『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は最高のエンタメ作品!政治が苦手な人にこそオススメ!

 ©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

当時のアメリカ政府が泥沼化するベトナム戦争の実体を把握していながら、それでも戦争の拡大・続行を行っていた事実を記した政府の機密文書。その流出と真実の報道を巡る物語を描いた『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』が、いよいよ2018年3月30日から全国公開された。

そこで今回は、スピルバーグ監督とメリル・ストリープ&トム・ハンクスの顔合わせでも話題の本作を、4月1日朝一番の回で鑑賞して来た。ちょうど映画サービスデーということもあり、場内はほぼ満員の盛況振り。政治的なその内容からか、場内は年齢層高めの男性が多かった本作。果たしてその出来はどうだったのか?

ストーリー

1971年、泥沼化するベトナム戦争に対して、アメリカ国内では反戦の気運が高まっていた。国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、ある日7000枚に及ぶその機密文書が流出。

ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープした。ライバル紙に先を越され、ワシントン・ポストのトップでアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走するのだが・・・。

時の大統領ニクソンがあらゆる手段で記事を差し止めようとする中、報道の自由、信念を懸けた“決断”の時は近づいていた。

予告編

女性の社会進出の難しさを描く本作は、劇場パンフの購入がオススメ!

やはり政治や報道の裏側を描く内容だけに、きっと長セリフの応酬と専門用語が続出するシリアスな社会派ドラマに違いない。実は鑑賞前は、そんな印象が強かった本作。
しかし、確かに扱うテーマは政治的な問題だが、実は予想したような難しさは無く、それどころかエンタメ作品として心から楽しむことが出来た。

もちろん、政府が長年隠蔽してきた極秘機密文書の存在と、その告発・掲載を巡る物語だけに、人物の相関図や当時の社会情勢、専門用語などは避けて通れない部分なのだが、そこはさすがに職人監督スピルバーグの腕の見せ所!

告発者が何故資料を持ち出したのかや、何故新聞社や自身の身に危険が及ぶのに真実を報道しなければならないのか?など、登場人物がその行動を取るに至った感情が観客に伝わるので、政治や歴史の知識が無くても、彼らの行動に充分共感出来るようになっているのだ。

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例えば、本作で責任を追及される当時のアメリカ合衆国国防長官のマクナマラも、冒頭の飛行機の中のシーンでベトナム戦争の実体に関するレポートを読み、その実状と政府の発表との違いに異論の声は上げているのだ。ところが空港で報道陣を前にした彼は、政府の方針通りに実状とは正反対の声明を述べてしまう。

確かに国家や政府という、あまりに巨大で全体像が見えない存在が相手では、いくら個人が「これは間違っている!」と思っても、全体の利益や損害を考えたら自身の考えを曲げても国民に不安を与えないようにするだろう。しかもそれが自身の就任前から綿々と続けられて来たのだとしたら、もはや声を上げるのは不可能に近いのではないか?この様に真実の公表が非常に困難であることが、冒頭の部分だけで観客にも自然と理解出来る様に作られているのが実に上手いのだ。

しかもこの部分が、ワシントン・ポストの女性社主であるキャサリンの置かれた状況にも見事に重なるので、周囲を男性役員に囲まれて、女性ということで軽んじられその能力すら疑われている彼女がどう決断・行動するか?その決断へのハードルが更に高まることになる。

更には、自分が門外漢で社主に就任したことをよく理解し、日頃から人一倍努力し資料を読み込んでいたキャサリンの、その地道な積み重ねが終盤の会社役員への説得に効いてくる展開もじつに見事!

こうしてマクナマラ同様、大きな組織のために自身の意見を押さえ込んで来たキャサリンが、果たして人生最大の決断をどう下すのか?
来るべき時に備えて準備と努力をしていれば、必ずそれが役立つ時が来る、そして最悪の状況すら跳ね返せる。そう観客に教えてくれる本作こそ、実は第一級のエンタメ作品と言えるだろう。

ちなみに本作の劇場パンフには、実在のキャサリンとブラッドリーの二人が並んでいる写真も掲載されているのだが、これが二人とも映画の中よりもにこやかで、実に優しそうな表情なのだ。鑑賞後にこの写真を見ると、更にこの二人への興味が深まることは確実なので、その密度の濃い内容と併せて劇場パンフのご購入がオススメです!

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現代だからこそ共感出来る、そのメッセージとは?

