『リバースダイアリー』なるラブストーリーがもたらす数々のフェイクの面白さ!



 (C)CiNEAST



このところ国内インディペンデント映画の秀作や意欲作が非常に増えてきている感があります。

かつては良くも悪くも自主映画としてみなされ、しかしながらメジャー映画会社が若手の育成を放棄して久しい中、新たな才能はインデイペンデントの世界から着実に生まれ育まれているといっても過言ではない昨今、特にここ数年はユニークな作品が頻発しています。

もちろん5月26日より東京・渋谷ユーロスペースにてレイトショー公開される園田新監督の『リバースダイアリー』もその1本ですが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.310》

これがまた何とも先行き予測の不可能な、ロマンもミステリも、そしてサスペンスも、ついにはスリラー要素まで含まれた、“リバース”をキーワードにしたユニークなラブ・ストーリーなのでした!

男と女、運命の出会いは
偶然か必然か?



『リバースダイアリー』の主人公・白石理人(小川ゲン)は、小説家を目指しつつも実質はゴーストライターの身に甘んじながら、悶々と日々を過ごしている青年です。

そんな彼がある日突然、ストーカーに付きまとわれてるという女性、本田沙紀(新井郁)に声をかけられ、咄嗟に恋人のふりをさせられてしまいます。

その直後、理人と沙紀はDVDレンタル屋で偶然にも再会し、成行きで一緒に映画を見る羽目に。

女優志望だという沙紀に、どこかしら翻弄されつつ、次第に惹かれていく理人。

彼は数年前、フライト直前にキャンセルした飛行機が事故に遭ったという過去があり、いつしか沙紀と出会うために自分は生かされたのではないかと思い詰めているかのように、彼女に夢中になっていきます。

しかし、そんな理人に沙紀の妹・綾(小野まりえ)は、「姉とは決してわかりあえるときは来ないですよ」と、冷たく釘を刺すのでした。

そして笑っているときに実は泣いているかのような、どこかしら鏡のリバースのようにも映える沙紀は、理人のプロポーズを受けて結ばれた直後に、何と……!



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「リバース」の魅惑を
映画的に描出し得た瑞々しさ


これ以降を記してしまうとミステリのネタ晴らしになりかねないので避けたいところですが、本作は「偶然」と「必然」という、あたかも合わせ鏡のように屹立した運命の関係性を流麗に、そして繊細に描出しながら、『リバースダイアリー』というタイトルにふさわしいミステリアスでロマンティックな世界観を確立していきます……。

と、実はここまでが前半で、後半は何とまたガラリと、それこそ“リバース”といった風情で視点を変えて、しかもスリリングにドラマが転換していくのですが、それもまた見てのお楽しみ。



 (C)CiNEAST




このように幾重にも仕組まれた魅惑的なストーリー展開に加え、『CSIマイアミ』『リベンジ』などハリウッド海外ドラマを手掛けた撮影監督トム・シュナイトによる4K画質の映像美、大ヒットTVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』などで知られる末廣健一郎の音楽など、画と音、そして着実な俳優陣の演技が三位一体となって展開されていく不可思議な映画的情緒が、本作の身上ともいえるでしょう。

監督はニューヨークに留学して映画制作を学び、TVデイレクターを経て2007年に初長編映画『Wiz/Out』を発表。2013年には釜山国際映画祭主催のアジア新進映画作家支援プログラムAsian Film Academy“AFA”監督として選抜された園田新。

本作は園田監督自らのオリジナル脚本を基に、自己資金とクラウドファンドによって制作を敢行。また役者陣にはおよそ3か月にわたるワークショップ形式で役作りを示唆し、さらには配給・宣伝など”参加型の映画”を目指しながら、インディペンデントならではの持ち味をフルに活かした製作体制が、作品の資質そのものに貢献し得ていると思しきものもあります。

業界ズレしたオヤジ目線で見据えると、主人公青年の悩みなどやや青臭くも照れ臭く感じる箇所などもないわけではありませんが(まあ、ゴーストライターっていくらギャラが良くてもどこか空しいものですけどね……って、なんで私がそんなこと知ってるんだ⁉)、それ以上の瑞々しさのほうが大いに勝るという点においても、ささやかながらこの作品及び関わったスタッフ&キャストの今後を応援していきたいと思わせてくれる所存です。

本作はロンドンフィルムアワード最優秀作品賞(長編部門)を受賞。その他、10を越える国内外の映画祭で絶賛され、満を持しての日本劇場公開となります。ぜひこの機会に、未来にはばたくであろう才人らの成果をご覧になってみてください。
(なお、繰り返し見ることで、実は劇中さまざまな伏線が巧みに張り巡らされていることにも気づかされることでしょう)

(文:増當竜也)

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