ひとつとはいえ、すっかりオスカーの常連となったワシントン。

ゴールデン・グローブ賞の直後、有力候補の一角だった『The Disaster Artist』のジェームズ・フランコの過去のスキャンダルが明るみに出たために、形勢が一転。冷遇されたフランコに代わり、なんとか滑り込んだという見方も強いだけに、受賞の目は大きくはない。少なくとも、有色人種俳優の歴史を切り拓いた彼には、あと4度ノミネートを獲得して、ジャック・ニコルソンのノミネート記録に並んでくれることに期待が寄せられている。

ティモシー・シャラメ
『君の名前で僕を呼んで』

(C)Frenesy, La Cinefacture

さあ彼ら3人の“伝説”に真っ向から立ち向かうのは、まだ22歳の新鋭ティモシー・シャラメだ。主演男優賞候補者としては史上3番目の若さ。受賞すれば『戦場のピアニスト』のエイドリアン・ブロディを抜き、最年少での受賞となる。

彼が演じているのは年上の男性に恋する少年の役。作品全体の耽美的なカラーをすべて請け負った難しい役柄を、まだキャリアの浅い彼が見事に演じきっていることに、世界中が驚嘆したのだ。

思い返してみればクリストファー・ノーランの『インターステラー』での息子役であったり、『クーパー家の晩餐会』では個性的な俳優たちの中に自然に溶け込んでいたりと、着実にそのキャリアを築いてきたシャラメ。今年は対象作に加え、作品賞有力候補の一角『レディ・バード』にも出演。“レオナルド・ディカプリオの再来”と呼ばれる彼が、飛躍の年にハリウッドの歴史をすべて塗り替えるのでは、との声が着実に大きくなっている。

ダニエル・カルーヤ
『ゲット・アウト』

(C) 2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

そしてもう一人、昨年の早い段階に公開されサプライズヒットを飛ばした『ゲット・アウト』で主人公を演じたダニエル・カルーヤもノミネートされている。有色人種俳優が2人ノミネートされるのはフォレスト・ウィテカーとウィル・スミスが候補入りを果たした2006年以来11年ぶりのこと。これまでまったく賞レースとは無縁だった彼が、(というか同作で賞レースに上がると本人さえも思っていなかっただろう)存在感を示す。

実は、ダニエル・デイ=ルイスが主演男優賞候補に挙がり敗れた年はいずれも若手俳優が勝ち取っている。1度目は93年。それまでコメディ俳優だったトム・ハンクスが『フィラデルフィア』で受賞し、スター俳優へと華麗なる転身を遂げた。そして2度目は02年。前述したエイドリアン・ブロディの年だ。これはもしかすると、シャラメとカルーヤのどちらかが下剋上を果たすという徴なのかもしれない。

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