勇気を持って政府の機密文書を世間に公表しようとした情報提供者のエルズバーグと、新聞社の将来や利益よりも報道の自由を選んで決断したキャサリン。実はこの二人の行動とその想いが見事に重なる点も、本作の魅力の一つとなっている。

社主だった夫が亡くなったことで、女性でありながらその後任に選ばれたキャサリン。実は彼女も自分でちゃんと意見を持っていて、事前に質問への答えの練習も完璧にして銀行との会議に臨むのだが、やはり自分以外は男ばかりのその場の雰囲気に呑まれてしまい、何も意見を言うことなく会議を終えてしまう。この様に、周囲が男性ばかりであるためにその能力を過小評価され、自身も積極的に表に出ることを好まなかった彼女が、真実の報道と新聞社の社主としての使命感から、無き夫や父の呪縛から自身を説き放つかの様に決断を下すまでの成長が描かれる本作。後述する様に、彼女のこの決断により変わったのが、周囲の男たちの意識だけでは無いことが観客に示されるラストが泣ける!

対してエルズバーグの方は、自ら銃弾飛び交う戦場の中に身を置いて調査した、ベトナム戦争の実情が捻じ曲げられて世間に発表されたことで、ついにこの真実を世間に公表しようと行動を起こす。

キャサリンとエルズバーグ、それぞれ会社と政府という巨大な存在の利益と安全よりも、報道への使命感と自身の心の声に従って決断・行動した二人の勇気が、やがて大きな社会現象へと波及することになる終盤の展開は、どんなに巨大な相手でも決して見て見ぬ振りをせず、一個人が声を上げることがいかに大切かを我々観客に教えてくれるのだ。

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実は本作で重要なのは、映画序盤で描かれるワシントン・ポストの記者が大統領の娘の取材から締め出しをくらうというシーンだ。そこでトム・ハンクス扮する編集主幹のブラッドリーは、この報道規制の事実を他の新聞社に電話して知らせるように命じる。きっと他の新聞社が協力して取材内容を提供してくれるはず、との考えからだ。実際彼の考え通り、他の新聞社が取材した結婚式の写真がワシントン・ポストに届けられるのだが、こうした報道する側の横の連帯や大統領の報道規制に対する不満が、後に暴露記事の掲載への戦いを続けているワシントン・ポストへの、ある強力な援護射撃となって現れる描写は、正にアメリカの報道機関が正常に機能していることを示すものなのだ。

孤立無援の闘いと思われたワシントン・ポストに対して、果たして他の新聞社が取った行動とは何か?

そこに込められたメッセージこそ、最近話題となったゴールデン・グローブ賞に出席した女優・俳優の多くが黒の衣装を着用する「Time’s Up(時間切れ)」という、セクシャル・ハラスメント撲滅を訴える運動にも通じるものなのだ!

見て見ぬ振りはもうやめよう!本作に込められたこのメッセージこそ、正に現在の我々にも共感出来るテーマと言えるだろう。

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最後に

本作で一番印象に残ったシーンは、実は以下の部分だった。

裁判が終わり、裁判所の前で大勢の記者やメディア取材陣に囲まれるニューヨーク・タイムズの人々を横目に、同じ法廷にいたキャサリンとブラッドリーは報道陣を避けて、裁判所の階段を降りて立ち去ろうとする。そんな彼女を階段に詰めかけた名も知らぬ女性たちが決して直接話しかけることなく、しかし確かなアイコンタクトで彼女に無言の声援を与えて見送るシーンがそれだ。

実はこの女性達の姿こそ、キャサリンがそれまで置かれていた状況そのものなのだ。キャサリンの勇気ある決断が、名も無き多くの女性達に将来の希望と力を与えたことが判明するこの描写は、やがて訪れる女性の社会進出と力の増大を予見させて実に見事!

しかも本作の結末が、実は後の新たな大問題を生む事を示して終わるエンデイングは、正にマーベル映画のあの終わり方では無いか!もしかしてエンドクレジット終了後に何かオマケ映像が?そう思って最後まで席を立たずに観てしまったのだが、さすがにそれは考え過ぎだったようだ。

このラストの展開を楽しむためにも、出来ればまだ上映中の劇場もある『ザ・シークレットマン』を、本作鑑賞後には是非観て頂きたいところなのだが、更に時間と余裕のある方は、『ペンタゴン・ペーパーズ』と同じ日に公開された『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』も併せて鑑賞して頂くと、絶対的に不利な状況でも戦争を止められない、首相や政府の気持ちも理解することが出来て更に本作を楽しむことが出来るのでオススメだ。

個人の信念や正義感に従うべきか?それとも、会社全体の利益や将来を取るべきか?文字通り「究極の選択」を迫られる人々の、緊迫した状況下の人間ドラマが描かれる本作。

ただ、ブラッドリーの娘さんのレモネードの売り上げがトンでもないことになる!描写など、どうしても政治問題が中心で難しい内容になりそうなところを、スピルバーグ監督は見事なユーモアで味付けしてくれるので、難しい政治ドラマは苦手という方も安心して劇場に足を運んで頂ければと思う。

スピルバーグ監督は、やはり今回も期待を裏切らなかった!そんな満足感で劇場を後に出来る本作、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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