『ミッドナイト・イン・パリ』から読み解くウディ・アレンのパリ

第84回アカデミー脚本賞を受賞したウディ・アレン監督作『 ミッドナイト・イン・パリ 』は、近年パリを舞台にした映画の中でも、最もパリという街が記憶に残った映画ではないでしょうか。外国人目線で描かれたパリは、ロマンチック。ウディ・アレンはどのようにパリを描いたのでしょうか。

ロマンチックなパリ

オープニングで映し出される、パリの名所エッフェル塔とモンマルトル

映画のオープニングは、セーヌ川、エッフェル塔、モンマルトルなど名所を中心に美しいパリの映像がジャズに乗せて映し出されます。それはうっとりと酔いしれそうなパリの景色。誰もが憧れを持ってしまいそうなパリです。このロマンチックなパリのイメージは映画全編を通して、貫かれています。映画の中で、パリマジックが消えることはありません。

ギルが美しいと語る、雨の降るパリの街

これらロマンチックなパリは、基本的には主人公ジルの目線から描かれています。カルフォルニアでシナリオライターをしているギルは、パリマジックにかかり浮かれた状態。20世紀初頭に暮らした芸術家のパリについて熱く語ったり、「パリは雨のときが一番美しい」と詩的な気分になったり、少し病的にパリに酔いしれている姿がデェフォルメされて描かれています。

アメリカ人のパリ

アメリカ人も多く滞在する高級ホテルリッツのあるヴァンドーム広場。パリで最もリッチな場所と言われています。

アメリカでは伝統的にパリを舞台にした映画が多く製作されてきました。『巴里のアメリカ人』や『パリの恋人』といった往年のクラシック映画や近年ではマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』など思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

アメリカ人は伝統的にヨーロッパ、特にパリへの憧れが強いと言われています。そんなアメリカ人像がギルに投影されています。ギルはヘミングウェイやフィッツジェラルドなどが暮らしたパリへタイムスリップをして、彼らと交流を持ちます。この時代に憧れを抱くアメリカ人の夢を実現しているようです。

一方で、映画の中ではそういった芸術の都パリとは無縁の現代の上流階級のアメリカ人を描いています。その代表がジルの恋人イネスとその家族です。彼らはアメリカで暮らすようにパリに滞在しています。そこにはフランス人社会は存在しません。移動はタクシー、そして浪費三昧。イネスの「アメリカ以外住めない」という台詞が意味するように、典型的なアメリカ人ツーリストを皮肉的に描いています。

高級な街、パリ

パリの高級ブティックが立ち並ぶモンテーニュ通り。アメリカ人も多く滞在するホテルアテネプラザもここにあります。

ギルとイネス、そしてその家族が滞在するこの街は、庶民的なパリとは程遠く一般的なツーリストがイメージする高級な街パリです。高級なホテル、高級レストラン、エッフェル塔が見える屋上でワインの試飲会など、リッチな側面のパリが描かれています。一方で、ギルが一人で歩き、過去に迷い込むシーンのパリは5区という、庶民的な地区として有名な場所。ウディ・アレンは高級なパリと庶民的なパリを登場人物に合わせて対照的に描いています。

過去と繋がる街パリ

サン・テティエンヌ・デュ・モン教会。ここでギルは過去のパリへとタイムスリップします。

ギルは一人で夜のパリを歩いていると、ある教会の前に辿り着きます。0時の鐘がなると、クラッシックな車がやってきて、おしゃれな格好をした人たちに招かれるままに車に乗ります。ギルは1920年代のパリへとタイムスリップするのです。パリは古い街並みが残る街。過去へ繋がる街パリをファンタスティックに描いています。

ギルが過去にタイムスリップする場所であるこの教会は、ヘミングウェイが書斎として借りていたアパートの近くにあります。「移動祝祭日」の第1章でも、アパートからこの教会の近くを通り、サンミッシェルへと散歩する様子が詳細に描かれています。ここがロケ地として選ばれたのは偶然なのでしょうか。

恋人たちの街パリ

夜の街をギルとアドリアナは歩きます。セーヌ川沿いはロマンチックです。

同作は恋人たちの甘いパリが描かれています。恋人イネスと過ごすパリ、タイムスリップした先で出会ったアドリアナとあてもなく歩き、キスをしたパリ。そして映画の最後に、古物商で働くフランス人女性との新たな恋の予感を感じさせる雨の中のパリ。ギルの恋愛を通して映し出される、パリの街は甘く、ロマンチックです。

ベル・エポックはいつなのか

アドリアナが憧れるベル・エポックのマキシム。現在も当時の内装が残っています。

映画の中で、ギルはベル・エポック(古き良き時代)は1920年代のパリと考えています。芸術が最も華やぎ美しかった時代。そんな時代に生きることができたらと夢を見ていました。そして1920年代のパリにタイムスリップした時、出会ったのがアドリアナです。彼女にとって、ベル・エポックは19世紀。二人がキスをして気持ちが結ばれたあと、19世紀のパリにタイムスリップします。そこで出会ったロートレックたちはルネッサンスがベル・エポックだと言います。アドリアナは自分のいる1920年代は退屈だと言い、彼女に取ってのベルエポックである19世紀のパリに残ることを選択します。

ウディ・アレンは映画の中で、「過去は現在より美しい」という考え方を批判しています。誰もが現在に不満を持ち、過去の話を聞いてはあの時代は良かっただろうと思うものです。しかし、その時代に生きた人もまたその時の現在に不満を持っています。ベル・エポックというのは存在するのでしょうか? ベル・エポックに対する問いかけをしています。

パリに生きるアメリカ人

映画のラストシーンでギルが訪れるシェイクスアンドカンパニー書店。パリに住むアメリカ人が多く訪れます。初代シェイクスアンドカンパニー書店にはヘミングウェイも通っていました。

映画の最後でギルは現在に帰ってきて、パリで生きることを選択します。ここで興味深いのは、アメリカ人が本土に帰らず、異国で生きるということ。パリを舞台にしたアメリカ映画では、主人公は必ずといっていいほどアメリカに帰ります。映画のラストシーンでは雨の中、古物商で働くフランス人女性とカフェに向かいます。これはギルがフランス社会に足を踏み入れる新たなアバンチュールを意味しています。ギルはその後パリでどのように生きるのでしょうか。

最後に

同作のパリは外国人ならではの視線で描かれたパリです。筆者はフランス人には描けないパリだと感じました。フランス人にとってパリは美しい街でありますが、彼らにとって現実がある場所。同じようにパリを感じることはできないのです。同作はロマンチックで美しいパリへ誘います。

(取材・文:北川菜々子)

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